2010/04/03 (Sat) 偽島23日目＠日記

　遺跡外です！
　季節風にのった春精が暖気を運び、淡い薄紅色の花を満開にさせるです！
　水路に添って植えられた桜の並木は、道行く人々の心にほんわかとした優しさをもたらしてくれるです！

「まだ一割、二割程度しか咲いてねーけどな」
「満開には程遠い」

　…どうしてウチのPTは、世界を斜めから見下ろすことしか出来ない人ばかり集まっているです…？
　せめてエイプリルフールっぽく騙されてくれてもいいんじゃないかと思うです。

「現実を直視しているだけだ」
「先月は暑かったり寒かったり、気温差が激しすぎたからなぁ。桜も迷ってるんじゃね？」

　確かに、最近は寒い日が続いているです。
　もう四月にもなるのに、まだ湯たんぽが必要になることがあるです。
　湯たんぽは足元に入れておくと、体温が暖められるので眠りに入りやすくなるです。

「天使にも血は通っているのか？」
「神に似せて創ったのが人間であり天使である以上、色はともかく血ぐらい流れてるだろうなぁ」
「ヨダレなら出ているようだが」

　血も涙もないとはこのことです。
　メルトが屋台のケバブの匂いにつられてふらふらとしていると、腰から違和感を感じたです。

　ぴん。

　妙な擬音と共に、猛烈な勢いで後方へ引き寄せられたです！？
　振り返れば、メルトの腰に太い縄が巻き付けられていたです。縄の先はジェイが持っていたです。
　……これはなんです？

「飼い犬には鎖をつけておくもんだ」

　メルトは天使です！ 犬じゃないです！

「犬の方が上等な生物だからな」

　カリアの一言は容赦がなさすぎです！

「さーて。いろいろ買い物も済ませたし、そろそろ引き上げ時か？」
「待て。まだ、マップを手に入れてない」

　どうしてアッチの妖精はふらふら飛んでいっても注意されないです…？

「日頃の行いかな」

　木漏れ日亭の片隅に居を構える地図屋に向かったカリアは、たいした時間もかけずに戻ってきたです。
　手にしているのは４枚の羊皮紙。
　地下１階から地下４階まで、冒険者達が命を削って踏破した情報をもとに作製された、最新版の地図です。

「もう、地下４階の情報があるとはな。たいしたモンだ」
「なんだ？ ここに…。造られしもの…？」

　地図の端に記された注意書き。ただ固有名詞だけが書かれていて、他に何の補足も付記されていない情報。
　それは、現在進行形の未確認異常事態だということ。

「わかんねぇな。どうせそこまで歩く余裕はなし…。オイ一枚戻してくれ」

　ジェイの注文に、カリアが紙面を戻して地下三階の地図を取り出したです。
　もう22日を過ぎようというのに、まだ８×９サイズにしか判明していない地形。
　地下４階と酷似した形状の地図には、違う固有名詞が記されていたです。

「エド。そして、クリムゾンウィングが２匹…」
「クリムゾンウィングとは獣の呼称かな。このエドって奴が獣使いらしいから…、さて？」
「どちらにしても、進むしかない」
「その通り」

　にやりと笑んで、ジェイは羊皮紙を折りたたんで道具袋に入れたです。
　どうやら次の方針が決まったようです。
　相変わらず、メルトは置いてけぼりでした。でも泣かない。天使だもんっ。