歌を唄う猫の夢
定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。
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「――と、こんなところかな」
吐息に煽られて白絹のヴェールがわずかに揺れる。隠された面貌の向こうに表情は見えない。
ぼうっと眺めていたピアノは、名前を呼ばれてハッと顔をあげた。
「どうかした?」
かけられた気遣いに宿る口調は、自分のよく知る先輩のもの。
イリヤ・R・ヴァヴァーナ。ケルブの学生。
本業は錬金術師であり召喚士とも聞いていたが、タロットリーディングの腕前も相当だ。
吐息に煽られて白絹のヴェールがわずかに揺れる。隠された面貌の向こうに表情は見えない。
ぼうっと眺めていたピアノは、名前を呼ばれてハッと顔をあげた。
「どうかした?」
かけられた気遣いに宿る口調は、自分のよく知る先輩のもの。
イリヤ・R・ヴァヴァーナ。ケルブの学生。
本業は錬金術師であり召喚士とも聞いていたが、タロットリーディングの腕前も相当だ。
「ごめんなさい。……少し、圧倒されてしまっただけですの」
「それは素敵な褒め言葉だね」
イリヤが軽く頭を下げるのに、ピアノはくすりと笑みをこぼした。
「先輩、神秘的なお姿がとても似合ってましてよ。昨日の女装姿も、とても麗しかったけど」
「……それは忘れてくれないかな」
気恥ずかしさをごまかす会話。肩をすくめる仕草が、霊妙な空気を柔らかく変える。
「トレニアは、今日こちらに来てますか?」
「いや、まだのようだ」
ピアノが話題に出したのは、共通の友人の名前。
聖母の如く慈愛に満ちた笑みを振る舞いながら、本性はきっとドSに違いない神の使徒。
魔法少女変身実験の生贄にされたり、一方的に着せ替え人形のように弄ばれたりもしたが、たぶん対等の友人だ。
「体調不良というわけではないのだろうけど――、昨日は様子が変だったからね」
「いつも変ですけど、特に変でしたものね。本人は隠したがっていたみたいだけど、隠しきれるもんですか」
ピアノは頬を膨らませて断言する。イリヤも重々しく頷き。
「フェストで見かけたら、顔を出すように伝えておきますわ」
「お願いするよ。私も彼女のことは、心配だから」
イリヤの言葉に相槌を打ち、ピアノは椅子から立ち上がって深々と腰を曲げた。
闇色の天幕に煌めく光粒の乱舞。それは、まるで星空のように瞬いて。
「今日はありがとうございました。なんだか、視界が開けたような気がしますの」
尊敬の念を込めて、礼を述べる。
イリヤは鉤に折り曲げた指でヴェールを引いて、口元を覗かせた。
漆黒のクロスが敷かれた卓子の上、六芒星に配置されたカードの中心に佇む一枚のアルカナを示し、
「"愚者"は始まりのカード。貴女には無限の可能性があることを忘れないでほしい」
-+-
イリヤの経営する"アトリエ・リュキナラーラ"には、喫茶店が併設されている。
ウェイターに扮したカルサに案内された先で、お目当ての相手を見つけ、手を振った。
熱い紅茶にふーふーと息を吹いていた雛姫が、ふとあげた目線にピアノを捉え、満面の笑顔で応える。
「ピアノ、どうだった?」
「ひみつ♪」
「私は教えたのに、ずるい!」
むくれる雛姫に悪戯っぽく微笑み。
注文を取りに来た偉丈夫、セレスタに「同じものを」と注文する。
セレスタさんに、カルサさん。この二人はイリヤ先輩の御友人らしいが、どういう関係なのか未だに掴めない。
カメーリアの生徒では無さそうだが、気が付けば先輩の背後に黙って控えていることがある。
もしかしたら、イリヤ先輩はどこかの偉い貴族様だったりするのだろうか。
「お、お待たせ!」
しばらくして、もう一人の友人が姿を現した。
黒髪から、ぴょこんと狐耳を覗かせたヴァイスの後輩。蓮華。
年下で仕草も子供っぽいが、ぽやーっとした雛姫と結構抜けてるピアノより、能動的でとても頼もしい。
「お仕事終わったの?」
「うん。店長さんがKT2ライブに出演するから、午後からはお休み」
「そういえば、マイもライブに出演するようなこと言ってましたわね」
