2011/03/05 (Sat) 偽島60日目＠日記

　なにもなかったです。

「………」

　妖精の勘に誘われて砂漠を調べてみたけど、なにもおかしなとこはなかったです？

「コラ。何、全責任をカリアに負わせようとしてんだ？
　そもそも、お前がコッチデスーアッチデスーとふらふら飛び回ったせいで、目的地に着いてないだけだろうが！？」

　そんなこともあったような。

「目的地には着かなかったが、砂礫の淵沿いのコースではあったな。
　そして、そこに何の変わった兆候もなければ……、それは、何もないということなのだろう」
「オイオイ。別にメルトを庇ってやる必要はないんだぜ？」
「非は認めねばなるまい。すまない、無駄足を踏ませた」

　そ、そんなことないです？
　メルトだって、漂ってくる香りに気を取られて脇道を正しいルートだと適当に案内してしまったですから！

「やっぱりお前の責任じゃねえかー！」

　あたたたた、痛い、痛いですー！？

「私も鈍ったものだ。このような勘の外しかたをしてしまうとは」
「いやー？ 案外、島のせいかもしれないぜ。
　自然の地形ならいざ知らず、要所要所に何者かの手が入ってっからな」

　何者か。
　それを示す言葉は存在しないです。神さえも、人さえも知らない島の生成条件。
　島がなんであるか、それを示す言葉を持っているのは、もしかしたら榊だけなのかもです。
　あの道化師が、すべての鍵を握っている。

「なんにせよ、とっとと引き返す方がよさそうだな。
　能力の高い妖精を引っ掛ける、そんな悪戯を仕込める相手を俺は知ってるぜ」

　―――ッ！？

　警告を発する暇もなかったです。
　殺気も感じさせずに空から降ってきた透明な激流。
　一番高く飛んでいたメルトの脳天を無音でガツンと叩き込んだ高圧魔力。
　爆音が土煙を巻き上げて、風圧の勢いに乗せられて吹き飛ばされるという一連の動作。

　トラップだと、遠くジェイの言葉が聞こえたです。
　合流は階段だと、遠くカリアの言葉が聞こえたです。
　同時に出現した複数の気配の存在を、メルトが伝えたです。

　最初の魔力に気づかなかったのは、メルトの言い逃れできないミス。
　砂漠が誘う警鐘には気づけたのに、潜む悪意を看破できなかったのですから。

「ちょっと、本気で怒ったですよ…？」

　矢に風を纏わせて、視界を遮る砂霧を吹き飛ばす。
　陰より空中を疾ってきた妖精が二体。地表を駆けるは将軍の風格を持つ原生動物。
　どちらも正気の瞳を宿しておらず、水晶体の奥に道化師の気配を映し。

　　――個々の実力を測らせていただくとしましょうかねぇ？ ヒヒッ！

　ならば測るがいいです。
　これが、我等の実力だと思い知るがいいです…！