2009/11/28 (Sat) 偽島４日目＠日記

「聞きたいのは、この島のことだ」

　ジェイドは鬱陶しそうに、ぐるりと辺りを見渡しながら言ったです。

「オレらはまだ島に着いたばかりだからさ、島のこと、よくわかんねーんだよ。
　知ってる情報だけでいいから、いろいろ教えてくんない？」

　知らないです。

「い、いや、知らないってことは無いんじゃね？
　先に遺跡に潜っていたみたいだし、何より腹を空かせるほど歩き回っていたわけで」

　知らないです。

「……。ええと」

　ぼりぼりと髪を掻きながら、ジェイドが言葉に詰まったです。
　何か失敗しちゃったなーみたいな表情してます。失礼です。

「君は、天使だろう。この島は、君の管理範囲ではないのか？」

　カリアがヘルメットの面甲越しに話しかけてきたです。
　この声質だけでは、男なのか女なのかハッキリしないです。
　まあどっちでもいいです。愛の天使たるメルトは、男同士や女同士の愛も否定しないのです。

　ところで、どうして妖精界の住人が、天上界の勤務形態に詳しいのですか？

「私よりもっと詳しい人に、前もって聞いていたから、…かな」

　カリアが、ちらりと横へ視線をやったです。
　視線の先、ジェイドは、とぼけたように目線を逸らしたです。
　怪しいです。

　でも、メルトは気にしないのです。
　鶏より優秀なメルトは、３秒前のことをイチイチ気にしたりはしないのです。

　わかりました。
　教えるです。
　しかし、これを聴いてしまうと、２人はメルトの監視下に置かれなければならないです。　
　それほどまでに重要な秘密が、この島には眠っているのですから。

「――へぇ？」

　どちらの呟きか、どちらの嚥下する音か判らなかったですが、ほどよい緊張がはりつめました。

　どうやら２人とも、覚悟は出来ているようです。
　脅しても怯まないあたり、想像を絶する修羅場を数多く潜り抜けてきているのかもしれません。

　それでも。

　メルトは想像します。
　この２人は、秘密を聞いたあとでも表情を崩さずに平然としていられるのでしょうか。
　島に隠された大いなる謎を、天使が姿を現す意味を、そして、メルトの真の目的を知っても、

　彼らは、本当に、己を見失うことなく耐えられるのでしょうか。

　メルトは告げます。
　告げねばなりません。神に選ばれた偉人に告知するが、天使の使命であれば。
　ここで出逢った偶然が、彼らを導くための必然に繋がるのであれば。

「全てを理解するには、まず、メルトの身に何が起きたかから語らねばならないです」