2010/10/17 (Sun) 偽島42日目＠日記

「ルートを変更したい、です？」

　カリアの進言に、こくりと首を傾けて訊ねたのは愛の伝道師にして恋の天使メルトでした。
　キマったです。
　可愛らしい仕草に見えるよう、鏡の前で毎日数時間の特訓を繰り返した甲斐があるです。

　その首に縄が結び付けられてなければ、見栄え的にも良かったのですがー。
　ジェイの手から伸びる縄は、まるで手綱のような緩やかさをもってパタパタ飛ぶメルトの首輪に繋がってるです。
　なぜー？

「視界が開けているのは北側だが、どうやら湖に遮られて先へ進めないらしい」

　カリアは自作の地図を広げて、籠手に護られた指先で辿るです。
　北側は砂浜に、南側は森林に。鉛筆でレタッチされた地図は、カリアの自信作です。
　まったく、顔にそぐわず細かい作業が得意な妖精です。顔みたことないですが。

「昨晩越えた丘の大樹…機械樹と仮に名付けるとして、ほぼ対極の位置にあるのが、ここだ」

　と、地面を示したです。
　つまり、同じぐらいの大きさの円状島が２つ並んでいて、その中心がそれぞれ、機械樹と今居るとこ…です？

　カリアは頷くと、さらに指先を南側に動かしたです。
　南方に広がる森林地帯の中心に。

「…なるほど、眠り姫は森の中、ね」

　ジェイが僅かに目を見開いて呟いたです。

「もっと単純な理由もあるが」
「ってぇーと？」
「砂浜なら見通しがいい。空を飛ぶ黒マントの魔法使いなど、すぐに見つかるだろう」

　だが見つからないということは、森に隠れていると読むべきだと言外に告げて。
　ジェイも最後までカリアに言わせることなく「なるほど」と理解したようでした。

「事情を整理しよう。はい、ペットの天使さん」

　はーい。

　まず、サニーと名乗る魔法使いと、サニーを兄と呼ぶ小さな魔法使いの２人がいたです。
　でも会話の流れから、実の兄妹じゃなさそうな感じです。
　２人は"師匠"って人を探しているらしいです。
　サニーは、この階層で"核"ってのが動いてるのを、空から見て判断してたみたいです。
　そして、"あれ"が無事かどうかを気に掛けてたみたいです。でも"あれ"は正常じゃなさそうらしいです。

　先ほど名前の出たエドって子によると、この道の終点…つまりこの近くに"島の核"があるはずなのです。
　おそらく、サニーの言ってた"核"と同じだと思われるのです。
　核には、"島の管理人"がいるらしいです。
　眠っているのか起きたのかわかららないですが、"管理人"はかわいい女の子らしいです。
　女の子は心を失っているらしいです。サニーの言う"あれ"が女の子である可能性はでっかいです。
　"榊"って人が、女の子の心を集めたら島が正常に戻るっていってたらしいです。
　で。その女の子を狙う、"神崎"ってロリコンおじさんが先行してるらしいです。

　他に"ユグドラシル"という何かに命令された、遺跡の守護者へのなりそこね"造られしもの"がいたです。
　今回はサニーと共闘してたですけど、本来は邪魔される可能性がある相手のようです。

　あと、ベルクレア騎士団の一番偉い人は"宝玉"を狙っているらしいです。
　宝玉はそろえて何処かに持っていくと、過去を操れるらしいです。

　"サンドラ"って女の子が、おじさんって人に命令されて遺跡の奥に行く道を守ってたです。
　でもこの"おじさん"は神崎じゃなくて、"ラザレス"って人らしいです。過去を消せるらしいです。

　以降未確認ですが、神崎ロリコンおじさんは"思念体"らしいです。誰かに身体をもらってるらしいです。
　母親からの探索願いを受けて、娘さんを探しているとか。娘さんが"島の管理人"ぽいのです。
　心は色の付いた球体らしいです。ラザレスから白、クリフォード兄妹のそばに黄色があったと噂です。
　白の方は森の奥へ飛んでいったですが、黄色の方は黒マントの男が奪っていったらしいです。
　黒マントの男はあと３つといっていたので、残る心は２つらしいです。ちなみに黒マントが"榊"という噂です。
　"宝玉"は砂浜に埋まってたらしいです。
　ベルクレア騎士団長は装置の起動に辿り着いて、あとは装置に行くのみだそうです。

「オッケー、それぐらいでいい。相変わらず便利だな。ほら、ご褒美にエサをやろう」

　わーい！

「…ペットと呼ばれる環境に、疑問を持たなくなってきているようだが…」
「ふっ、しつけのいい機会だ」

　なにやら不安な会話が聞こえてきたですが、メルトは上機嫌なのでどうでもいいです。
　首輪から繋がる縄も愛おしくみえてきたです。

　ああ、これが飼い犬の幸せというやつなのですねー！