2010/02/25 (Thu) 偽島17日目＠雑感

　遺跡外―――。

　…あれ？ 今回の遺跡外は、そんなに忙しくなかったです？

「事前に準備を重ねておいた。その賜物だ」

　カリアがきめの細かい上質の柔布で、愛鎧を磨いているです。
　手入れ中も鎧を脱がないです。変人です。

　遺跡外では、探索基地として部屋を長期契約で借りているです。
　カリアもメルトも大きなスペースを必要としないので、もっぱらジェイの一人部屋だけで事足りるです。
　恐らく二ヶ月ぐらいは利用するだろうとのことで、その間、快適な暮らしができるようコーディネートしてあるです。

　ハート柄のカーテン。
　ハート柄の壁紙。
　ハート柄の戸棚。
　ハート柄の食器。
　ハート柄のネグリジェ。

「燃えないゴミの日は今日だったな」

　あああああ、なんてことするですかー！？
　せっかくメルトが天界最先端の流行センスをスパークさせて取り寄せたですのに！

　渾身の生活グッズを軒並みハート柄のゴミ袋に詰め込んだジェイが、素っ気無く部屋を出て行こうとするです。
　鬼です。畜生です。

「ジェイ。出かけるならついでに、これも頼む」

　カリアが、しゅっと何かを投げたです。

　――ビィィィィィ……ン。

「ちょ、おま。短剣投げんな！？」

　ほっぺたをかすめて壁に突き立ったナイフを脂汗垂れ流しながら抜くジェイに、カリアは淡々と言うです。

「狙ってない。大丈夫」
「狙ってたら大惨事だろ……」

　カリア、この剣もゴミに出すです？

「いや、まだ使う。研ぎに出しておいてくれ」

　見れば、刃毀れこそしていないものの、刀身には細かい傷がたくさん入っているです。
　なかなか年季の入ったナイフに見受けられるです。
　ナイフとはいっても小妖精のカリアが持つと、一抱えほどもある大きさになるです。
　人間でいえば斬馬刀を構えるぐらいの手ごたえ。それを片手で投げるから、カリアはバケモノだと思うです。

「随分ボロボロだな…。もうそろそろ、変え時なんじゃないか？」

　窓から差し込む陽光に刀身を透かしながら、ジェイが感想を呟いたです。

「身に馴染む剣は、なかなか手に入らない」

　カリアは興味なさげに答えると、自信の鎧を磨く作業に戻ってしまったです。
　そういえばカリアの鎧の内側を見たことがないです。風呂に入るときはどうしているのでしょう。
　はっ、まさかあの鎧が本体で内側が装飾品だったりするのでしょうか！
　これは恐怖です。リビングアーマーとかそんなレベルじゃないホラーの予感がするです！

「お前、いい加減、考えてることを口から垂れ流すクセをどうにかしないと、危ない奴だと思われるぞ？」

　はっ。いつのまにやら全て喋っていたですか？

「ま。今更別の剣に買い換えて、使い慣れないから負けましたってんじゃ洒落にならねーし？」

　ひらひらと後ろ手をふって部屋を出ていくジェイ。
　カリアの背中が、ふっと笑った気がしたです。安心しろとでもいうかのように。

　メルトはちょっと困ったです。
　心に小さな棘が引っかかっていたです。悩んで、考えて、だけど結論が出せなくて。
　だから、思い切って尋ねてみることにしたです。

「ナイフをハート柄にしてもいいです？」

　――ビィィィィィ……ン。

「予備のナイフも研ぎに出しておいてもらえるか？　もちろん小細工なしで」

　もももももちろんメルトにお任せですよー！？