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歌を唄う猫の夢

定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。

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[ -Recollection- ]

 月光よ、狂気を孕む三日月よ
 哀れな人の身に過ぎた輝きは、私の心を深く悩ませる

 人よ、愛に情念焦がす若人よ
 我はただ照らすのみ、闇に落とす光は道標にはなり得ぬか 
 -+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
[ Flare's Eye -Travel Side- ]


 碧玉の海を奔る風が薙ぐ。
 柔らかな草叢が押しつぶされて蠢く。さながら波を打つが如く。

 世界は複雑だ。
 まっすぐ進んでいるはずが大きく方角を見失い、いつしか逆戻りしていることもある。
 かといえば等しく左右へ分岐点を拓き、振り返ることを許さぬ選択肢を迫ることもある。

 人生と呼ばれる道はなだらかでないから。
 神の悪戯が働いていると思わざるを得ないのだ。

「少し、先を急ごう」

 ラズが汗ばんだ無表情で提案したのは、ほんの数時間前のことだった。

 本来ならば進むべきルートは、影盾が散逸しているとされる左方へ曲がる道。
 過去、この島で起きた大戦の名残を思わせる遺物のひとつ、影盾。
 防具としては多少物足りないが、加工材料として使えばかなりの価値があるという。
 それを使用することで、装備の充実を図ろうとしていたのだが……。

「どうしたの? 探そうって言ってたのはラズちゃんなのに」

 きょとんとして尋ねるリズに、ラズは反応を澱ませた。

 思えば、数日前からラズの様子はおかしい。と、ふれあは思う。
 もともと気づいたのはアルワンで、「気をつけとけよ」と言われてはいた。
 鈍感なふれあには、よくわからない。いつもより魔術のキレがないな、と思うぐらいで。

「気になる噂を聞いた。このままでは、危ないかもしれない」

 噂の出所は、先ほど魔法陣から別方向へ移動した一団だろう。
 内容は難しくて理解できていない。ラズがなんとかするだろうという放任的思考もある。

「危ない? ……たしかに地下二階は、怖い敵ばかりだけど」

 それほど怖がっていないトーンで、リズが応える。
 彼女の肩に止まる妖精が「ですです」と主人に相槌を打っていた。

「危ないのは時間と事象。島に異常が観測されているらしい」

 冒険者曰く、北の果てで火山が爆発しただの、西の果てで河が氾濫して何人か流されただの。
 噂の伝言ゲームで信憑性は薄いが、その中にひとつ気になる情報があったのだという。

 宝玉の守護者が、当初より凶暴化しているということ。

 何度でも挑戦を許すくせに、一度負けた相手の前には二度と姿を現さない彼らの正体は不明。
 誰かは『導く者』だといい、『過去の亡霊』だといい、『魔法使いの手下』だという。
 目的は不明だが、彼らに勝利した時、宝玉が手に入るということだけは共通。

 宝玉には、島から受ける制約を解除する能力が備わっているという。
 探索者たちが本来持っているはずの能力の解放、あるいは眠っている能力の発現。
 力の戻り具合は様々だが、凶悪な敵がひしめく地下三階を歩けるようになった猛者もいるとか。

「凶暴度は眉唾。試してみないと判らないけど、まだ手におえる範囲。
 だけど、時間が敵を強くするなら急がなきゃダメ」

 ラズは言う。詳しい説明は、まだ出来ないようだった。

「やっぱ、古戦場は左側でよさそうだぜ。まだ影盾が残ってるのかどうかはわかんねーけどよ」

 ガサガサと草原を掻き分けて、黒い兎の長耳がぴょこぴょこと近づいてきた。
 アルワンだ。彼は斥候役を引き受けて、分岐点の先を調べに行っていたのだ。

「アルワンは、上の階に戻りたい?」

 ふれあは、思いついたままに尋ねてみる。
 脈絡が無さ過ぎて、アルワンは「はァ?」という返事を寄越してきた。

「そういや俺様も、火の宝玉を手に入れてから調子がいいぜ」

 説明を受けながら、そんな感想を挟む。
 リズはあまり体感していないようで、まだ納得いかないという顔をしていた。

「力を引き出せる装備の材料を探すより、宝玉を手に入れるほうが先、ってこと?」
「そう。どうせこの島は遺跡だらけ。拾い物を加工しても結構な強さのものはできる」

 それに、と続けたラズの言葉。

「早く遺跡外へ戻れる。ふかふかのベッドでゆっくり眠れる」
「みんなー! なにしてるのー! はやくいこー☆」

 気がつけばリズは、誰よりも先に駆け足で、地下一階へ登る階段へ向かって走り出していた。

「あ、こら待ててめェ!」

 せっかちな行動に、アルワンが慌てて追いかける。
 ふれあは背中によじ登っている最中だったため、危うく振り落とされそうになった。

 ラズは、そんな賑やかな仲間達の後姿を淡々と見送って。
 広げていた地図やコンパスを整理し、食料も減って軽くなった自分の荷物を掴む。

 手が、すべり。

 力なく、再び地上へ投げ出されたリュックを眺め。
 視線を自分の腕に移動。ぎゅっぎゅっと握力を確かめて、かすかに息をついた。




 駆け寄ってきたアルワンを、ふわりとすくって頭の上に乗せるリズ。
 兎化してからも、この定位置はかわらない。アルワンの上にふれあ。三段重ねのミルフィーユ。

「なるほどな。宝玉が与えるのは力だけに限らない、持ち主に悪影響を及ぼすこともある、か」

 呟いた親友の言葉に、ふれあは軽く首を傾げた。

「そんなこと話してたっけ?」
「話してねェな。ま、判ンだよ。だいたい、噂に賭けようとするあたりがもうダメだな」
「うん。もうダメだねー」

 リズが相槌を打った。ますます不可解なやり取り。
 でも、二人の間では話題が成り立っているらしい。微妙な疎外感。

「早く、遺跡外で休ませなくっちゃ」

 後方で、てくてく歩くラズに「はやくはやくー」と急かしながら、呟く。

「ふれあちゃんは、そういうの感じるのが苦手そうだよねー」
「鈍感だからなっイテテテテ、髭ひっぱんな!」
「鈍感違う」

 くす、とリズは微笑みを浮かべた。

「魔力が暴走しかけてる。何か、無理をしてるんだと思う。隠せてないのに、気づいてないの」

 ばかだよねー、と。
 眉根を軽くひそませながら、笑った。

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書き綴ってます。

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