歌を唄う猫の夢
定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。
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――これは、数ヶ月前の物語。
「メルト!」
雲ひとつなく澄み渡る蒼天の空に、 心を震わせる優美なチャイムの音色が響き渡る。
退屈な授業を終え、騒然としはじめた講堂に、ひと際目立つソプラノが一人の名を呼んだ。
「メルト!」
雲ひとつなく澄み渡る蒼天の空に、 心を震わせる優美なチャイムの音色が響き渡る。
退屈な授業を終え、騒然としはじめた講堂に、ひと際目立つソプラノが一人の名を呼んだ。
「……ノエル」
聖アンゲロス学園の制服にチェックのスカートを穿いた少女は、憮然とした態度で振り返る。
少女――あるいは、少年。
無性であるが故に男性体とも女性体とも判別できない彼らは、"天使"とカテゴライズされていた。
敬虔なる神の御子。御使い。神の尖兵。ヤハウェの操り人形。
尊敬、蔑視、様々な仇名で形容される彼らは、物質界に蔓延する人間という生命体によく似ている。
頭上に輝く光輪と、背に煌く白翼が無ければ、の話だが。
莫逆の友とも呼べる大親友に声をかけられても、メルトの機嫌は晴れない。
「何の用だ」
「聞いて。私、聖務を仰せつかったの」
名も知らない別クラスの生徒も混在している、このような場所で話すべき内容ではなかった。
メルトは緊張に背筋を凍らせながら、視線を走らせ、周囲を伺う。
どうやら、聞き耳を立てている者はいないようだ。
しかし、ノエルはお構いなしに続けた。まるで、メルト以外の誰も目に入っていないかのように。
「熾天使室から直々にお声がかったの。是非私にお願いしたい、ですって!
夢みたいだわ。孔雀の君の勅命を、この私が遂行するのよ」
満面の笑みを浮かべながら、独楽のように回転して幸せを体現する友人を、メルトは冷ややかに見る。
「熾天使室の聖務なら、赤い竜絡みの仕事に決まってる。何が嬉しいものか、僕には全然理解できないね」
「………喜んで、くれないの?」
「親友が、軍団長の露払いに殉じて死ねと命じられていて、素直に喜べるものか!」
つい、声を荒げてしまった。
異変に気づいた学友の数人が振り返った。もう構うものかと、内心で毒づく。
親友はずっと、孔雀の君に憧れていた。舞い上がっている彼女に何を言っても無駄だろう。
結婚詐欺を気づかせるようなものだ。縷々綿々と話を続けても、どうせ意味のない結果に終わる。
せめて友情だけは失いたくなかった。
密やかな愛は、壊れるとしても。
「死なないわ、メルト」
混濁した感情が、表情に出ていたのだろうか。
ノエルはそっと、メルトの頬に手をさしのべる。ひんやりとした掌が激昂の熱を奪っていく。
視線を合わせると、彼女は微笑んでいた。慈愛に満ちた、柔らかな眼差しで。
「たとえ聖務の内容が堕天に触れることでも、きっと私は戻ってくる。
私が還ってくる場所は、いつだって貴方の処」
メルトは言葉を返すことが出来ない。
信じたくても信じられないという気持ちに、端正な顔が歪む。
莫迦ね、と目前の少女は呟いた。
刹那の交差。乾いた唇に、濡れた唇が重ねられて。
「聖ウァレンティヌスの誓いよ」
恥ずかしそうに口元を隠す親友に、心が空白に掻き乱される。
「貴方は、キューピットになるのでしょう?
世界を愛で満たす、祝福の天使として再誕するのでしょう?
