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歌を唄う猫の夢

定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。

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 エスタの街に到着して、もう数日が過ぎようとしている。
 街から街への移動に急いでも3日は掛かるセルフォリーフにて、悪戯に時間を浪費することは好ましくない。
 だが、ピアノたちはこの世界においてあまりにも無知が過ぎていた。
 かつて自分たちが、苦戦しながらも勝利を収めてきたような強敵が、普通に街外を闊歩している光景。
 この世界には、『能力を過信している者の自信』を根底から打ち砕くだけの現実が広がっている。

「はうっ!?」

 ビシッと肩を貫いた衝撃に、思わず悲鳴が漏れる。
 剥離しかけていた意識が急速に引き戻され、リアルと連結して正気を呼び覚ました。

 目前には、白と黒を基調とした修道衣に身を包んだ少女がひとり。
 蔑み寸前の表情で、警策代わりに使った剣鞘片手に机に突っ伏したピアノを見下ろしている。
「まさか、一対一の個人レッスンで居眠りされるとは思いませんでした」
「ち、違いましてよ!?」

 トレニア=フロイントリヒ。右手に護剣、左手に聖誓を担いながらも、神と決別した騎士。
 慌てて弁解するが、トレニアの眼差しは小揺るぎもしない。

「……ちょっと現実逃避したくなっただけですの」

 言葉が上手く伝わっている気がしない。
 ますます冷えてきたトレニアの相貌に、ピアノの背筋が本能的な恐怖を訴えはじめた。

 ――食料の運搬という依頼がある。
 エスタから程近い開墾村へ、糧食を届けてほしいという仕事だ。
 入植の初期段階である郷邑では農業の発展も乏しく、安定するまでは食料供給を近隣の街に頼らざるを得ない。
 だが、この食料を狙って襲ってくる怪物がいるという。
 巨大竈馬。エスタ近隣でも見かける、一般的には雑魚に分類される巨大生物だ。
 普段群れを成すことがない彼らが、この運搬作業を前にしては必ず徒党を組んで現れるという。
 集団化した巨大竈馬は、雑魚と侮る強者たちを軽く蹂躙する。多少腕に覚えがある程度では、まるで歯が立たない。
 故に、これからセルフォリーフの奥地へ旅していこうとする者にとっては、登竜門と評して良い仕事でもあった。

 その依頼を引き受けるに至り、経験者であり年長の友人でもあるトレニアからレッスンを受けることにしたのが事の始まりだ。
 彼女との最初の出会いは、今ではもう、よく思い出せない。
 最初は対等の相手だったはずだ。しかし、気付けば上下関係が明確となっており、頭のあがらない立場である。

「たかだが、十匹や二十匹じゃないですか。何を恐れるのですか?」
「十匹もいたら手に負えませんのー!」
「踊りは得意でしょう?」
「今まさに、貴女の言葉に踊らされてますのよ…」

 ふう、と息をつくトレニア。

「いいですか、集団戦においては敵の数を減らすことが最終的な勝利に結びつきます」

 すでに語った戦術を、面倒くさがりもせずに繰り返す。
 生態、特徴、弱点、行動パターン、迎撃ポイント、予測、応用。
 ひとつひとつ、ステップを踏む。数多の戦闘経験、自身の交戦経験から導かれた帰結論理を単純明快に伝授する。

「つまり、目の前の敵から全力でぶん殴ればいいわけです」
「今、かなりぶっ飛ばしましたわよね!?」

 少女は小首を傾げた。噛み砕いて説明したはずなのに、どうして理解できないのだろうと。

「だいたい、私に教わる必要があるのですか?」

 頬を撫でるクロブークの端を摘みながら、トレニアは告げる。

「ピアノちゃん。貴女の弱点は戦闘経験の少なさです。ですが、それは自分より格上の相手でこそ露見するもの。
 模擬戦で打ちあってみた感触からしても、普段の貴女は決して弱くない」
「………」
「乱戦で苦手な術式を試し使おうというのは、明らかな愚行です。
 多角的な攻撃に対し、考えてから動こうとするのも初速を欠いて後手に回る。
 ――その程度のこと、貴女が理解していないはずもありませんね」

 指摘が突き刺さる。出会ってまだ1ヶ月も経っていないであろう相手の経験を見抜き、性格すら読んだ上で告げる。

「集団戦への苦手意識、自己能力の否定……。何か、過去にトラウマでも?」
「―――ッ!?」

 図星ですかと、トレニアは嘆息する。
 それ以上は繋げない。ならば仕方がないとばかりに、ホワイトボードへ別の戦術図を描いていく。

 ピアノは戸惑いを隠しきれないでいた。
 自覚していない傷を掘り起こされた動揺が、身体を制御不能に震わせている。
 フラッシュバックしそうになる"喪失"の記憶。呼応して『忘れなさい』と響く"誰か"の声。
 臓腑に込み上げる不快感を強引に嚥下し、無理矢理顔を持ちあげた。

 引き換えに、理解することもある。

 炯眼の裏付けは、トレニア自身の経験によるものだろう。
 屈強な兵士すら踏みにじってきた護衛依頼を前に、"大したことは無い"と断言してしまえる彼女の戦歴は如何程か。
 トレニアの語りには、わずかに過去が覗く。
 遠い記憶に思い馳せて翳る面差しに、果たしてどのような傷が隠されているのか。

 気付きはしても、問いかけはしない。
 トレニアが、踏み込むべき機会ではないと判じて流した"気遣い"とは違う。
 ピアノには、声を掛ける覚悟が備わっていない。
 何も出来ない役立たずの自分では、誰も、何も救うことが出来ないと識っているから。
 大切だと思える人であればこそ、動けなくなる。

(私は、何を喪失してしまったのかしら)

 ――忘れなさい。

「忘れてはいけませんよ」

 薄曇りの暗い空へ切り込む一条の陽光のように。
 蒼銀色の双瞳が、揺るがぬ意志を乗せてピアノを射抜く。

 束の間の交錯。偶然か意図的かは分からない。先に視線を逸らしたのは、トレニアの方だった。

「戦術については、反射で動けるように頭へ叩き込んでおいて下さい。なにか質問は?」
「……ありませんわ。
 まったく、敬服しますわね。貴女、どれだけの戦術パターンを熟知してますの?」
「たいした数ではありませんよ」

 はぐらかすように流れを切るトレニアは、そこでようやく微笑を浮かべた。

「では、次はピアノちゃんが授業を披露する番です。
 美味しいドルチェの店を見つけたと先日言ってましたよね? 案内しなさい」
「教えを乞う態度じゃありませんのよ!?」

 二人の少女が、お互いの踏み砕かれた過去を理解するには、まだ幾許かの日々を必要とするのだろう。
 されど、心が脆く罅割れていようとも、笑顔の形を忘れずに造れるのであれば、

 それは、"救い"と呼べるものかもしれなかった。

+斜+※今回の日記には、トレニア=フロイントリヒ(96)さんをお借りしています。-斜-

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