2007/08/29 (Wed) 探索16日目-日記

[ -Recollection- ]


あどけない笑顔はすでに無く

大声で泣き喚くことも知らず

怒りとは何かすら忘れ尽くし

感情の揺れ幅は次第に狭まり

やがて見せるのは、虚ろな夢


　-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-

[ Alwan's Eye -Travel Side-]


俺様はアルワン。猫ぐるみに封印された、ミミズクの神霊だ。
最近、哲学に目覚めている。懊悩を解き明かす立派な学問さ。…現実逃避じゃないぜ？

ところで。
神様ってのは何でも出来る存在に思われがちだが、そうじゃねェ。
一人で何でも出来るなら、そもそも多神教の意味なんて無くなるだろ？
なら一神教はどうかって、見りゃわかんだろ。手が足りなさ過ぎて戦争起きまくりだ。

西洋も東洋も、およそ神様って呼ばれる奴等には、やらなきゃならない神務ってもんがあってな。
天体を司ることだったり、星を見守ることだったり、自然を顕すことだったり。
精霊と違って万物そのものじゃねェし、信仰集めなきゃ力も発揮できないんで大変だ。
ちなみに、神務を放棄すると霊格が堕ちる。まぁ、目に見えて信仰が落ちるから当然か。

ってわけで。
人間が憧れるほとんどの神様は、理想像にしか過ぎない。
過ぎねェけど、理想が存在に投影される位階なんで、結構凄ェことは出来る。
出来るけど、神様って奴等は別に人間や動物より凄かねェよってことなのさ。



――まァ、それは、いい。
問題は、俺様の首にぶら下がってるこの鈴がなんだってことだ！

チリンチリンと音色大合唱でウルセェったらありゃしねェ！

最初は、尻尾にまたイタズラされたのかと思ッてたんだがよ。
見ればいつも通りで何も変わりない。赤いリボンに金の鈴。…アァ、いつも通りさ…。

しかし、どこかで俺様の動きに合わせて踊ってる鈴がある。

朝の貴重な惰眠時間を削って探索に探索を重ねた挙句。
顔を洗おうと近くの泉に足を運んだところでついに見つけた。

赤いリボンに金の鈴。さらに倍率ドンで銀の鈴。


『……OK、俺様。Cooooooooooolになれ』


梢の影で、頭を抱えてしばらく悩む。

知ってるか？ 普通の鳥と違って、ミミズクってのは夜行性なんだぜ？
闇を見通す瞳に高感度な耳、音を立てず翔ぶ羽根。まさに夜のハンター。

なのに猫のぬいぐるみに封じられちまってからめっきり昼行性。
磨き抜かれた鋭敏な感覚も、万物を統率する神の威厳もありゃしねェ！


『ハハ。俺様としたことが、思わず取り乱しちまッたぜ』


ミステリーサークルのように、綺麗な円形に千切り荒らした草むらに呟く。

どこかの名探偵が言っていた。真実はいつもひとつだと。
確かにそのとおり。今回の犯人は、俺様の推理によれば一人しか居ない。


+大+『リィィィィィィィィィィズ！』-大-


ぬいぐるみの足でぽへぽへと、疾風のようにキャンプに駆け戻る。

だが、いない。
犯人の痕跡は残っていた。バルサミコ酢の冷製ハーブパスタ。結構、旨い。
料理はあれど、姿が見えない。これは、犯行がバレたのに気づいて逃走したに違いねェ。


『おい、ラズ、起きろ。起きろコラ』
「…ん、なに？」
『ウサ耳娘がどこ行ったか知らねェか？ 姿が見えねェんだ』
「リズ？ リズならさっき、空中三回転しながらタロットカードでお手玉してた」
『まじで!?』
「夢で」
『もっと寝てろこのヤロウ！』


聞き込み捜索は失敗に終わった。
しかし、手がかりはある。現場を見渡して俺様は確信したね。

そう、犯人は致命的な手がかりを残していたのさ。
キャンプにはラズしかいない。――そう、姐さんの姿が見えない。

昨日の状況から察するに、姐さんは犯人の頭の上だろう。
小っちゃくてもあの握力は侮れない。無理に引き剥がすことは出来ないはずだ。
そして俺様は、姐さんの気配を追うことが出来る！


+大+『ふははははは！ 今日こそは逃がさねェぞ、リィィィィィィィィズ？』-大-


ふしゅるー、ふしゅるーと口元から不気味な蒸気を沸き立たせるアルワン。
腰掛けた木枝から、怨霊憑きにさえ見える猫のぬいぐるみを見下ろし、リズは冷汗を浮かべた。


「うっわー……。どうやって逃げよう？」


彼女の頭上には、金髪をギュッと掴んで寝ているコロポックルが一人。
念のため、略式占術でカードをめくってみた。
正位置のチャリオットが指し示す光明は…いずこ？

（つづく？）