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歌を唄う猫の夢

定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。

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 だが、其処は悪夢と呼ぶべき戦場であった。

 焦点が結ばれていない無機質な眼をした偽葉の傀儡たちが、オリジナルから読み取った戦闘技術を惜しげもなく振るう。
 それぞれの目的を持ち、障害として、あるいは試練として立ちふさがってきた強敵。
 彼らを模した偽葉という存在が複数群れなして襲いかかってくる光景は、まさに悪夢以外の何物でもない。
 ましてや、痛みを感じる術もなく、肉体の限界を越えても衰えぬ破壊力は、探求者たちの実力を確実に削り取っていく。

「く……!」
 カリアが微かに呻き声をあげた。白い二の腕から吹き飛ぶ赤い鮮血。
 仲間の負傷を察したジェイが召喚したラファエルをカバーに入らせるが、いとも容易く削り飛ばされた。

「リディアーヌ!」

 偽葉に喰われた金色の髪の少女。
 つい先刻、更に多くの人数でかかり辛勝とも呼べるギリギリの状態で撃退した、エキュオスの魔人。
 彼女は左右に仲間を得て、哄笑に似た絶叫をあげる。

『ひゃあははははははは! ひいゃあははははははははッ!!』

 激震が大気を粉砕する。
 マナの濁流が弓を引き絞っていたメルトをぐらぐらと煽り、狙いを強く乱させた。
 
「無理ですー!?」

 エーテルの身体を炎へ換え、豪熱で偽葉を怯ませながら距離を取る。
 この術は強力な反面、メルトに限界が近づいていることを知らせる警鐘でもあった。
 
「……やべェな」

 大剣を杖の如く突き立てるジェイにも限界が近づいている。
 もう、何匹もの偽葉を撃退した末に現れたのがリディアーヌだ。
 勝てない相手だとは思っていないが、彼女を退けたあとに体力が続くかどうかは怪しい。

「がんばるのねぇ……でも大丈夫かしら? こんなにマナを浴びせて。」

 ユグドラシルに背を預けていた白き少女カエダが、感心したように呟いた。
 薄い水色の瞳が、退屈そうに揺れている。

 ご明察。と、卑屈な笑い声とともに答えたのは榊だった。
 かの道化師はユグドラシルの枝に座り、片足をあげた姿で愉しそうに戦場を見下ろしている。

「いやいや、この島に対抗し得る力を模索したのですがね……やはり強大な力にリスクはツキモノのようですッ!
 …まぁそれは、お互い様でしょう? …ククッ!!」
「……その前に、力尽きるのはそっちよ」
「貴女の領域下に長居はしたくありませんからねぇ……」

 思案を含めて呟いた榊が、パチンと指を鳴らした。
 カエダの周囲に浮かぶ宝玉が、ほのかに明るく輝く。

「一気に行きますよッ!!」

 榊が大きく両腕を広げる。瞬間、彼の胸元から再び大量のマナが放出された。
 金色の粒子は風に細かく溶けて場を支配する。
 探求者たちは感じただろう。自らの力に倍化する余裕が出来たことを。
 だが、それと同時に察しただろう。マナの追い風は、偽葉にも強大な力をもたらしていることを。

「気を付けろ、この力には副作用がある!」

 叫んだところで意味はないことは、ジェイが一番よく理解していた。
 頷く手間も惜しみ、仲間たちは全力を尽くしてリディアーヌの爆撃に抵抗している。
 その破壊力、まさに震天動地。

 ――そして、戦場は制圧される。
 
 動く者を見失ったリディアーヌは、口元からみっともなく涎を垂らしながら次の相手を探して彷徨うのみ。
 探求者の多くを、たった1人で虐殺していく彼女は、まさに死神の名が相応しい。

「…カリア、生きてるです?」
「当然だ。しばらく動けそうにはないが」

 慢心などしていない。むしろ、過剰に警戒すらしていた。
 絶望を相手に戦いを挑んでいる。そのような気持ちさえ持っていた。
 実力を根こそぎ潰し尽くされ、後に残るは敗北者となった者のみ。

「あらら、大丈夫かしら? 少しずつこの場から人が離れていっているようだけれど」

 カエダがほのかに微笑を浮かべて告げた。

「…ヒヒッ……そう悪いことばかりでもありませんよ。
 マナの供給先が少なくなるにつれ、ひとりに与えられる量も多くなりますからねッ!
 2倍ッ! 3倍ッ!! さらに倍ッ!!
 7つの球を集めて願いを叶えてしまうくらいの世界を軽々と実現してみせましょうッ!!」

 榊はとても楽しそうに腰を折って囀る。
 道化師の過剰を越えて異常な演出に、少女は深くため息をついた。

「あの野郎、頭イカれてやがる」
「同感だ」
「メルトは知ってたです」

 目指すは赤毛の少女が封じられた宝玉。
 しかし、それ以上にふざけた黒スーツを殴り飛ばしたくて仕方がない。
 全員の目的がムカつきで一致しつつあるその目前に、新たな影が現れた。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!!」

 壊れた黒甲冑を着た男が、天を見上げて野獣の如く咆哮を轟かせている。
 肉体を覆う闇色の瘴気は、リディアーヌ級のマナを感じる。
 金髪の少女を狂った天使と呼ぶならば、黒髪の戦士は狂った魔人と呼べるだろうか。

 ベルクレア第11隊、カーナルド。――その、成れの果て。

「……みんな、どうなっちゃうのかしら」
「………その件については、私はただただ強く期待を抱くのみですなッ!」

 悪夢は続く。


 こぽり、こぽりとエーテルの流体に包まれて。
 赤い髪の小さな精霊は微睡に深く夢を観る。
 全霊を利用され尽くし、やがて生きることを諦めた少女は今、何を想うのか――。

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ENo.58 夢猫ぴあの
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ふらふらと漂う木片。
つれづれなるまま、
書き綴ってます。

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