2009/02/17 (Tue) 探索73日目-日記

[ Third person -NEXT Encounter- ]

　朝起きたら、１人しかいなかった。

「…どういうことかな、これは？」

　見渡すも、いつもの騒がしい同行者達の姿はない。広がるは無機的な硬床ばかり。
　昨晩はお楽しみでしたね。とか言われる空気にする予定だったのに、放置プレイとはひどいじゃないか。

　困ったことに、アルワンすらいなかった。
　状況を説明してくれる者が全くいないという心細い状況に、ふれあはフッと口端を歪める。

「さすがは私のMy Angel達。ウフフフフ、追いかけてごらんなさーいというわけだね？」

　脳内麻薬をフル稼働させた思考を巡らすと、手の平サイズの青年はゆっくりと立ち上がる。
　愛剣の存在を確認。一振り、二振りと空気を裂き、筋肉の稼働状況を確認した。

　　心がざわつく。
　　はて、いったい俺は何をしているのだろう。
　　…俺？　俺は、自分のことを俺と呼んでいただろうか。
　　そもそも、まいえんじぇるとは何だ。意味がわからない。

　不意に混乱を始めた脳内。恐らくそれは、宝籤の罰ゲームが解けかかっている証拠。
　しかし、彼がその正体に気づくことはない。
　知識が認識に直結しなければ、事象の推移を解明するという動機には成り得ないのだから。

「まぁ、なるようになるさ」
（――は心の在り処を？）

　難しいことを考えるのはとっとと諦めて、仲間を探すため合流地点へ歩みを進めようとした直後。
　頭の中に響いた言葉に、眉根をひそめる。

（……おや？　………。ほほぉ！　これはこれは…）
「誰だ？」

　天耳通か、他心通か。
　いずれにせよ、此処に在らざる存在の声が聞こえてくる事態に、ふれあは戸惑いを隠せない。

（驚きましたね、ヒヒッ　ごきげんようっ！）

　聞き覚えのある声ではない。――はずだ。
　かの道化師に近い浮薄さを感じるが、似て非なる異質な性質。

（おや…、一方通行ですか）

　感情に振り回された抑揚に、残念そうな響きが混じる。

　なるほど、こちらの心は相手に届いていないらしい。
　ラズならばどう答えるだろう。思念力場の波長が混信を起こしたとか、そういう感じだろうか。
　リズならばどう答えるだろう。きっと凄いことが起きてるんだよ、と緊張感なく笑うだろうか。

　ここには居ない仲間を思い出し、青年はつまらなさそうに溜め息を零した。

「一人では楽しくない」

　はて、この言葉は、今の自分の呟き、だろう…、…か…？
　青年の輪郭がわずかにブレる。隆々とした体躯が、一瞬、滑らかな素肌に変革を覗かせた。

（…おや？　おやおや……）

　声はこちらの事情にお構いなく、次々と勝手な独り言を投げつけてくる。

（造られしものですか。これは大変ですねぇ…、私には止められない。
　…ヒヒッ　せいぜい頑張ってくださいませ―――）

　時同じくし、ガチャリと、硬質の関節が軋む音。

　この音には聞き覚えがある。
　あれはつい先日の話。絶愛と名づけられた、流浪の人形が奏でたノイズ。

「力源―――確認、供給あり」

　コードネーム"如幻"
　偽りの島の中枢に直結した自動人形が、青年の前に牙を剥いて立ち塞がる。