2007/10/14 (Sun) 探索22日目-日記

[ -Recollection- ]



　Long, Long Ago――

　或る、男の過去を話そう。



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[ The Blessing Soldier -Folklore Side- ]


その少年は、神の御子と呼ばれていた。

政権闘争に敗れ中央より左遷され、下賜された領地を守る郎党も無く、
己が身に受け継がれた形無き誇りを着飾る領家の夫妻にとって、
住吉三神が賽の気まぐれに授けた霊験は、なんと皮肉な運命にまみれていたことか。

しかし、いかに少年が見目麗しく、聡明で、立派な体躯を持とうとも、
親指程度の身長しか無くば、たとえ神の御子であろうと家督を継がすわけにいかない。


少年は、追い出されるように旅に出た。


振り返れば勝手な話である。
齢四十に届こうというのに子が授からず、神に伏して祈りようやく賜った我が子というに、
背丈が人と違うというだけで、厄介者の如く放逐されたのだ。

その身に帯びるは、藁の鞘に畳針。
漆器の御椀を船に、蒔絵入りの箸を櫂とし、急流を下り目指すは都、平安京。
思春期に差し掛かった少年が見たかったのは、もっと広い、己の知らない世界だった。


住吉の浦より鳥羽へ流れ、
参詣の旅路にあった三條の宰相と巡り合えたのは、僥倖と呼べたであろうか？

三條の姫君に一目惚れした少年は、謀事を巡らして美しき恋姫を手に入れんと欲する。
正々堂々なる態度を世迷い事と嘲笑うぐらいには、彼の精神は酷く病んでいたと言わざるを得ない。

少年は宰相の後妻と意気を通じ、馬鹿正直な宰相を騙して姫共々勘当されることとなる。
とはいえ、後妻の牛耳る三條家に嫌気が差していた姫も、相当な性格であったとは記しておこう。
世にいわく、容姿と性格は同一とは限らないということだ。


そうして、二人は旅に出る。


やがて少年は、船が流れ着いた先の島で『鬼』と呼ばれる存在と遭遇した。
神に相対する種族たる彼らは、神威の恩恵を受けし者を滅ぼすために己の妖力を振るう。
住吉大神の加護を持つ少年は、体躯を生かした戦法と、生きるために編み出した戦技にて、
ついに、これらを打ち破る。

然るのち、強奪した鬼の財宝より発見した神器『打出小槌』にて、身長を延ばすことに成功。
見事、故郷に凱旋を果たしたのであった。


一時は放逐した息子。帰郷の際に傾いた家を建て直す財と三條家の姫を手に入れていた息子。
やがてその武勇譚は京へ、時の帝の耳に届く。
息子の名声を元に、少年の父、堀河の中納言は中央での復権を認められた。

少年は殿上に召され、堀河の少将と名乗ることを許される。
その裏には、後妻を暗殺しめでたく和解した宰相家の後見があったことも併記するものである。


時は移り――。


壮年となった彼は、縁の故あり、渡辺綱に次ぐ二人目の武芸の弟子を持つこととなる。
折りしもその相手は、かつて我が身がそうであったように、人より遥かに小さき精霊であったという。





その精霊もまた、鬼の住む島への旅路を運命づけられていた。

………御伽草子は流転する。それは、歴史の紡ぐ永遠の鬼ごっこ…………・・・