2007/07/16 (Mon) 探索11日目-日記

+小+[ -Recollection- ]-小-


　黒煙が天を焦がす

　焼け堕ちた村落

　踏み荒らされた畑

　整然と並べられた死

　人間と人間との争い

　征する者と征される者

　従わせる者と従わざる者

　蹂躙する者と蹂躙される者


ただ、見ていた
見ていることしか、出来なかった
神とは、精霊とは、無力なものであると

　――いつも、過ぎた後に思い知るのだ。


　-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
+小+[ Summer Vacation ver.night -Community of ”Rental declaration”-]-小-


薄い雲を残す大空は、東より、茜を藍へ染め変えてゆく。
太陽の支配権は、月の女神へ譲渡された。星々は身を震わせ、解放の歓喜を瞬きで示す。

喧騒は過ぎ去り、静寂が訪れる――。


「………。火」

金紙や銀紙を巻きつけた小筒より、パチパチと勢いよく爆ぜる炎のカケラ。
彩り鮮やかにして激しい光の乱舞に、ふれあは目を奪われていた。
赤は白へ、白は青へ、青は再び赤へ転じ、唐突に途絶え終焉を迎える。

『ったくヨォ。これだから人間ッてヤツラは恐ろしいぜ。火を、思うがままに操るなんて、よ』

元ミミズクの神霊にして現黒猫のアルワンは、ちりんと尻尾の鈴を鳴らしながら呆然と呟いた。
当人は対等のパートナーのつもりだが、実質"主人"に近い夢猫ふれあは、隣でコクコクと相槌を打っている。


【レンタル宣言コミュニティ】のSummer Vacation企画は、第二部に時を移した。
更衣室兼、宴会場として調達された海の家では、すでに大量の酒が持ち込まれている。
波打ち際や岩陰においては、寄り添う恋人達の影も見られた。
疲れ果て、睡魔に誘われた子供達は、二階の休憩室で仲良く川の字を描いている。

大人数のコミュだけに、時間の過ごし方も様々であるようだ。

ふれあは、ちびっこ同盟コミュニティ組の面々が集まる花火遊びに混じっていた。
しかし、大和國は蝦夷の田舎者にして、時間を盛大に無駄遣いしてきた眠り姫ふれあである。
花火などという最先端の火薬技術は、初めて見るもので。そもそも、火薬の知識すらロクに持っちゃいない。
ラピスラズリ(ENo.1194)は、説明に苦労した挙句、

「つまり、色の付いた火」

大雑把に投げ捨てた。どうやら面倒臭くなったらしい。
マリィことマリエン・イグドラシア(Eno.1038)が、なにやら黒い塊を砂浜へ置いて、そこへ棒花火を近づけた。

「へび花火って言うです。うねうねして、とてもカッコイイのです」

丈の低い円柱形の塊から、ぐねりぐねりと奇妙な黒炭が湧き出てくる。
気味が悪い光景ながら、「おおー」と驚きに表情を歪めて魅入る面々。

「すごい。花火には可能性が、…ある！」
『ドコが花でドコが火なのかは判んねェが、…チッ、こいつぁヤベェ技術だぜ！』

認識と常識の距離がかなりズレているようだが、ツッコミ役のアルワンすら見るのが初めてでは無理もない。

小石ちゃんという愛称で親しまれる傍野小石(ENo.84)や、鈴を抱える妖精のクコ(ENo.467)は、ふれあの両隣、同じような背丈で眺めている。
彼女達、10cm台の背丈から見上げれば、うたこと神楽 謡(ENo.1478)がもつ線香花火の輝きすら、巨大な炎の祭典に見えるのだ。
そんな、うたの育てた火球に「わけてわけて」と別の線香花火を近づけるセスナ・アルゼス(ENo.1160)。
当然の摂理か、振動を与えられた球はあっけなく落ちて砂丘へ吸い込まれていった。

無言でじーっと、微妙に恨みがましさを含めた視線を向ける、うた・小石・クコ。
セスナは慌ててキツネ(ENo.170)の後ろに隠れるも、ねずみ花火に火を近づけていたキツネは、いきなり引っ張られて体勢を崩してしまい――

宙を飛ぶ、目標不在のねずみ花火。

支離滅裂に走り回る円形の火花に、一同は悲鳴をあげつつバタバタ足を踏み鳴らした。
やがて爆竹に似た音が鳴り、騒乱は収束する。
ちびっこ達は、ばつが悪い表情でお互いの顔を見やった。

「……ぷっ」

しかし、そんな気配もすぐに破顔で崩れた。お腹の底から溢れる笑声が、浜辺の一角に朗らかな空気を作り出す。

ふと、離れた丘の方から笛に似た響きが音をたてた。

振り返ると白い魂のような物体が、尾を引いて勢いよく空へ駆け上がっていく所。
ふれあは襲撃を連想し、緊張を神経に走らせる。
……が、次の瞬間には驚きのあまり、ぺたんとその場に尻餅をついてしまった。


ぱぁん、と――


黒夜に広がる火の雫。
金銀煌く大輪の華宴。
残滓を残し、遅れて爆音が訪れる。

「あれも花火の一種。打ち上げ花火」

隣を見れば、アルワンが目を剥いてひっくり返っていた。どうやら打ち上げ花火の轟音に度肝を抜かれたらしい。
続けて第二弾、第三弾の火薬玉が空へ向かって放たれてゆく。

誰もが無言で、宇宙に咲く打ち上げ花火を仰いでいた。
夜泳ぎしていた子供達も、夕涼みしていた大人達も、愛の囁きに興じていた恋人達も。

祭りは、いつか終わる。
忍び寄る寂寥に身が震えれど。だけどまだ、終わりではなくて。
哀しい顔をしている者など一人もいない。

――ただ夜空に花咲く想いへ、微笑みまじえて見上げるのみ。


+斜+
　※Thanks by 【レンタル宣言コミュニティ】 to 【Summer Vacation】
　　作中にお借りしたキャラクターは、レンタル宣言コミュの参加者に限定しています。
　　チキンですので無断ではありますが、出演ありがとうございます！

　▼昼：お世話になっている方々・交流してくださってる方々・闘技場仲間等
　　　　ヒュペリウス=Ｌ=ディスアークウィンド様（ENo.119）
　　　　玖狼様（ENo.701）
　　　　リーン＝ラズライト様(ENo.955)
　　　　リナ＝クロウリー様（ENo.1278）
　　　　巽 仔淡様（ENo.1757）
　　　　フェルネス・フォートレイト様（ENo.1878）
　▼夜：No.32 ちびっこ同盟コミュ参加者で、探索10日目にコミュ内発言されていた方
　　　　傍野小石様(ENo.84)
　　　　キツネ様(ENo.170)
　　　　クコ様(ENo.467)
　　　　セスナ・アルゼス様(ENo.1160)
　　　　神楽 謡様(ENo.1478)
　▼朝＆夜：超お世話になりすぎてる２人
　　　　マリエン・イグドラシア様(Eno.1038)
　　　　ラピスラズリ様(ENo.1194)
-斜-

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+小+[ The next previous notice -Travel Side-]-小-


リズこと、アレキサンドライト・リスティス(Eno.1566)は狙っていた。
アルワンこと、黒猫にして不幸なミミズクの神霊は狙われていた。

Summer Vacationで黒猫が尻尾に結んでいた赤い紐と小さな鈴は、それより数日前の事件に起因する。
本人は何とかして取り外そうと試みているが、何故か捨てることが適わない。

それはまた、後日に語られる物語である。