2010/04/18 (Sun) 偽島24日目＠日記

　地下３階は、まさに魔窟でした。
　地形的に、上層と比べて変化があるわけではないです。ないですが、空気が濃厚というか濃密というか。
　影ひとつとってみても、何やら得体の知れない存在がひそんでいるような、澱んで昏い視線を感じるです。

「敵意が尋常じゃねぇなぁ。どんなバケモノが棲んでんだか」
「こちらのルートは、既に探索済みのはずだが…」

　カリアが地図を眺めながら呟いたです。

「左に伸びた水路から察するに、地下３階は奥にも広大な敷地を有していそうだ」

　飛べるんだから行ってみればいいです！ …とは、流石のメルトにも主張できなかったです。
　この世界の水路は、異能を奪う特殊な蒸気を放出しているみたいなのです。
　船を浮かべて行くことはできるかもですが、水上で襲われたらひとたまりもないです。
　以前、水浴びをしようと水溜りに足を踏み入れたら、肉食のトビウオに襲い掛かられたです。
　おしり、かじられたです。とんでもない生態系なのです。

「抜ける道は、あの細い道しかないわけだが…」

　カリアが面をあげたタイミングにあわせて、ジェイが「誰かいるな」と言ったです。
　水路に橋でも掛けたかの如き形状で、うずたかく積もっている砂丘。
　そこに、寝そべる何者かの影が複数みえるです。

「あれがエドって奴かね？」

　だとすれば、他の影はクリムゾンウィングというやつです？
　先遣隊が倒したという話だったですが、また戻ってきたようですか。

「…さて。あっちに戻ってきたという意識があるとは限らないけどな」

　どういう意味です？
　ジェイが肩をすくめたので、思わず訊ねてしまったです。

「相手にとっちゃ、俺たちは初めて遭遇する相手なのかもしれないってことだよ」

　さっぱりわからないです。
　メルトにとっても、エドは初めて遭遇する相手だと思うです。

「もしや、先遣隊に逢った記憶を失っているという意味か？」

　カリアが口をはさんできました。

「記憶を失っている方なら、まだマシだけどな。
　録画を再生するかのように、固定化したイベントが再び発生してるんじゃないかってオカルトだったりして」

　…ええと。
　つまり、再生怪人というやつですか！

「お前は何を聞いてたんだ」

　呆れ顔でツッコミを入れられたです！？

「ま、深く考えることじゃねーな。
　同じ場所に陣取っているってことに、何か意味があるんだろう。話してみりゃわかる」
「その前に、話し合いの通じそうにない相手がきた」

　カリアが懐に忍ばせている短刀を投げたです。
　暗がりの奥で、カキンと硬質の反響音。続いて、カサリカサリと砂を高速に這い回る破擦音がして。

　見えてきたのは…、蟻…？

　蟻です！ しかもなんか甲羅がゴツゴツとしていて、すごく硬そうです！

「まずは小手調べといこうか。気を緩めるな！」

　ジェイが背の大剣を抜き放ち、空気を切り裂いて魔法陣を刻んだです。
　まったく、暴力的なひとたちなのです。