歌を唄う猫の夢
定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。
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[ -Recollection- ]
見知らぬ部屋、見知らぬ匂い、見知らぬ顔。
瞳をしばたかせながら覗き込んできた少女は、心から安堵した表情を見せた。
焼きついて離れない。例えるなら、刷り込みのような衝撃。
――その笑顔は、もう二度と見ることが適わないのだ。
-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
見知らぬ部屋、見知らぬ匂い、見知らぬ顔。
瞳をしばたかせながら覗き込んできた少女は、心から安堵した表情を見せた。
焼きついて離れない。例えるなら、刷り込みのような衝撃。
――その笑顔は、もう二度と見ることが適わないのだ。
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[ -Someone's Memory- ]
地に伏した一羽の幼鳥は、傷ついた羽根を弱々しく震わせていた。
泥に煤けた体躯、生え揃わない羽毛、自力で餌を啄ばむことすら出来ない口嘴。
運命の落伍者と嗤うのは簡単だ。
放っておけば、飢えた野犬に喰われて一時の栄養となるのみ。
飛べない鳥ほど惨めなものは無く、ましてや稚鳥であれば餌以外の何者でもない。
物心つく暇もなく。
どこから見ても、完膚なきまでに、その小鳥は惨めであった。
「エカシ(長老)。肉が落ちてる」
砂埃を巻き上げながら、少女は嬉しそうに駆け寄った。
春先より夏を覆い尽くした梅雨は、広範囲に強い水害をもたらした。
作物を育てることも適わず、貯蔵する食料も腐り、流行り病が発生し、多くの死体が河に浮かんだ。
収穫の季節を待たずして、陸奥国は飢饉に陥っている。
少女が、久々の食料に心弾んだとて仕方ないことと言えよう。
まだ幼鳥に息があることに気づき、腰のマキリ(鉈刀)を抜く。
「よしなさい、陽媛」
頬に見事な白髭を蓄えた老人が、少女の蛮行を抑止する。
「なんで止める? これだけの生肉があれば、一族に行き渡る」
不思議そうに振り返る少女。老人は、スッと杖を持ち上げた。
示唆する方向には二匹の鳥の亡骸が横たわっていた。
しかし、醸す腐臭と蟲にたかられ荒らされた骨姿は、すでに彼女たちの喰える肉ではなく。
「両親は大鷲にでも殺られたか。可哀想にのう」
慈愛の篭る言葉に、だが少女は眉根をひそめた。
弱肉強食。強き者が弱き者を襲い、餌となすのは自然なことだ。
死者は大地に還り、大地は豊穣を育む。死とは決して『可哀相』なものではない。
「陽媛。その仔はまだ、生きておるよ」
一瞥して容態は診た。この仔は自力では飛び立てない。トドメを刺してやるのが情けだろう。
それとも、持ち帰るまで生かせということだろうか。
生きているということは、新鮮な肉ということなのだから。
だが、老人は緩やかに首を横へ振った。
「瞳を見やれ、愛娘よ。殺す相手を心に留め置くは、犠牲を強く者の責務ぞ」
少女は仔鳥を見据える。
大きさは自分と同じぐらいで、肉付きは良くない。一族の腹を満たすには少ないか。
毟られた羽毛が散乱しているのは、地に足掻いた証か。乾いた砂が乱れ模様を描いている。
幼く柔らかな爪は石すら穿てず、返って爪を欠いて剥がれ、血を流しているようだ。
口嘴からも血を流していた。ただ、先に染まる黒々とした赤は、本人のものではないようだ。
もしかして、大鷲と戦ったとでもいうのだろうか?
矮小にして非力な幼鳥の身の上で。愚かなりと言わざるを得ない。
しかし、その瞳は――。
「………!」
黒曜石にも似た美しい瞳孔から、少女は目を離せなかった。
射竦められていた、という表現が正しいか。生まれて間もない幼鳥に、少女は睨まれている。
憎しみの視線。近づくものを逆に喰らわんとする気魄。
「血族の行く末に涙し、蛮に堕ちても強くなろうとするは頼もしきこと。
だが陽媛、お前にその瞳を殺すことは出来まいぞ」
そっと、背後から包まれた掌。小刻みに揺れていた少女の細腕を、安心させるかの如く。
少女の持っていた鈍色のマキリを、老人は手馴れた動きで鞘に収める。
「エカシ……」
怖かった。
身動きも取れず死に瀕した幼鳥が放つ殺意に、少女は完全に呑まれていたのだった。
「大鷲に襲われて生き残るなど、普通では在りはせぬ。
親鳥を犠牲にしてでも存えた命よ。小娘のひ弱な決意如きで砕けるものではなかろうて」
老人はカカッと笑うと、少女の背を軽く押しやった。
少女は、いまだ震える拳を握り締めるように抑え込んだ。
逃げ出したい心を無理やり抑え付けての行為が、いとも容易く打ち砕かれた。
飢えつつある一族のため、自ら手を血に染める決意をした矢先にこれでは、先が思いやられる。
ふと、身体を縮こまらせていた圧迫感が消えた。
