2010/05/21 (Fri) 偽島28日目＠日記

　長い休暇を経て、遺跡に戻ってきたです。
　準備万端といいたいところですが、何か忘れ物があるような気がしてならないのは、いつものことでしょうか。

　…最近、遺跡外に戻る回数が多いです。
　でも仕方が無いです。下手に歩くと、B4Fの敵に片手で全滅させられちゃうです。
　まだ、メルト達の力は弱いです。
　仕方が無いです。高次元から低次元に降りてきたら、法則が変わるため力が制御されてしまうです。
　元の力を使うためには、新たな制御方法を掴み、この世界に同調する必要があるわけです。

「厨二病っていうんだぜ、そういうの」

　ニンゲンが勝手に名付けた現代用語で、天使のアイデンテティを表現しないでほしいです。
　だいたいニンゲンだって、別の世界にいったらすぐ弱っちくなっちゃうです。
　本当はすごい力を隠し持っていたって、最初はスライムにやられちゃうレベルに落ちてるです！

「スライムは、本当は強い」

　ぶっきらぼうに呟いたのは、カリアです。
　…あー。衣服を溶かされたら、どんな屈強な女戦士でも恥ずかしくて抗えなくなるですしね。

「どうして貴様は、そういう下らない知識ばかり増やしているのか」

　ギリギリギリ。痛い痛い痛い。
　妖精の容赦ないグリグリ攻撃が、メルトのこめかみを激しくクラッシュするです！？

「いいなぁ、それ。こう、ぷにゅぷにゅと……、
　……睨むなよ、カリア。冗談だって、冗談」

　ジェイが肩をすくめたですが、この男の瞳の輝きは間違いなく本気だったと思うです。

「スライムはおいといて。本来の力が制御できないってのは本当だろ。
　妖精が一番実力を発揮できるのは妖精界だろうし、天使は信仰の支配範囲が影響する。
　各々が実力をふるうに最適な場所のことを、領域という。
　――なーんて、いまさら指南しなくても知ってるだろ？」
「だが、いつまでも実力がふるえぬままではもどかしい」
「……お前は悩みすぎなんだよ」

　こつんと、軽くカリアの後頭部を小突くジェイ。
　カリアが面頬の奥で憮然とした表情を浮かべた気がするです。だからといって反論するでもなく。
　身に過ぎた力を無理矢理求めても、結果的に実力へ結びつかないことは、カリア自身がよくわかってる気がするです。

　多くを求め、多くを望み、多くに裏切られ、多くに涙して。
　だけど、辿り着く先はひとつしかないです。
　そのひとつが最善であるように、手を、届く範囲で、前へ、できるだけ遠くへ伸ばすしかないです。

「さ、いこうぜ？
　造られしものは後回しだ。まずはベルクレアの動向を探りつつ、
　オレ達は、もう一段階、強くなってみようか？」

　ジェイが途方もないことを、何でもないことのように気安く口にしたです。
　自信に満ち溢れた微笑を浮かべながら。

　カリアの張り詰めていた気が、かすかに緩んだです。
　透き通る羽根を細かく振動させて、飛び立つ足音は力強く。

　メルトも続くです。以前よりも少しだけ大きくなった、天使の白翼を広げて。

　なんだか今回の旅は、どこか違うものになるような……そんな、予感がしていたです。