……これが最初の一歩。
寂しくなったら想い出して。私の想いは、常に貴方の傍にいる」
――篝火に赤く照らされながら、メルトは静かに語り終えた。
世の中が美しく見えていた頃の、ほんの小さな、だけど大切な想い出。
「バレンタインには、奇蹟が起きるのですよ」
物憂げな相好には、かすかに悔恨の色も読み取れて。
黙って聞き終えた旅の仲間は、メルトの頭上に鍛え抜かれた無骨な指を伸ばす。
わしりと掴み、ぎりぎりと締め付ける。まるで万力の如く。いたいいたいいたい。
「生まれてニ、三ヶ月って自己紹介してたのは何処のどいつだ」
「あれ、おかしいです。ここは感動するべきところです?」
「その話が本当なら結末がどうなったか聞き出したいところだが、その前に現実を直視しろ」
見れば、すぐそばで凄まじい剣戟が繰り広げられている。
もうひとりの仲間が、襲いくるサンドゴーレムやチープゴーレムの群れと死闘を繰り広げていた。
「駄天使! 正気に戻ったなら、早く矢の神通力を解除しろ!」
ゴーレム達には、桃色の可愛らしい矢が刺さっていた。
そして、彼らの瞳らしき部分はハートマークになっていた。
「バレンタインか何かしらないが、無機物にまで愛を強請するな、愚か者!」
重厚な破壊力を漲らせて、野生のゴーレムは砂擦れのじゃりじゃりした声で叫ぶ。
私の愛を受け取って、と。それはもう、パラフィリアな恋衝動に突き動かされるままに。
「わかるか? 俺たち大ピンチ。遺跡外に帰還する疲労ピークなタイミングで、なんてことしてくれやがった」
前略、ノエル様。
走馬灯が見える今日この頃、如何お過ごしでしょうか。メルトは立派なキューピッドになれました――。
+斜+[No.989 文章が好き! -イベント名:シークレット・キーワード/第一部:文章を書こう!]-斜-
聖アンゲロス学園の制服にチェックのスカートを穿いた少女は、憮然とした態度で振り返る。
少女――あるいは、少年。
無性であるが故に男性体とも女性体とも判別できない彼らは、"天使"とカテゴライズされていた。
敬虔なる神の御子。御使い。神の尖兵。ヤハウェの操り人形。
尊敬、蔑視、様々な仇名で形容される彼らは、物質界に蔓延する人間という生命体によく似ている。
頭上に輝く光輪と、背に煌く白翼が無ければ、の話だが。
莫逆の友とも呼べる大親友に声をかけられても、メルトの機嫌は晴れない。
「何の用だ」
「聞いて。私、聖務を仰せつかったの」
名も知らない別クラスの生徒も混在している、このような場所で話すべき内容ではなかった。
メルトは緊張に背筋を凍らせながら、視線を走らせ、周囲を伺う。
どうやら、聞き耳を立てている者はいないようだ。
しかし、ノエルはお構いなしに続けた。まるで、メルト以外の誰も目に入っていないかのように。
「熾天使室から直々にお声がかったの。是非私にお願いしたい、ですって!
夢みたいだわ。孔雀の君の勅命を、この私が遂行するのよ」
満面の笑みを浮かべながら、独楽のように回転して幸せを体現する友人を、メルトは冷ややかに見る。
「熾天使室の聖務なら、赤い竜絡みの仕事に決まってる。何が嬉しいものか、僕には全然理解できないね」
「………喜んで、くれないの?」
「親友が、軍団長の露払いに殉じて死ねと命じられていて、素直に喜べるものか!」
つい、声を荒げてしまった。
異変に気づいた学友の数人が振り返った。もう構うものかと、内心で毒づく。
親友はずっと、孔雀の君に憧れていた。舞い上がっている彼女に何を言っても無駄だろう。
結婚詐欺を気づかせるようなものだ。縷々綿々と話を続けても、どうせ意味のない結果に終わる。
せめて友情だけは失いたくなかった。
密やかな愛は、壊れるとしても。
「死なないわ、メルト」
混濁した感情が、表情に出ていたのだろうか。
ノエルはそっと、メルトの頬に手をさしのべる。ひんやりとした掌が激昂の熱を奪っていく。
視線を合わせると、彼女は微笑んでいた。慈愛に満ちた、柔らかな眼差しで。
「たとえ聖務の内容が堕天に触れることでも、きっと私は戻ってくる。
私が還ってくる場所は、いつだって貴方の処」
メルトは言葉を返すことが出来ない。
信じたくても信じられないという気持ちに、端正な顔が歪む。
莫迦ね、と目前の少女は呟いた。
刹那の交差。乾いた唇に、濡れた唇が重ねられて。
「聖ウァレンティヌスの誓いよ」
恥ずかしそうに口元を隠す親友に、心が空白に掻き乱される。
「貴方は、キューピットになるのでしょう?
世界を愛で満たす、祝福の天使として再誕するのでしょう?
……これが最初の一歩。
寂しくなったら想い出して。私の想いは、常に貴方の傍にいる」
――篝火に赤く照らされながら、メルトは静かに語り終えた。
世の中が美しく見えていた頃の、ほんの小さな、だけど大切な想い出。
「バレンタインには、奇蹟が起きるのですよ」
物憂げな相好には、かすかに悔恨の色も読み取れて。
黙って聞き終えた旅の仲間は、メルトの頭上に鍛え抜かれた無骨な指を伸ばす。
わしりと掴み、ぎりぎりと締め付ける。まるで万力の如く。いたいいたいいたい。
「生まれてニ、三ヶ月って自己紹介してたのは何処のどいつだ」
「あれ、おかしいです。ここは感動するべきところです?」
「その話が本当なら結末がどうなったか聞き出したいところだが、その前に現実を直視しろ」
見れば、すぐそばで凄まじい剣戟が繰り広げられている。
もうひとりの仲間が、襲いくるサンドゴーレムやチープゴーレムの群れと死闘を繰り広げていた。
「駄天使! 正気に戻ったなら、早く矢の神通力を解除しろ!」
ゴーレム達には、桃色の可愛らしい矢が刺さっていた。
そして、彼らの瞳らしき部分はハートマークになっていた。
「バレンタインか何かしらないが、無機物にまで愛を強請するな、愚か者!」
重厚な破壊力を漲らせて、野生のゴーレムは砂擦れのじゃりじゃりした声で叫ぶ。
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