2009/12/06 (Sun) 偽島６日目＠日記

「何するですかーっ！？」

　ガバッと身を起こしたメルトが意識を失っていたのは、ほんの数秒間でした。
　しかし、戦闘に置いて数秒とは生死を分ける貴重なデッドライン。
　まだ味方と決まったわけでもないニンゲンとピクシーに、背中は見せられません。

「いやいやいや。もう、丸一日ころっと熟睡してたから、お前」

　炙った野兎の肉にむしゃりとかぶりつきながら、ジェイが言ったです。
　カリアが、ぐっと、手ごろな大きさの骨付き肉を差し出してきたです。
　この人はまだ面甲をつけたままでした。どうやって食べているのでしょう、興味が湧きます。

　受けとった肉にかぶりつきます。
　実に６日ぶりの、まともな食事でした。
　神の使徒たる天使に動物の炙り肉を食わせるとか、非常識もいいとこです。もぐもぐ。

「貴方の秘密は理解した。
　――それで？　この島の調査結果とは何か」

　目線ちょっと高めの位置から、カリアの質問が飛んできたです。
　少し偉そうです。
　ふふん、でもそれしきのことで腹を立てるほど、メルトの器量は小さくないのです。

「ほうははいほうへふは？ ほーひゅーほーひひふへふは」
「……食べてから喋れ」

　ごっくん。

「えーと、なんでしたっけ」
「口元に肉片がついてる」

　ぺろり。

「メルトのスリーサイズでしたっけ。さすがにその秘密まで明かすのは勇気がいるです」
「聞いてねえよ！」

　カリアの背中越しに、ツッコミがきたです。
　無視するつもりだったのかもしれませんが、そうはいかないのです。

「ジェイ。この天使はダメだ、使えない」
「気持ちはわかる」

　こめかみを抑えながら、ジェイがカリアに応えたです。
　でっかく失礼なこと言われている気がするです。

「だがな。この島に送られてくる以上、下級三隊の天使位レベルってことは有り得ねぇ。
　知ってるか？
　本来、キューピッドってのはローマ神話圏において愛を司る神の眷属とされている。
　旧約聖書に統合されて天使位に落ち着いちゃいるが、本来は上級三隊に匹敵する神格なんだぜ」

　ほほう。そうだったのですか！

「……ジェイ。私には、その話がとても信じられない」

　私もです！
　はじめてカリアと気が合ったです。

「お前が同意するなぁー！」

　いひゃいいひゃい！ ほっぺたを強く引っ張るなですー！？

「とにかく！ こいつは何かデケェ秘密抱えてこの島に送られてきたに違いねぇんだ！
　吐け！ いますぐ吐け！ そら吐け！」
「パンとワインとお供え物は、すべて己の血肉にせよとは神の教えです！？」
「吐くのは秘密の方だ！
　オラァ、テメェの上司はどうせあのイケスカねぇ六枚羽根野郎だろうが！
　喧嘩上等だコノヤロウ。百万年の封印解いた実力で焼き入れてやんぞコラー！」
「…………。
　ジェイ。君は、この莫迦天使のペースに載せられすぎだ」

　胸倉を掴んで意味不明の脅しをかけてくるニンゲンのことを、メルトは知ってました。
　これは、ヤンキーというです。
　なんてことでしょう。メルトは、この世界の真理にひとつ近づいてしまったです！