「マイさんも? 実は、ミレーユさんも出るんだよ」
蔓草に装飾されたテーブルにイベントプログラムを広げ、"Kuran'z Garage"で借りたGPS地図と突き合わせて計画を立てる。
フェスト2日目。今日は三人一緒に、祭りを見て回る約束だ。
-+-
泣いている子供がいる。なだめようとする両親の気遣いも届かず、わんわん声をあげて泣いている。
男の子から真上に視線を移せば、背の高い常緑樹の梢に引っかかる赤い風船。
フェストの出し物に気を取られたのか、うっかり紐を手放してしまったようだ。
雛姫の目配せを受け、仕方ないですわねと息をつく。
魔法学校生徒なら翔んで取りにいきたいところだが、浮遊術調整はピアノの不得意とする所だ。
指を組み、腰を落として構える。隣で蓮華が「?」と首を傾げるが、すぐに「!?」という表情に変わった。
タタタと助走をつけた雛姫が、跳ねあげるピアノの両掌を踏み台にし、ジャンプする。
「とーっ!」
鳥の化身である雛姫は、高度こそ取れないものの空中での動作を得意とする。
風船から伸びた紐を、しがみつくように掴む。何事かと眺めていた人々から、どよめきが漏れた。
――だが。勢い付きすぎたのか、頭上の王冠に枝が強くぶつかり。
雛姫の王冠は、装飾品ではなく身体の一部だ。激しい傷みと共に少女は空中でバランスを失い、悲鳴をあげた。
風船キャッチ成功に油断したピアノがあわてて身を翻すが、先に走ったのは狐耳の少年。
「…もう。やるならやるって、先に声かけてよね」
蓮華は、胸元で抱きとめた雛姫に抗議を告げる。
コクコクと、頬を真っ赤に染めて頷く雛姫。
ピアノがホッと胸を撫で下ろしたタイミングで、ギャラリーから爆発的な歓声が、称賛と共に届けられた。
「お見事」
風船を渡した子供が、何度も手を振り返すのを見送った後に、横合いから声を掛けられた。
黄緑がかった金髪を持つ、見上げる程に高身長の男性。幅広で重そうな荷物を背負っている。
「いざとなれば代わりを差し出そうと思ったのだが、必要なかったようだ」
制服の色からケルブ所属の先輩と知れる。青年は、ドラゴンと名乗った。
彼は周囲に、ぼんやり輝く紙風船を舞わせている。
想いを吹き込んで膨れる白無地の和紙。宿した心に応じて煌めき、幻想的な色彩を揺らしていた。
「子供の泣き顔を笑顔に変える、偉大なる魔法使い達に。おひとつ如何かな?」
-+-
二層体育施設、屋上グラウンド特設ステージ。
前日はフェスト開催の先駆けに、大演武パレードが行われていた会場だ。
「マイ、大丈夫かしら。朝は少し疲れていたようですけど」
アイドルグループ"KT2"ライブイベント。開始まで残り5分を切っている。
KT2の活動は詳しく知らないが、場内を満たす高揚した雰囲気が期待の高さを物語っていた。
「朝? 疲れていた?」
「私、マイを抱き枕にしていたみたいですの。抱きつき癖なんて無かったはずなのに不思議ですわよね」
起こしてはいけないと判断しました。と、抱かれっぱなしだった西園寺真衣もどうかと思うけど。
今朝の騒動を思い出しながら、ピアノは憂慮を口にする。
この懸念はライブ開始直後に無用の心配と判明するが、今のピアノに分かるはずもなく。
「マイちゃん、ぴあのちゃんの部屋に泊まったの!?」
「……れんげ、何をそんなに怒ってますの?」
不機嫌な口調に驚いて見れば、蓮華がむーっと上目使いに睨んでいた。
「ずるい、僕もぴあのちゃんの部屋に泊まる!」
「ええ!? 何がずるいんですの!? っていうか、泊めたのは女子寮で、れんげは男の子ー!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ蓮華。原因が分からず狼狽えるピアノ。戻ってきた雛姫がきょとんと訊ね、
「どうかしたんですか?」
彼女は三人を代表し、出演メンバーに選ばれているミレーユ達の楽屋へ差し入れに行っていたのだ。
「ぴあのちゃんが、僕達に断りもなくパジャマパーティやってたって」
「そんな浮かれた話じゃありませんのよ!? だって、マイが野宿するって言うから」
「それはピアノが悪いと思う。どうして呼んでくれなかったの?」
