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歌を唄う猫の夢

定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。

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「ふーっ」

 おでこに浮いた汗をぬぐうです。
 さすがに500時間ぶっ続けの儀式詠唱はメルトにも負担がでかいのです。
 天使は時間概念がないとよく言われるですが、物質界の法則支配下に存在すれば受肉してなくても影響を受けるのです。

「お、正気に戻ってる。終わったのか?」

 ジェイです。上半身裸に黒いギザギザのコートを着て、無駄な色気を振りまいてるです。
 ポテト片手にバリボリ食べているところが、目の保養的にものすごく残念です。
「隠蔽結界の配置、神儀封殻の構築、宝玉封印の解術、変質属性の融和…と、終わったですから、しばらくは馴染ませる時間待ちです」

 指折り数えて再確認。厳密には、更に細かい工程がいくつもあったですが、そこは省略。
 でも、結局のところ、やったことは奪った宝玉の中身を、別の封印基盤へ移し替えただけのことなのです。
 それもこれも、榊のかけた術式が異様に複雑だったせい。解読だけでも何十時間使ったことか。

「ジェイとカリアが手伝ってくれて良かったです。
 メルトだけだったら、倍以上の時間がかかっていたところだったのです」
「珍しく弱音を吐いているな」

 ゆったりとしたローブ姿でカリアがふわふわ飛んできたです。
 羽妖精が鎧を着ていない姿を見るのは、もしかしたら初めてかも。
 鎧を寝間着になってる程度には、いつも着ていた気がするです。

「2人とも、リラックスしすぎじゃないです?」

 少々呆れて、ツッコんでしまいました。
 いつもはボケを噛ますところですが、今のメルトには気力が足りません。

「遺跡外に3週間も逗留させられちゃなぁ」

 ジェイの呟きに、コクコクと頷くカリア。
 汗や返り血で汚れる探索もしばらくしてないです。毎日風呂に入って肌を磨き、連日遊び通していれば気持ちに余裕も出るもの。
 とはいえ、今度はこちらが追われてる身だと自覚して欲しいとこなのです。
 いまだ地下で奮闘している探索者はいるですが、彼らがユグドラシルに勝てるとは限らないのですから。

「あれ。3週間も経ってるのに、まだ偽葉戦が続いてるです?」
「ユグドラシルの影響で、時間の流れがズレているようだ。
 ベルクレア騎士団が言っていただろう、島のシステムは時間を巻き戻す能力を持っていると」

 どうやら遺跡外に次々と強制送還されている探索者達の、体感時間からの推測のようです。
 確かに、あれだけ濃いマナの影響下にあっては何が起きても不思議ではありません。

「それより、もう大丈夫なのか」
「はいです。ジェイにも言ったですが、あとは封殻環境に封印対象が馴染むのを待つだけです。
 さほど時間はかからないと思いますがー」

 メルトの前に横たわるのは、一体の黒い兎のぬいぐるみなのでした。
 かつてコタンコロカムイの神座を得ていた梟神アルワンの容れ物として使われていた媒体。
 いえ、正しくはまだ中に居るです。自我は消失し、神気の残り香だけの存在となって憑いているだけの状態ですが。
 神座の私的乱用、守護対象を個人に限定する天則違反、奉ずる者も無く、力も使い果たし、まだ気配が残っているだけでも不思議なぐらい。
 きっと、家族然と共に生きてきたコロボックルを助けるために、意地で現世にしがみついているのでしょう。
 昨今のゆとり神様世代にしては、尊敬すべき根性です。

「話は…できないのか?」

 ジェイが尋ねるですが、メルトは首を横に振るしか出来ないです。
 ぬいぐるみの内部に移し替えたコロボックルは、どうやらジェイの妹の行方を探る鍵かもしれないらしいです。
 でも、会話は無理です。コロボックルは心をマナに浸食されていて、おそらく元の姿にはもう戻れないです。
 もともと小さな身体に大きすぎる力を与えられていて、破裂寸前の魂だったせいもあるのですが。
 メルトに出来るのは、転生可能な魂にまで修復して、天界へ移送することぐらい。

