2009/11/26 (Thu) 偽島３日目＠日記

　ふと、瞳を開いたら、でかいニンゲンの肩に担がれていたです。

　……？

　確かメルトは、お腹がすいて倒れていたはずなのです。
　メルトはこれでもラブリーなエンジェルなので、神気の宿るモノしか食べないのです。
　けっして、好き嫌いが多いわけじゃないのです。けっして。

「気づいたか？」

　もぞもぞ動く気配を察したのでしょうか。
　でかいニンゲンが、大音量で声がかけてきました。
　大音量なのは、きっと相手の口がメルトのすぐ隣にあるからです。うるさいです。

「お前、名はなんていう？」

　相手に名を聞くときは、先に自分の名前を名乗るものです。

「くっくっく。確かにそうだな、俺の名はジェイ――」

　メルトはメルトです。さぁ、名を名乗るといいです。

「て、てめぇ」

　まったく、ぐずぐずしてるです。
　近くにあった耳たぶを引っ張りながら立ちあがると、小さな羽音が聞こえたです。
　身を屈めるように覗くと、ニンゲンのそばにフェアリーがいたです。

　全身真っ白なフルアーマーを着た、まぁとってもかわいいフェアリーさん。

「………」

　目があってしまったです。
　あわてて視線をそらしたです。きっとあぶないひとです。

「おい、行き倒れ」

　呼んでますよ、ごついフェアリーさん。

「お前だ、お前」

　メルトでしたか。メルトは行き倒れなんかじゃありませんよ？

「長年生きてきたが、さすがの俺も、腹を空かせて行き倒れた天使は初めて見たぜ。
　いろいろ聞きたいことがある。俺の質問に答えたら、飯を食わせてやってもいい」

　イェッサー！ マスター、なんなりとご質問くださいませ！

「……お前、ほんとに天使か？ 俺に近いものを感じるんだが」

　何をいいますか。高潔な天使をしてニンゲンに近いなどと。
　これでも天界では、愛欲の淫天使という二つ名を持つ伝説級の天使なのですよ。
　生まれて１ヶ月ですけど。

「たった１ヶ月で、どこまで犯罪ちっくな呼び名がついてんだよ！」
「……ジェイド。話が進まない」
「ああ、悪ィ。なんかコイツと話してると調子が狂っちまってよ」

　呆れ気味に声をかけるフェアリーに向かって、心底呆れたため息をつくニンゲン。
　まったく、誰のせいで話がすすまないと思っているのでしょう。失礼な。

――こうして、奇妙な一行は三人となった。
　ニンゲンと呼ばれた彼はジェイド。セラフィナイト・A・ジェイド。
　フェアリーと呼ばれる存在はカリア。マトリカリア・ティード。
　
　かくして、もうひとつの物語の扉は開かれる。