「えっ、私が悪いんですの?」
「うん、悪い」「悪いね」
揃って断定され、ピアノは二の句を失う。
ねー、と解り合う蓮華と雛姫。
納得いかない展開に、抗議しようと口を開いた時、
照明が消え、広大な場内に闇が落ちた。
ざわめく声が消え、静寂が支配する。一拍、二泊、音のない瞬間が続き。
不意に閃いた、空間を斬るレーザー光。ドンと火術の爆発音が響き、紗幕が消失した。
カメーリエ制服に黒タイツを合わせた"KT2"のアイドルが、一斉に唄を叩きつけ。
観客のボルテージが刹那に高潮し、文化祭特別ライブが華やかに走りだした。
-+-
西の空が、夕焼けの朱に染まっている。
疲れて眠る子供を背負う大人達、頬を染めて手を取り合う恋人達。
2日に渡り大騒ぎを繰り広げたフェストは、そろそろ閉幕を迎えようとしていた。
"Miniature Garden"の片隅、フルーツジュース片手にベンチに腰かけ茜空を見上げる三人。
ふと、肩にもたれる重みに気づく。
「あれ。ヒナちゃん、寝ちゃった?」
「みたいですわね。起こすのも忍びないけど、閉会式は全員参加だから…」
心地よい気怠さが、躰の中奥で疼いている。
遊び切れなかった気もするが、それ以上に目いっぱい楽しんだ実感もあって。
「もう食べられないよ…。ぱえりあはお腹いっぱいだよ…」
昼過ぎに食べた"カフェ・オリュゾン"の夢を観ているようだ。
そうは言いながら、すぐ次の店へ飛びついていったのは雛姫だった気もする。
「まだ、後夜祭が残ってるよ?」
蓮華が、ピアノの瞳を真っ直ぐ射抜きながら言う。
「それにフェストが終わっても学校生活は続くから。始まったばかりだよ、きっと」
男の子の顔つきで告げる蓮華に、ピアノは一瞬だけ見惚れた。
「そうですわね。…後夜祭、れんげは私と踊って下さる?」
「よろこんで」
胸に手を当て、気取った礼をする蓮華。
「ふにゃ!?」
ガタンと肩枕から滑り落ちた雛姫が、態勢を崩してベンチに顔をぶつけた。
きょろきょろ見渡し、慌てる二人の姿を見つけ、
「起こしてー?」
当然とばかりに差し出された両手。顔を見合わせ苦笑した、蓮華とピアノ。
腕を掴んで、ぐいと引っ張る。雛姫はその勢いのまま、少年と少女の首元へ飛びついた。
もつれて倒れゆく人影。斜陽は校舎に降り注ぎ、大時計の針が刻限を示す。
夕闇に、閉会式の始まりを告げる鐘が鳴り響いて――。
※『ツァオベラー・フェスト参加中!』Eno.40,96,137,1427,1445,3159,3177,3183 の方々をお借りしています。
「それは素敵な褒め言葉だね」
イリヤが軽く頭を下げるのに、ピアノはくすりと笑みをこぼした。
「先輩、神秘的なお姿がとても似合ってましてよ。昨日の女装姿も、とても麗しかったけど」
「……それは忘れてくれないかな」
気恥ずかしさをごまかす会話。肩をすくめる仕草が、霊妙な空気を柔らかく変える。
「トレニアは、今日こちらに来てますか?」
「いや、まだのようだ」
ピアノが話題に出したのは、共通の友人の名前。
聖母の如く慈愛に満ちた笑みを振る舞いながら、本性はきっとドSに違いない神の使徒。
魔法少女変身実験の生贄にされたり、一方的に着せ替え人形のように弄ばれたりもしたが、たぶん対等の友人だ。
「体調不良というわけではないのだろうけど――、昨日は様子が変だったからね」
「いつも変ですけど、特に変でしたものね。本人は隠したがっていたみたいだけど、隠しきれるもんですか」
ピアノは頬を膨らませて断言する。イリヤも重々しく頷き。
「フェストで見かけたら、顔を出すように伝えておきますわ」
「お願いするよ。私も彼女のことは、心配だから」
イリヤの言葉に相槌を打ち、ピアノは椅子から立ち上がって深々と腰を曲げた。
闇色の天幕に煌めく光粒の乱舞。それは、まるで星空のように瞬いて。
「今日はありがとうございました。なんだか、視界が開けたような気がしますの」
尊敬の念を込めて、礼を述べる。
イリヤは鉤に折り曲げた指でヴェールを引いて、口元を覗かせた。
漆黒のクロスが敷かれた卓子の上、六芒星に配置されたカードの中心に佇む一枚のアルカナを示し、