「ま、気長にやるさ」

 溜息をついたジェイの想いは、どれほどのものなのでしょうか。メルトには測りかねるです。
 カリアもある魔術師の行方をコロボックルに尋ねたかったみたいですが、一連の会話から察して口を噤んでくれました。
 故郷を救う鍵になるかもしれない。そんな大層な手がかりが、今はぬいぐるみと化した小精霊に秘められている。
 ここにいる3人は、ある意味、その運命に縒り合わされて出会ったのかもしれないと感じなくもないです。

「俺たちの冒険はまだ始まったばかりだ、ってな」
「ジェイ、それは打ち切りみたいでよくない」

 柔らかな笑い声が、初夏の遺跡外に木霊します。
 風はとても優しく、のどかな景色に潤いを乗せ――、

 ――ぐにゃりと、異質な気配が大地を歪ませて。

「――ッ! 戦闘態勢!」

 ジェイが壁に向けて指印を切ると、隣部屋に安置されていた召喚用儀礼大剣が、分厚い宿の壁をすり抜けてきたです。
 同時にカリアも胸に手を当てて妖精言語を唱えてました。絡みついてきた光の帯が、愛用の騎士鎧に分子凝結し。
 メルトは動けなかったです。実は神力切れなのです。一連の儀式神咒で力を使い果たしていたのでした。

 床が砂礫の集合体であるかの如く細やかに崩壊し、地下へ吸い込み始めたです。
 螺旋階段にも似た擂り鉢状の深孔は、あえて形容するならばまるで蟻地獄。
 いえ、本当に蟻地獄でした。奥でガチンガチンと鳴らしている顎を、カリアがざっくり一刀両断してました。
 でもそれで、穴が無くなるわけでもなく。

「にゃあああああ!?」

 場に満ちた濃密なマナが浮遊能力を狂わせていたです。
 判断の遅れはとても致命的でした。ジェイが咄嗟に張った結界にすべてを任せるしかない程度には。
 メルトは黒兎のぬいぐるみを抱きしめていたです。それしか出来なかったからですが。
 助けるって約束したです。約束を守るのは、天使でなくても当然のことなのです。

(――魔法陣……?)

 薄暗い通路だったです。背後と、向こう側に青白く輝くのは見慣れた転送魔法陣の色。
 どうやら蟻地獄には仕掛けがしてあったみたいです。まあ、蟻地獄自体が何らかの仕掛けぽいのですが。
 そんな幽玄の輝色に照らされて立つ、子供がひとり。

「別の読み手が酷いことをしてくれたみたいだね。
 こんな道が作れるだなんて、どんな画期的な発明をしてくれてるんだか。
 …まぁ、それを喜ぶ人も中にはいるかもしれないけど」

 表情は読めなかったです。
 刈り揃えられた緑色の短髪の下、空色に澄んだ瞳が見えているです。
 衣装はあまり上質とはいえない使いこまれたローブ。ちょこんと飛び出た手に抱えているのは、一冊の本。

「何の用です?」

 問いかける言葉に、本を抱えた少年はかぶりを振ったです。

「迷い込んだのは君たちだ」

 つまり、罠を仕掛けたのはこの少年ではないということでしょうか。
 ならば誰が。想像できる相手は、1人しかいなかったですけど。

「この先はリセットボタンにも等しい道だよ。君たちはこの世界で生きるんだ、外なんて見る必要ない。
 行けたとしてもBadEndさ、悲惨なことになる。おすすめしないし……
 僕もそれを、…望んではいない」

 少年が本を開くと、本は自動的にバラバラとページを送りはじめたです。
 分厚い本だとはいえ、何ページ送ればめくり終えるのでしょうか。手品でも見ている気分です。

 どうやら、戦わなくてはいけないようでした。

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つれづれなるまま、
書き綴ってます。

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