不思議に思いながら面をあげると、幼鳥の恐ろしい瞳が、薄い瞼の下へ隠れようとしていた。
「エカシ! 私は、私は……」
幾何学的配列のアイヌ刺繍がぐにゃりと歪む。
少女が、泰然と立つ老人の胸倉を掴み、ぐいと詰め寄ったのだ。
「私は、この子を助けたい!」
山の稜線に沈もうとする夕陽。たなびく薄雲の隙間より覗くは、壮大なる夜星の大河。
七月の銘を持つミミズクと、陽姫の銘を持つコロポックルは、この出会いより互いの道筋を重ねたのだ。
地に伏した一羽の幼鳥は、傷ついた羽根を弱々しく震わせていた。
泥に煤けた体躯、生え揃わない羽毛、自力で餌を啄ばむことすら出来ない口嘴。
運命の落伍者と嗤うのは簡単だ。
放っておけば、飢えた野犬に喰われて一時の栄養となるのみ。
飛べない鳥ほど惨めなものは無く、ましてや稚鳥であれば餌以外の何者でもない。
物心つく暇もなく。
どこから見ても、完膚なきまでに、その小鳥は惨めであった。
「エカシ(長老)。肉が落ちてる」
砂埃を巻き上げながら、少女は嬉しそうに駆け寄った。
春先より夏を覆い尽くした梅雨は、広範囲に強い水害をもたらした。
作物を育てることも適わず、貯蔵する食料も腐り、流行り病が発生し、多くの死体が河に浮かんだ。
収穫の季節を待たずして、陸奥国は飢饉に陥っている。
少女が、久々の食料に心弾んだとて仕方ないことと言えよう。
まだ幼鳥に息があることに気づき、腰のマキリ(鉈刀)を抜く。
「よしなさい、陽媛」
頬に見事な白髭を蓄えた老人が、少女の蛮行を抑止する。
「なんで止める? これだけの生肉があれば、一族に行き渡る」
不思議そうに振り返る少女。老人は、スッと杖を持ち上げた。
示唆する方向には二匹の鳥の亡骸が横たわっていた。
しかし、醸す腐臭と蟲にたかられ荒らされた骨姿は、すでに彼女たちの喰える肉ではなく。
「両親は大鷲にでも殺られたか。可哀想にのう」
慈愛の篭る言葉に、だが少女は眉根をひそめた。
弱肉強食。強き者が弱き者を襲い、餌となすのは自然なことだ。
死者は大地に還り、大地は豊穣を育む。死とは決して『可哀相』なものではない。
「陽媛。その仔はまだ、生きておるよ」
一瞥して容態は診た。この仔は自力では飛び立てない。トドメを刺してやるのが情けだろう。
それとも、持ち帰るまで生かせということだろうか。
生きているということは、新鮮な肉ということなのだから。
だが、老人は緩やかに首を横へ振った。
「瞳を見やれ、愛娘よ。殺す相手を心に留め置くは、犠牲を強く者の責務ぞ」
少女は仔鳥を見据える。
大きさは自分と同じぐらいで、肉付きは良くない。一族の腹を満たすには少ないか。
毟られた羽毛が散乱しているのは、地に足掻いた証か。乾いた砂が乱れ模様を描いている。
幼く柔らかな爪は石すら穿てず、返って爪を欠いて剥がれ、血を流しているようだ。
口嘴からも血を流していた。ただ、先に染まる黒々とした赤は、本人のものではないようだ。
もしかして、大鷲と戦ったとでもいうのだろうか?
矮小にして非力な幼鳥の身の上で。愚かなりと言わざるを得ない。
しかし、その瞳は――。
「………!」
黒曜石にも似た美しい瞳孔から、少女は目を離せなかった。
射竦められていた、という表現が正しいか。生まれて間もない幼鳥に、少女は睨まれている。
憎しみの視線。近づくものを逆に喰らわんとする気魄。
「血族の行く末に涙し、蛮に堕ちても強くなろうとするは頼もしきこと。
だが陽媛、お前にその瞳を殺すことは出来まいぞ」
そっと、背後から包まれた掌。小刻みに揺れていた少女の細腕を、安心させるかの如く。
少女の持っていた鈍色のマキリを、老人は手馴れた動きで鞘に収める。
「エカシ……」
怖かった。
身動きも取れず死に瀕した幼鳥が放つ殺意に、少女は完全に呑まれていたのだった。
「大鷲に襲われて生き残るなど、普通では在りはせぬ。
親鳥を犠牲にしてでも存えた命よ。小娘のひ弱な決意如きで砕けるものではなかろうて」
老人はカカッと笑うと、少女の背を軽く押しやった。
少女は、いまだ震える拳を握り締めるように抑え込んだ。
逃げ出したい心を無理やり抑え付けての行為が、いとも容易く打ち砕かれた。
飢えつつある一族のため、自ら手を血に染める決意をした矢先にこれでは、先が思いやられる。
ふと、身体を縮こまらせていた圧迫感が消えた。
不思議に思いながら面をあげると、幼鳥の恐ろしい瞳が、薄い瞼の下へ隠れようとしていた。
「エカシ! 私は、私は……」
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少女が、泰然と立つ老人の胸倉を掴み、ぐいと詰め寄ったのだ。
「私は、この子を助けたい!」
山の稜線に沈もうとする夕陽。たなびく薄雲の隙間より覗くは、壮大なる夜星の大河。
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書き綴ってます。
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