「"愚者"は始まりのカード。貴女には無限の可能性があることを忘れないでほしい」
-+-
イリヤの経営する"アトリエ・リュキナラーラ"には、喫茶店が併設されている。
ウェイターに扮したカルサに案内された先で、お目当ての相手を見つけ、手を振った。
熱い紅茶にふーふーと息を吹いていた雛姫が、ふとあげた目線にピアノを捉え、満面の笑顔で応える。
「ピアノ、どうだった?」
「ひみつ♪」
「私は教えたのに、ずるい!」
むくれる雛姫に悪戯っぽく微笑み。
注文を取りに来た偉丈夫、セレスタに「同じものを」と注文する。
セレスタさんに、カルサさん。この二人はイリヤ先輩の御友人らしいが、どういう関係なのか未だに掴めない。
カメーリアの生徒では無さそうだが、気が付けば先輩の背後に黙って控えていることがある。
もしかしたら、イリヤ先輩はどこかの偉い貴族様だったりするのだろうか。
「お、お待たせ!」
しばらくして、もう一人の友人が姿を現した。
黒髪から、ぴょこんと狐耳を覗かせたヴァイスの後輩。蓮華。
年下で仕草も子供っぽいが、ぽやーっとした雛姫と結構抜けてるピアノより、能動的でとても頼もしい。
「お仕事終わったの?」
「うん。店長さんがKT2ライブに出演するから、午後からはお休み」
「そういえば、マイもライブに出演するようなこと言ってましたわね」
「マイさんも? 実は、ミレーユさんも出るんだよ」
蔓草に装飾されたテーブルにイベントプログラムを広げ、"Kuran'z Garage"で借りたGPS地図と突き合わせて計画を立てる。
フェスト2日目。今日は三人一緒に、祭りを見て回る約束だ。
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泣いている子供がいる。なだめようとする両親の気遣いも届かず、わんわん声をあげて泣いている。
男の子から真上に視線を移せば、背の高い常緑樹の梢に引っかかる赤い風船。
フェストの出し物に気を取られたのか、うっかり紐を手放してしまったようだ。
雛姫の目配せを受け、仕方ないですわねと息をつく。
魔法学校生徒なら翔んで取りにいきたいところだが、浮遊術調整はピアノの不得意とする所だ。
指を組み、腰を落として構える。隣で蓮華が「?」と首を傾げるが、すぐに「!?」という表情に変わった。
タタタと助走をつけた雛姫が、跳ねあげるピアノの両掌を踏み台にし、ジャンプする。
「とーっ!」
鳥の化身である雛姫は、高度こそ取れないものの空中での動作を得意とする。
風船から伸びた紐を、しがみつくように掴む。何事かと眺めていた人々から、どよめきが漏れた。
――だが。勢い付きすぎたのか、頭上の王冠に枝が強くぶつかり。
雛姫の王冠は、装飾品ではなく身体の一部だ。激しい傷みと共に少女は空中でバランスを失い、悲鳴をあげた。
風船キャッチ成功に油断したピアノがあわてて身を翻すが、先に走ったのは狐耳の少年。
「…もう。やるならやるって、先に声かけてよね」
蓮華は、胸元で抱きとめた雛姫に抗議を告げる。
コクコクと、頬を真っ赤に染めて頷く雛姫。
ピアノがホッと胸を撫で下ろしたタイミングで、ギャラリーから爆発的な歓声が、称賛と共に届けられた。
「お見事」
風船を渡した子供が、何度も手を振り返すのを見送った後に、横合いから声を掛けられた。
黄緑がかった金髪を持つ、見上げる程に高身長の男性。幅広で重そうな荷物を背負っている。
「いざとなれば代わりを差し出そうと思ったのだが、必要なかったようだ」
制服の色からケルブ所属の先輩と知れる。青年は、ドラゴンと名乗った。
彼は周囲に、ぼんやり輝く紙風船を舞わせている。
想いを吹き込んで膨れる白無地の和紙。宿した心に応じて煌めき、幻想的な色彩を揺らしていた。
「子供の泣き顔を笑顔に変える、偉大なる魔法使い達に。おひとつ如何かな?」
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二層体育施設、屋上グラウンド特設ステージ。
前日はフェスト開催の先駆けに、大演武パレードが行われていた会場だ。
「マイ、大丈夫かしら。朝は少し疲れていたようですけど」
