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歌を唄う猫の夢

定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。

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[ Alwan's Eye -Travel Side- ]

 ガリガリガリと固い床を削りながら、あるいは削られながら滑り逝くシャドウバックラー。
 と、貴重な歴史の異物をスノーボードみたいに乗り回す、あるいは振り回されている一人と一匹。

「ああああああぁぁぁ!」
「すてき」
「素敵じゃねーよ!?」
 風圧に顔部分の布地を歪ませながら、アルワンは絶叫する。

「いいか、俺らの重量が3+1+10の15kgぐらい。スピードが時速150kmとすると、運動エネルギーは」
「計算きらい」
「諦めるの早ッ!?」

 滑る影盾は石灰質の床を抜け、常緑樹が立ち並ぶ森林へ突入した。
 アルワンは微妙な体重変化を加えることで、巧みに滑走をコントロールする。
 ギュンと風を切り、すれすれの位置をざらついた杉の木肌が通り過ぎていった。

「おー。うまいうまい」
「ハッ、夜の王にして深林の空賊、ミミズクの生まれを舐めんなー……って、違う!」

 背中に張り付く、生誕日だけは年上の精霊は、まるで他人事を楽しんでいるようで。

「いいか、姐さん。この速度でこのまま降り続けると、間違いなく俺らは吹っ飛ぶ」
「吹っ飛ぶ?」
「壁に激突するか、河に投げ出されるか、どちらにしても五体満足無事ではいられねーってことだ!」
「…ぉー?」

 わかっているのか、わかっていないのか。

 小石を利用して跳ねることで傾きをつくり、進行方向に変化を加える。
 ボード操作はもちろん初体験だが、速度にはだんだん慣れてきた。
 これでも、もっと凄まじい速度で月夜の森を疾翔出来る猛禽類の神鳥なのだ。
 受肉体を失ってから数年は経ているが、千五百年親しんだ感覚は今でも染み付いている。

 だからといって、この状況が改善されるわけではないのだが。

「んー……」

 少し考え込んでいたふれあが、アルワンの頭によじ登った。
 吹き付ける風に耐えながら、肩膝を突き、瞳を細めて視線をこらす。

「きっと大丈夫」

 ぼそりと呟く声。

「どんな根拠があって妄言口走ってやがりますか、このチビスケ」
「勘?」

 ぽふっといじけ気味に殴られた。が、むしろハタキたいのはこっちだとアルワンは思う。
 よりによって、勘ときた。
 勘は確かに大切だが、この場合、気配や風読みの類ではなく、純粋に運に違いない。

 ――だが。

 透明な雫が併走していることに、アルワンは気づく。

「水……?」

『nicht zugrunde gehen,sondern ewig leben――♪』

 透き通った歌声が、水滴と踊る。
 第五架空元素で構成された真白い翼を幻視しながら、彼は直感で理解した。
 ふれあの合図に反応して、トン、と盾から足を離す――。

 雲より濃い、濃密な水蒸気がクッションとなって彼らの周囲を包んだ。
 運動エネルギーを急速減衰し、衝撃全てを吸収しつくす水泡のコントロール。

 まるで、羽毛で造られたボールであるかのように。

「おかえり」
「おかえりなさーい☆」

 ふわりと地面に足をつけた彼らの前に、二人の人影があった。
 水の魔術師ラピスラズリと、カード占い師アレキサンドライト・リスティス。
 行き先も見えない、旅の道連れたち。

「ただいま」
「…ナイスタイミング」

 姐さんは、この結末を当然のように予期していた。
 自分達がピンチになると、必ず助けがくるとでもいうかのように。

 まだ、自分は精進が足りないということか?
 アルワンは逆さまに地面に横たわりながら、覗き込む三人の人影に苦々しく笑ったのだった。

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