忍者ブログ

歌を唄う猫の夢

定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。

2024/04    03« 1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  29  30  »05
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 少女は、羊水に似たエーテルの中で微睡んでいた。

 ――逃げろ!

 内耳に木霊する、大切な家族の言葉。
 出来ない、と応えた。彼は自分を犠牲に、私を活かそうとしている。
 逃げてほしいのはこちらだ。彼には、償いきれないほどの罪を負わせている。
 幸せに辿りつく道はもう何処にも無いけれど、せめて、生きて欲しいと願っていた。
 笑えない私のために、笑っていてくれればいいと思っていた。

 あの日、激震と共に島はあえなく崩壊した。
 原因はわからない。的確に説明をくれる魔術師も、勘で正解を導き出す有翼少女も、側にいなかったから。
 ただ、私だけがそこにいた。
 七色に変化するシャボン玉のような空間に、ひとり閉じ込められていた。
 目前で展開されゆく地形の大変化、生命の大虐殺に、慟哭するばかりで無力だった。

 空中にたゆたう硬質の結界に自分を閉じ込めたのは、黒兎のぬいぐるみに憑依していたコノハズクの神霊。
 ただ私を生かして逃がすためだけに、衰えゆく自らの神気を使いきった。
 ともに冒険した仲間すら見捨てて、家族である私を最優先とした。

 ――さようならだ、ふれあ。

 意味がわからない。
 仲間を、家族を失ってまで生きのびなくてはならない理由がわからない。
 アイヌの村でも、蝦夷の反乱軍でも、都大火の騒乱でも、島の探索渦中においても、死神の鎌から逃れてきた。
 すべて、大切な何かを犠牲にして生き恥をさらしてきた。
 命を守ってもらえる価値が、私にあるとはとても思えなかった。
 それなのに、何故、みんな私を生かそうとするのだろう?

 力が入らない膝を落とし、破れない結界の壁面に血で染まる手のひらを叩きつけ。
 目前で失われていく夥しい数の命を、茫然と見送る最中に、彼が現れた。

 ――探しましたよ! 彼ならこうせざるを得ないと思っていましたが、予想通りすぎて笑ってしまいますね。…ヒヒッ!

 道化師の姿をもつ死神。
 私の人生は、常に彼によって叩き潰されてきた。
 だけど、もう怒りも感じない。心にぽっかりひらいた空洞には、憎しみや恨みといった悪感情も含まれていたのだろう。

 道化師は意外そうな表情すら見せなかった。
 こうなることは識っていたのだと、いつもの邪悪な笑みで語りかける。

 ――さぁさ、お眠りなさい災禍の巫女よ。そして私の望みのために、もうひと働きしてくださいな!

 もう、どうでもいい。
 これ以上、私を守ってくれるひとは存在しないのだから。
 守られる価値もない私だから、それは当然の行く末。
 ごめんなさい、アルワン。ごめんなさい、ラズ。ごめんなさい、リズ。
 私はもう、ここでおしまい。


「そんなことないです?」


 悪夢が繰り返す微睡みに、不意にさしこんできた光があった。


「助けたいと思わせる生命には、価値があるです」


 目を瞑り、耳を塞ぐ私に、圧倒的な輝きを魅せて告げられる言葉。


「コロボックルが自分に価値を見いだせないのは当然です。
 価値は、常に周囲にいる者が決めるのであって、自分で量れるものではないのですから」


 反駁しようと口を開くが、音に変わらない。乾いた声帯が、振るわせ方を忘れてしまっていた。


「だからメルトは、ふれあを助けるです」


 貴方とは初めての出会い。貴方に私の価値など量れるはずもない。届かない声が叫ぶ。


「当然です。メルトにとって、ふれあの価値なんてどうでもいいです」


 絶句。繋がらない意味に、思考が真っ白に染まる。


「メルトは、ノエル――いえ、アニエスが価値を感じた貴女を助けるのです」


 アニエス。名前に聞き覚えがある。私と私の家族のために、自分の命を投げ出した御使い。


「何度でもいうです。ふれあには、多くの命で支えられる価値があるです。
 それでも死にたいと願うなら、想いを踏みにじる価値を自分に感じるなら、生き延びた後で好きにすればいいです」

 …………。

 突き放した物言いは、友人でも家族でもないからこそ口にできるものだ。
 ただ純粋に、勝手に助けるから、勝手にしろと言っているのに等しい。
 助ける相手の心までは背負わない。でも、助けたという現実だけは押し付ける。
 酷い話だった。酷過ぎて、涙がでてくるぐらいに。

 だから私は、なけなしの力を総動員して答える。
 砕けた感情の欠片をかき集めて、傲慢な天使へ最も素直な激情を叩きつけた。


  ――――助けて!


 亜空間を駆ける暗い通路の中、天使は、七色に輝く宝玉を大切に抱えて翔ぶ。
 宝玉の中、羊水に似たエーテルの中で微睡むは赤い髪を持つ小さな精霊。
 手のひらサイズの身体に多くの想いを詰め込んだ少女は、眦にかすかな涙を煌めかせて眠る。

「もちろんです。愛を忘れた子を守護するのは、メルトの役目です」

拍手[0回]

PR
お名前
タイトル
メール(非公開)
URL
文字色
絵文字 Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
コメント
パスワード   コメント編集に必要です
管理人のみ閲覧

この記事へのトラックバック

トラックバックURL:

カレンダー

03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30

プロフィール

六命PC
セルフォリーフ:
ENo.58 夢猫ぴあの
アンジニティ:
ENo.106 梟霊アルワン

Sicx LivesのPLのひとり。
ふらふらと漂う木片。
つれづれなるまま、
書き綴ってます。

関連サイトリンク

Sicx Lives
 六命本家 .

木漏れ日に集う
 取引サイト
六命wiki
 うぃき

うさ☆ブログ(・x・)
 神検索
Linked Eye
 無双検索
六命ぐぐる
 無敵検索
未知標
 MAP,技検索

万屋 招き猫
 情報集積地
エンジェライトの情報特急便
 情報集積地
ろくめも
 付加情報特化
英雄の故郷
 合成情報特化
六命技データベース
 技情報特化
わんわんお
 敵情報特化
適当置き場
 敵出現テーブル他
手風琴弾きの譜面帳
 取得アイテムやペット

六命簡易計算機
 簡易計算機
紳士Tools
 PK,素材情報明快化
紙束通信研究所
 戦闘情報明快化

犬マユゲでした(仮)
 blog情報速達便
小さな胡桃の木の下で
 新着ニュース特急便

個人的閲覧サイト

空に堕ちるまでの朝
 ジェイ(189)さん
うたびとのきおく
 バジル(428)さん

星ト月ヲ見ル人
 ラーフィー(709)さん
車輪の跡
 ミカ(402)さん

最新コメント

[05/16 backlink service]
[11/25 ふれあ(1519)PL]
[11/23 セレナ(93)PL]
[11/22 ふれあ(1519)PL]
[11/20 カシュー(553)]
<< Back  | HOME Next >>
Copyright ©  -- 歌を唄う猫の夢 --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Material by もずねこ / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]