2007/06/25 (Mon) 探索8日目-日記

隠れ鬼――
失せ者を探し出す隠れんぼと、
逃げる者を掴まえる鬼ごっこ。
上記二種の遊びを組み合わせた、わらべあそび。


……――いーち、にーぃ、さーん…


山間に谺する、数えの調べ。
夕暮れを過ぎても途切れない嗤い声。
闇に溶ける気配を、背中で追いかける。


もぅ、いーかい……？
まぁーだだよ……――


増える数字、摩滅する心、焦る気持ち、途切れる忍耐。
茜色は彼方に去り、薄紫の夜空に星が瞬く。

終わらない隠れ鬼。
その日、一人の子供が消えた。


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『…それは置いといて』

不機嫌そうに黒猫が呟いた。

「なに？」

煮えたぎる鍋のにおい、とても食欲湧く。
今日は鹿鍋。歩行小枝を燃やして炊いた。
リズがいれば、どんな山奥でも贅沢できる。
食事が美味しい。
とても、しあわせなこと。

『なぁ、いつまでこの島に居るつもりなんだ』
「………。」
『オイ。すっげェ意外ってな顔で、こっち見ンな』

そう云われても。
だって、帰る方法なんて知らない。

『姐さんの波動見つけンの、大変だったんだぜ？
　もう、あれから何年経ってると思ってやがんだ』
「波動？」
『故郷語で言えば、シンリッハウ。…それも忘れちまったか？』

ふるふると、首を横に振る。
直訳すると、血脈の声。…意味がわからない。
猫と精霊に、血の繋がりなんてあるはずないのに。

『いや、待て！
　俺様の正体ミミズクだから！ そこ基本！ 忘れたらグレんぞ!?』
「そうだった」
『いいけどよ。もう馴れたけどよ。馴れちゃいましたけどよ！』

「…波動は、波。媒質・空間を問わずＡからＢへ届く情報。
　でもここで云う波動は、超感覚に近いものだと思う。
　血が伝える、存在の確認。――契約？」

焚き火の向こう側で、ラズがしれっと呟いた。
声かけておきながら、視線を向けもしないでお代わりしてる。
あ、もう３杯目。ずるい。

アルワンは何も答えない。
何か口汚いこと吐き捨ててた。悪口というより、悪態みたいな。

「帰りたいの？」

訊いてみた。
どうしても、訊いておかないといけない気がした。

自分がここで目覚めた経緯はわからない。
起きたら、いた。それだけ。
島を訪れた多くの人は、招待状を受け取ったから、らしい。
動機と目的が一致してるとは、限らないけれど。

『――別に。
　姐さんが戻りたく無ェんなら、俺様も続くだけさ』

黒猫は、そっぽ向いてうそぶいた。

戻りたいかと聞かれれば。……実は、どうでもいい。
故郷の想い出なんて、いいことばかりでもないし。
変わった友達できたし。
アルワンは、ここにいるし。

「じゃあ、続いて」
『即答かよ！ …ＯＫ。どこまでも着いてってやるぜ、我が姫君』

どこか自暴自棄気味に叫ばれた。
ちょっとムカつく。

「はい、どーぞ☆」

話し合いも一段落ついたと見て。
リズが、アルワンに皿を差し出した。
どこに持ってたのか、ペット皿。甘辛い芳香がふわり立ちのぼる。
パッチワークの瞳で疑わしそうに見あげて、

『ありがとよ…。
　…チッ、厄介な連中揃えやがって。そこ、笑ってんじゃねェぞコラ！』

忍び笑いをこぼしたラズに、キレた。
何が面白いのか、よくわからない。
アルワンは照れ隠しのように顔を伏せ、そっとペット皿に口をつける。

『ところで俺様、ぬいぐるみなんだが』
「うん」
『これ、喰えんのか？ 染みたりとか、しねェ？』

……………。
さぁ、知らない。