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歌を唄う猫の夢

定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。

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 王は言った。

「愛しき娘。愛しき女の忘れ形見。齢を増すごとに似てくる先妻の面影は妖しく。
 鳴呼、生まれ変わりならば我が腕で抱き潰すことに、如何なる禁忌の壁も存在せぬだろう」
 王妃は言った。

「政略の後妻成れど真心に愛を捧ぐ。故に、娘に気狂う王の寵愛を取り戻すため、秘して弑すは当然の理。
 鏡の悪魔の導きに従えば、踊らされしは赤い靴。情熱よりも灼けた憎悪に融けて」

 王子は言った。

「私は死体を愛したのだ。静謐に眠る姫君よ。されど、生き返ってしまったものは仕方がない。
 未来の王妃には栄誉と金と権力を与えよう。だが、私の愛だけは死ぬまで渡さない」

 王女は言った。

「優しいお父様。美しいお母様。夢見たのは白馬の王子様。愛と希望に満ち溢れた夢の未来。
 壊れたお父様。焼けたお母様。夢砕けたは現実の王子様。死と絶望を撒き散らす傾国の夢」

 天使は応えた。

「愛をかなえましょう。恋をかなえましょう。夢をかなえましょう。望みをかなえましょう。
 幸せに殺しましょう。崖のそばで告解する者へ、神の加護を与えて突き落すのが使命」

 キューピッドの矢は黄金の色をもって愛を射る。
 耐えがたき誘惑、抗いがたき恋心が、大事なひとへ淫れた牙を剥く。
 微笑む天使は慈愛に満ちて、堕ちゆく恋人に背を向けて次の愛を探す。


 ――そんな、お仕事。


            -+-+-+-+-+-+-

「正しいという言葉が、すべての人にとっても正しいとは限らないのさ」

 ジェイが言う。
 カリアは一瞬だけ視線を流して、訊ねた。

「それが、お前の哲学か?」
「哲学…じゃ、ねぇなぁ。どちらかというと、理由かな」

 神に背くための、理由。
 だが、それは口に出さない。声で自己確認するまでもないし、全てを語る必要もないからだ。

「天使が悪魔に堕ちる条件って、なんだと思う?」

 不意の問いに、妖精は眉をひそめた。
 妖精にも邪妖精と呼ばれる存在はいる。しかしどちらも妖精種であって、別種の存在ではない。
 しかし、天使と堕天使は決定的に違うという。
 霊翼の色、光輪の有無、属性の反転などにより、異なる系統樹に所属が変わるのだ。

「神を信じられなくなったら…、とか?」

 いささか自信のない口調で答えた。
 ジェイは顔を左右に振って、否定する。

「逆だ。神を信じたくなったら、さ」

 問答のような言葉。
 神に逆らうのが堕天使の在るべき姿ならば、なんと矛盾に満ちた答えであろうか。

「そもそも『信じる』って言葉は、信頼出来ない相手と知っている立場だから言える単語だろ。
 天使は神を正しいと『知って』いる。疑う余地なんてどこにもなく、な」

 なるほど、そこに繋がるわけか。
 カリアは微かな吐息とともに理解の意を返す。
 天使は神の道具であるという。道具が使い手の使用法に、疑いなど持つはずがない。

「天使には一見、自由意思が与えられているようにみえる。
 神に向かって正面から意を唱える天使だってたくさんいる。
 でも、それは確認行為であって反逆行為じゃない。神は絶対だからな。
 羽が黒く染まらない以上、頭上の光輪が砕け散らない以上、天使はいつまでも神の奴隷だ」

 問題は、その神が正しいかどうかであろうか。
 妖精界にも信仰の概念はあるが、妖精にとって崇敬の対象は王である。
 だからこそカリアにも思うところはある。王族の独裁は、腐敗と歪心を呼ぶ。

「天使の正義が、神の正義が、万人の欲する正義とは限らない……ということか」
「そういうこと。
 信仰の拠り所、理想化された神は悪徳の対極に位置するとされているけどな。
 神族にもヤバいやつがたくさんいるってことは、神話を紐解けばすぐわかるこった」

 それで? と、カリアは先を促す。
 唐突な会話は、メルトがいない場所で行われているものだ。
 あの時、榊を相手にメルトがとった態度と行動について、解決を提する問いであるのか。

「天使を理想化してると、現実とのギャップに苦しむぞってことかな」
「今更だな」

 ジェイの遠回しな苦心を、カリアはあっさりと覆す。

「ケーキの取り合いで喧嘩できる天使なんて、私は他に知らない」

 穏やかな表情で告げられた内容に、ジェイは一瞬の驚きをみせ、やがてニヤリとした笑顔で返した。

「そうだな」

 鳥のさえずりが聞こえる、深い森の中。鬱蒼と生い茂る緑に細く続く獣道。
 清涼な魔力の残滓は、この先にサニーが向かったことを示唆している。
 眠れる姫をさらった、黒衣の騎士を追いかけて。

(あの時の『お仕事』みたいです…?)

 メルトはふと、脳裏をよぎった思考に瞳を伏せる。
 それ以上は、考えてはいけないことだ。

 ひとつ頷いて、膨れっ面を用意した。
 そして、もう何度目になるかわからない大声を、後方でのんびりついてくる仲間相手に投げつけた。

「遅いです! はりーあっぷです!
 メルトを先にいかせたりなんかして、魔物に襲われたらどう責任とってくれるですかー!」

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ふらふらと漂う木片。
つれづれなるまま、
書き綴ってます。

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