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歌を唄う猫の夢

定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。

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[ -Recollection- ]

 ――貴様が我らと同じ梟種だと? ハッ、笑わせてくれる!


 神とは、醜い言葉を口にせぬ高尚な存在ではない。

 わかっていた。

 そのようなことは、最初からわかっていたのだ。

 -+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
 -+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-

 宵闇は静寂に満ちて。
 ホゥ、ホゥと木霊するはコタンコロカムイの祈り。

 すなわち、シマフクロウの鳴き声だ。

「腐るな、弟よ」

 巨大な羽で空気を打ち、隣の枝に降り立ったフクロウを一瞥したきり、阿瑠羽庵はプイと顔をそむけた。
 子供のように拗ねる弟の態度に、兄鳥である大嶽丸は苦笑する。

「胆沢の五国に代替わりがあったからな。此度は風向きが悪かった。
 あそこは神尊の血統支配が根強く残る地域だ。
 かような雰囲気の場で、如何に私といえど、お前を推挙することは出来ぬよ」

 解っている。
 そのようなことは、解っていたのだ。
 阿瑠羽庵は、もっと根源的な部分で己の浅はかさを感じ入り、腐り果てていたのだった。

 すなわち、誰かを頼ろうとしている自分に。

「それに、お前の神位授与は来期の方が確実よ。
 お前の大事にしている姫君が、初めて奉納舞に参加するのだろう。
 トキジクの里なら、諸手をあげて賛同してくれようさ」

 結局、そこに行き着くのか。

 ――コタンコロカムイ。
 村の守り神と和訳されるアイヌの神位は、年月を経て神格化したフクロウが就くものではない。
 外敵を排除する実力と、守護対象たる村落に求められることが条件。
 されば、始原の神鳥たるコタンコロカムイの御霊から神力を分け与えられ、神の一席に立つことを許される。

 阿瑠羽庵は、実力の面では生え抜きといって良い。
 シマフクロウ種の血統しか成れぬとされる神位を伺えるワシミミズク種、というだけで解ろうものだ。
 苛められ、貶められる環境で、喧嘩しながら磨いてきた実力は群を抜いている。
 お蔭で身体は傷痕だらけだが、神位に近づけられるほど高潔な心を維持できたのは一人の精霊の力に負うところが大きい。

 精霊の宿る蕗葉に名づけられし"夢猫の一番傘"で最も年若き姫。
 陽媛(フレィア)こと、後の夢猫ふれあのことある。

「大嶽丸。あんたはどうやってコタンコロカムイに成れたんだ?」

 無遠慮に尋ねる。
 養子の義兄とはいえ、兄を兄と思わぬ態度だったが、大嶽丸は気にしない。

「私か? 私はもちろん、暗示や洗脳、あるいは人質を取って信頼を集めたのさ」

 けろりと言ってのける答えは、阿瑠羽庵の期待するものではなかった。
 いつもの冗談。悪びれることを趣味とする義兄の、くだらない冗談。

 そも、大嶽丸なるコタンコロカムイは外様の一鳥である。
 北方は樺太より渡ってきた旅の風来坊。
 鳥種はシマフクロウであるため、種族的な条件はすんなりと通過したのだが、出自は余所者には違いない。

 かような縁があってこそ、彼は阿瑠羽庵の後継をかって出たのであるが。

「俺はそんなに上手くやっていける自信はねェ。
 世渡りなんて、この世で最も苦手な分野だ」

 吐き捨てるように呟く。
 大嶽丸は毛並みをぶわりと膨らませながら、くつくつと笑った。

「面倒な性分だな、お前は。最初だけ、ちょいと騙くらかせばいいだけなのにな」
「……それが神様の言うことかよ」

 氷上の地域で第二の実力をもつコタンコロカムイは、愚弟の言葉を涼しげに受け止めた。
 余談だが、頂点に立つのは彼らの養親だ。すでに老境に入り、耄碌している節もある。

「安心しろ。各方面を騙すのは、私が引き受けてやる。
 お前は自分のために、我侭に、神位を手に入れりゃいいさ」

   それが、種。

   いずれ至る国崩しに繋ぐため、崇高な神位を我欲の祟りに繋ぐ。
   災厄が萌芽すれば、あとは転がり落ちるように破滅していくだろう。
   さすれば、歳月を賭した大掛かりな魔術の実験が実を結ぶ。

   収穫の時期が、とても、待ち遠しい。

「大嶽丸? 何か言ったか?」
「ああ。お前がカムイ(神)の仲間入りをする日が、とても待ち遠しいと言ったのだよ」

 恥ずかしい台詞をのうのうと言ってみせる義兄。
 阿瑠羽庵は、照れ隠し気味に視線を逸らした。

 ホゥ、ホゥ。と、夜陰にフクロウとミミズクの鳴き声が響く。
 カムイコタンの森における、ほんのひとときの安らぎの物語。

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ふらふらと漂う木片。
つれづれなるまま、
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