アイドルグループ"KT2"ライブイベント。開始まで残り5分を切っている。
KT2の活動は詳しく知らないが、場内を満たす高揚した雰囲気が期待の高さを物語っていた。
「朝? 疲れていた?」
「私、マイを抱き枕にしていたみたいですの。抱きつき癖なんて無かったはずなのに不思議ですわよね」
起こしてはいけないと判断しました。と、抱かれっぱなしだった西園寺真衣もどうかと思うけど。
今朝の騒動を思い出しながら、ピアノは憂慮を口にする。
この懸念はライブ開始直後に無用の心配と判明するが、今のピアノに分かるはずもなく。
「マイちゃん、ぴあのちゃんの部屋に泊まったの!?」
「……れんげ、何をそんなに怒ってますの?」
不機嫌な口調に驚いて見れば、蓮華がむーっと上目使いに睨んでいた。
「ずるい、僕もぴあのちゃんの部屋に泊まる!」
「ええ!? 何がずるいんですの!? っていうか、泊めたのは女子寮で、れんげは男の子ー!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ蓮華。原因が分からず狼狽えるピアノ。戻ってきた雛姫がきょとんと訊ね、
「どうかしたんですか?」
彼女は三人を代表し、出演メンバーに選ばれているミレーユ達の楽屋へ差し入れに行っていたのだ。
「ぴあのちゃんが、僕達に断りもなくパジャマパーティやってたって」
「そんな浮かれた話じゃありませんのよ!? だって、マイが野宿するって言うから」
「それはピアノが悪いと思う。どうして呼んでくれなかったの?」
「えっ、私が悪いんですの?」
「うん、悪い」「悪いね」
揃って断定され、ピアノは二の句を失う。
ねー、と解り合う蓮華と雛姫。
納得いかない展開に、抗議しようと口を開いた時、
照明が消え、広大な場内に闇が落ちた。
ざわめく声が消え、静寂が支配する。一拍、二泊、音のない瞬間が続き。
不意に閃いた、空間を斬るレーザー光。ドンと火術の爆発音が響き、紗幕が消失した。
カメーリエ制服に黒タイツを合わせた"KT2"のアイドルが、一斉に唄を叩きつけ。
観客のボルテージが刹那に高潮し、文化祭特別ライブが華やかに走りだした。
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西の空が、夕焼けの朱に染まっている。
疲れて眠る子供を背負う大人達、頬を染めて手を取り合う恋人達。
2日に渡り大騒ぎを繰り広げたフェストは、そろそろ閉幕を迎えようとしていた。
"Miniature Garden"の片隅、フルーツジュース片手にベンチに腰かけ茜空を見上げる三人。
ふと、肩にもたれる重みに気づく。
「あれ。ヒナちゃん、寝ちゃった?」
「みたいですわね。起こすのも忍びないけど、閉会式は全員参加だから…」
心地よい気怠さが、躰の中奥で疼いている。
遊び切れなかった気もするが、それ以上に目いっぱい楽しんだ実感もあって。
「もう食べられないよ…。ぱえりあはお腹いっぱいだよ…」
昼過ぎに食べた"カフェ・オリュゾン"の夢を観ているようだ。
そうは言いながら、すぐ次の店へ飛びついていったのは雛姫だった気もする。
「まだ、後夜祭が残ってるよ?」
蓮華が、ピアノの瞳を真っ直ぐ射抜きながら言う。
「それにフェストが終わっても学校生活は続くから。始まったばかりだよ、きっと」
男の子の顔つきで告げる蓮華に、ピアノは一瞬だけ見惚れた。
「そうですわね。…後夜祭、れんげは私と踊って下さる?」
「よろこんで」
胸に手を当て、気取った礼をする蓮華。
「ふにゃ!?」
ガタンと肩枕から滑り落ちた雛姫が、態勢を崩してベンチに顔をぶつけた。
きょろきょろ見渡し、慌てる二人の姿を見つけ、
「起こしてー?」
当然とばかりに差し出された両手。顔を見合わせ苦笑した、蓮華とピアノ。
腕を掴んで、ぐいと引っ張る。雛姫はその勢いのまま、少年と少女の首元へ飛びついた。
もつれて倒れゆく人影。斜陽は校舎に降り注ぎ、大時計の針が刻限を示す。
夕闇に、閉会式の始まりを告げる鐘が鳴り響いて――。
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