2009/12/17 (Thu) 偽島８日目＠日記

　24時間の強制吊り下げ状態から、やっとのことで解放されたです。
　まさか寝るときまで宙ぶらりんとは、さしものメルトも疲労困憊です。

「嘘をつけ、嘘を。好き勝手に飛び跳ねてたじゃねえか！」

　ニンゲンとは違い、天使には純白に輝く美しい翼があるのです。

「エーテル翼も一緒に縛っておいたはずだが」

　ピクシーとは違い、天使は重力に縛られない存在なのです。

　そうそう。メルトが快適な深夜睡眠を貪っている間に、すごいことが起きていたです。
　なんと、カリアのペットの黒猫が竜族になっていたです。
　これは神様の奇跡です。見守ってくださってありがとう、えらいひと！

「神など関係ない。これは竜の因子を与えたて変異させただけだ」

　くあーっとバカっぽい鳴き声をあげるチビ赤竜の喉元をなでながら、カリアが言うです。
　竜の因子ってなんですか？

「………」

　応えてくれないです。きっと、中の人に聞くのをメルトの中の人が忘れていたに違いありません。
　憶測で勝手に話を考えるといろいろ問題がありそうですが、いったいなんの話でしたっけ。

「竜の因子だろ。忘れるの早すぎるぞ鶏頭」

　ジェイは相変わらず口が悪いです。
　そのくせ、遺跡外では転んだ女のニンゲンを優しく抱き起こしてキャーキャーいわれてたです。
　種族差別です。メルトにも優しくするべきだと思います。

「それにしても、竜……ねぇ？」

　興味深々に覗き込むジェイ。
　飛竜の大きさは、ジェイの顔の半分ぐらい。つまり、メルトやカリアよりちょっと大きめな程度。
　メルトの知る竜族は、星を丸呑みするものからニンゲンを載せられる大きさがほとんどです。
　つまり、これは本当に竜なのか疑わしいのです？

「ま、嘘をつく意味はねぇだろ。大戦期によく見た、憑依召喚の類じゃねえのかな。
　妖精にチェンジリングされた竜族の話を聞いたこともあるしな？
　今風に名付けるなら、フェアリー・ドラゴン…いや、ピクシー・ドラゴンといったところか」
「そのようなものだ。
　飛翔やブレス等の特性は手に入るが、素体となる動物の限界を超える能力は顕現できない」

　メルトが聞き入ってると、飛竜にじゃれつかれたジェイが引きつった笑みに脂汗を浮かべていたです。
　どうやら噛まれているらしいです。
　ミニチュアとはいえ、竜の牙は神具にも使われる硬質素材。ぐっさり突き刺さって、とても痛そうです。

「妖精の羽根は俊敏な機動戦に向いていない。
　足手まといにはなりたくないからな、少々ズルをさせてもらうさ」

　足手まといという単語にトゲが生えていたような感じがしたのは、きっと気のせい。
　メルトだって戦闘に役立っているはずなのです。

「そうかぁ？ 貧弱な妖精族にしちゃ、ズバ抜けてるとは思うが」

　血が出ている指を涙目で舐めているジェイが言いました。
　あれ。ジェイが舐めたら血が止まりました？
　根性の無い傷口です。もっと大河の如く血で世界を洪水に陥れればいいですのに。

「それより敵がお待ちしてるみたいだぜ。
　喜べ、カリア。お前の親戚筋だろ」
「あれは妖精ですらない。妖精に擬態した、何かだ！」

　すらりと黒刃を構えなおしたカリアが面頬の奥から睨みつける先に、奇怪な形状の妖精がいたです。
　どうやらまた、戦いの一日がはじまるらしいです。