2010/04/18 (Sun) 偽島25日目＠日記

　歪な形状を持つ甲殻蟻が、砂地に背を預けて六本の足をばたつかせていたです。
　光子の矢を顎の下へ射ちこむと、びくんと跳ねて、やがて動かなくなりました。
　バハムートの息炎にも耐えた殻が、さらさらと黒い霧に変化して消滅していくです。

　悪戯に動物を殺めるのは本意ではないです。全ての命は、神の被造物なのですから。
　なのですが、この島の奇形魔獣は眠らせてやることこそ救いになるです。
　ある日、島にはじけた雪のような光。光は生物を狂気に捕らえ、共食いをして成長を遂げはじめました。
　身体を削り、骨身を露出させても生きる生命。黒い翼を背に生やし、禍々しく変質した生命。

　原因を探ることが、メルトを含む天使たちに課せられた神勅です。

　…たぶん、そんな気がするです？

「っや！ また会ったね、こんにちは♪」

　大音響を迸らせて戦闘を繰り広げていたためか、砂浜で寝そべっていた相手が身を乗り出して手を振っていたです。
　あれが、エドという名前らしいことは、すでにわかっていたです。
　本人は、手入れされていないボサボサの赤髪に濁った碧眼を持つ、世捨て人のような少年だったです。

「また…、だと？」

　カリアが鎧を軋ませながら、低い声で呟きました。
　視線を向けられたジェイが、首を横に振ったです。続いて睨まれたので、メルトもあわてて否定の意を示しておいたです。

「あれ、違ったかな？ 初遭遇？」

　あっちも首をかしげてました。あまり記憶力はよくないのかもしれないです。
　エドはじゃらりと、手錠の鎖を鳴らしながら笑顔をみせてきたです。
　扱いのわりに、とても明るい性格のようです。メルトも見習いたいです。

「じゃあ、君たちのためにもう一度説明！
　僕はエド、パーティーの余興なんだ僕ら。遺跡を宣伝した張本人に頼まれてさ。
　こっちの道は僕らがふるいにかけることになってるの」
「張本人？」

　カリアはご機嫌斜めのようです。理解不能な展開が許せないのかもしれないです。

「えーとねぇー……
　なんかね、この道は島の核へと繋がる一本道だったんだってさ！
　それで神崎さんは慌てて先に行っちゃった。
『お前はここにいろ。誰も通すな』だって。ひどいよねー、お前・たち・だよねぇ」

　隣に控えていた黒い犬っぽいなにかが、ウンウンと頷いたです。よく躾られてるです。
　でもたしかにひどい話です。命は大小種別を問わず個で勘定されるべきだと思うです。ウンウン。

「神崎？ どこかで聴いた名だな」

　ジェイが胡散臭げに尋ねました。あ、でもその名前ならメルトも知ってるですよ。
　地の宝玉を守ってた人なのです。崩壊前の島じゃなくて、もっと違う島の方で。

「あー。…って、なんでお前がそれを知ってンだ！？」

　あれ？ わりと有名な話だったと思うです？

「榊ってヤツとは違うのか？ 島の招待状は、そいつが最初に出したと訊いたような」

　榊は招待状を出した人で、神崎はエドの知り合いの人って意味じゃないです？
　つまり、どっちもエドの知り合いってことじゃないかと思うです？

「宣伝した張本人イコール、神崎って意味でもないのか」

　情報が混沌としていて、メルトにもよくわからないです。
　ジェイは鼻白むと、エドを睨みつけました。
　でも、少年は何処吹く風のよう。暗赤色のマントをバサリと大きく翻して、言ったです。

「……っま！ そういうわけだから、よろしくぅッ！！」

　砂塵を後方へ弾き、突然、――黒い獣クリムゾンウィングが襲い掛かってきたです！？
　獣の首から繋がれた鎖が慣性の法則を操り、手錠ごとエドがぶわりと空中に浮きました
　嬉々とした表情は生気に満ちていて、とても楽しげに。

「話が早くてわかりやすい！」

　カリアが虚空から剣を引き抜き、獣の口蓋へ一閃。
　って、メルトの頭の上を薙いだです？ 髪の毛がぱらりと斬れた感触がしたですよー！？

　すかさず抗議の声をあげたけれど戦闘が始まってしまって、それどころじゃなくなってしまったです。
　しかし、もー、どうしてこー、みなさんそんなに短気なのですかー？
　メルトが、ぴーす・おぶ・らぶの精神を脳髄の奥にまで叩き込んでやる必要がありそうなのです！