2007/10/28 (Sun) 探索24日目-日記

[ -Recollection- ]


『Happy Halloween！』

蛍光ピンクのラバー・ボールの上で危なっかしくバランスを取りながら、高らかな声をあげて叫ぶは一人の道化師。
交錯するクロスフェードマーク。赤・黒・白・金……、派手な色彩の衣装は見るものの失笑を誘う。

『Welcome back my friends to the show that never ends...』

恭しく、宙に円弧を描くように深々と一礼。
パン！と、白手袋の掌を叩き合わせると、街路を往く民衆の視線が引き寄せられた。

『――Ladies and Gentlemen！』

道化師は、泣き顔のペインティングでニタリと嗤う。
睥睨するは、小さな精霊。
周囲の誰よりもちっぽけな、手のひらほどの "Invisible Elder-Spirits"

『煌々と冴え渡る満月の元で、今宵ご披露するは滑稽な人形劇。
　運命操る赫き絲、白夢断ち切る金鋏、
　踊れよ踊れ、クルクルと……。ワルツのリズムで、狂々と――』

精霊は黙したまま、鞘より銀針の尖剣を抜き放つ。
確認の言葉は要らない。それは敵だと、心傷が告げていた。

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+小+[ Halloween -Community of WANDERER-]-小-


くすんだ煉瓦建築から、急速に意識を引き戻される。
荘厳な欧州の街並みは幻視、現実ではない。

見渡して気づく。ここは境界を隔てた先に在る、偽りの孤島であると。

「何の話だっけ？」

『だからハロウィンってのは……って、寝てたのかよ！』

友人の怒声を、ふれあは不思議な面持ちで見上げた。
いつもながら何を怒っているのか分からない。

「ハロウィンは知ってる。つまり、百鬼夜行」

『……。違うだろ』

「平安京の夜はにぎやかだった。101匹妖怪大行進。ワンちゃんもビックリ」

『ネズミ王国が著作剣を振りかざしてくるような話はヤメロ。……だからそうじゃなくて』

ぬいぐるみの頭の縫製繊維がぷちぷち切れる音が聞こえてきたので、押し黙る。

１週間も島中を巻き込んだ大騒動"大運動会"は終わり、間もなく後夜祭が始まろうとしていた。
日程が万聖節に被るということもあり、焚き火用の組み木を中心に、各地でジャック・オー・ランタンが飾り付けられている。
また、魔女や吸血鬼、ゾンビやゴブリンの扮装をした人々の姿も目立つ。ハロウィンの仮装だ。

『つまり、精霊ってのはそのまんまなんだ。わざわざ仮装する必要はねェんだ』

「えー」

『えー、じゃありません。人間のお祭りなんだから、そういうのは人間に任せておきゃイイんだよ！』

被っているガラス球が、肉球でぐらぐらと強く揺すられる。
抵抗するべくもなく、ふらついてペタンと尻餅をついた。

『ったく、どこでそんな奇妙な服材を手に入れてきたんだか』

ぶつぶつと呟く黒猫。
どうやら彼は、伝統ある高位精霊が、滅びた幽霊族の仮装をしているのが気に入らないらしい。
いつも誇りや血筋に価値はないと高言しているくせに、時々矛盾した物言いをするのは何故だろう。

「おーい、ふれあ。もうすぐハロウィン始まるぞ。準備はできたかー？」

ヒュペリウス=Ｌ=ディスアークウィンドこと、ヒュペが着替え用に設けられた天幕を覗き込んできた。
彼女もまた人成らざる種。月天魔と呼ばれる眷族らしいが、今の容姿はまるで猫耳メイドさんだ。

ふれあは「ん」と相槌を打って振り返った。
そして、ヒュペと目が合う。

「………。」

「………。」

物静かな夜に、吟遊詩人達の透き通った歌声が流れ出す。
組み木に炎が移され、キャンプファイヤーも轟々と燃え上がりはじめた。

"Trick or Treat！"

バケモノ達の大声ひとつ。パンプキンの角燈振りまわし、仮装行列は闇を往く。

その光景を見守る影がある。
樹齢千年を超える老木の高みに片足立ちをする道化師。二股に分かれた帽子が風に揺れる。
怪人はニタリとほくそ笑み、誰に聞かせるともなく呟いた。

『All Hallows Eve――。今宵ご披露するは……』



+斜+
　※なんとなく？ヒュペリウス=Ｌ=ディスアークウィンド様(ENo.119)をお借りしています。
　　ありがとうございます！
-斜-