忍者ブログ

歌を唄う猫の夢

定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。

2024/04    03« 1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  29  30  »05
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「――と、こんなところかな」

 吐息に煽られて白絹のヴェールがわずかに揺れる。隠された面貌の向こうに表情は見えない。
 ぼうっと眺めていたピアノは、名前を呼ばれてハッと顔をあげた。

「どうかした?」

 かけられた気遣いに宿る口調は、自分のよく知る先輩のもの。
 イリヤ・R・ヴァヴァーナ。ケルブの学生。
 本業は錬金術師であり召喚士とも聞いていたが、タロットリーディングの腕前も相当だ。
「ごめんなさい。……少し、圧倒されてしまっただけですの」
「それは素敵な褒め言葉だね」

 イリヤが軽く頭を下げるのに、ピアノはくすりと笑みをこぼした。

「先輩、神秘的なお姿がとても似合ってましてよ。昨日の女装姿も、とても麗しかったけど」
「……それは忘れてくれないかな」

 気恥ずかしさをごまかす会話。肩をすくめる仕草が、霊妙な空気を柔らかく変える。

「トレニアは、今日こちらに来てますか?」
「いや、まだのようだ」

 ピアノが話題に出したのは、共通の友人の名前。
 聖母の如く慈愛に満ちた笑みを振る舞いながら、本性はきっとドSに違いない神の使徒。
 魔法少女変身実験の生贄にされたり、一方的に着せ替え人形のように弄ばれたりもしたが、たぶん対等の友人だ。

「体調不良というわけではないのだろうけど――、昨日は様子が変だったからね」
「いつも変ですけど、特に変でしたものね。本人は隠したがっていたみたいだけど、隠しきれるもんですか」

 ピアノは頬を膨らませて断言する。イリヤも重々しく頷き。

「フェストで見かけたら、顔を出すように伝えておきますわ」
「お願いするよ。私も彼女のことは、心配だから」

 イリヤの言葉に相槌を打ち、ピアノは椅子から立ち上がって深々と腰を曲げた。
 闇色の天幕に煌めく光粒の乱舞。それは、まるで星空のように瞬いて。

「今日はありがとうございました。なんだか、視界が開けたような気がしますの」

 尊敬の念を込めて、礼を述べる。
 イリヤは鉤に折り曲げた指でヴェールを引いて、口元を覗かせた。
 漆黒のクロスが敷かれた卓子の上、六芒星に配置されたカードの中心に佇む一枚のアルカナを示し、

「"愚者"は始まりのカード。貴女には無限の可能性があることを忘れないでほしい」

   -+-

 イリヤの経営する"アトリエ・リュキナラーラ"には、喫茶店が併設されている。
 ウェイターに扮したカルサに案内された先で、お目当ての相手を見つけ、手を振った。
 熱い紅茶にふーふーと息を吹いていた雛姫が、ふとあげた目線にピアノを捉え、満面の笑顔で応える。

「ピアノ、どうだった?」
「ひみつ♪」
「私は教えたのに、ずるい!」

 むくれる雛姫に悪戯っぽく微笑み。

 注文を取りに来た偉丈夫、セレスタに「同じものを」と注文する。
 セレスタさんに、カルサさん。この二人はイリヤ先輩の御友人らしいが、どういう関係なのか未だに掴めない。
 カメーリアの生徒では無さそうだが、気が付けば先輩の背後に黙って控えていることがある。
 もしかしたら、イリヤ先輩はどこかの偉い貴族様だったりするのだろうか。

「お、お待たせ!」

 しばらくして、もう一人の友人が姿を現した。
 黒髪から、ぴょこんと狐耳を覗かせたヴァイスの後輩。蓮華。
 年下で仕草も子供っぽいが、ぽやーっとした雛姫と結構抜けてるピアノより、能動的でとても頼もしい。

「お仕事終わったの?」
「うん。店長さんがKT2ライブに出演するから、午後からはお休み」
「そういえば、マイもライブに出演するようなこと言ってましたわね」
「マイさんも? 実は、ミレーユさんも出るんだよ」

 蔓草に装飾されたテーブルにイベントプログラムを広げ、"Kuran'z Garage"で借りたGPS地図と突き合わせて計画を立てる。
 フェスト2日目。今日は三人一緒に、祭りを見て回る約束だ。

   -+-

 泣いている子供がいる。なだめようとする両親の気遣いも届かず、わんわん声をあげて泣いている。
 男の子から真上に視線を移せば、背の高い常緑樹の梢に引っかかる赤い風船。
 フェストの出し物に気を取られたのか、うっかり紐を手放してしまったようだ。

 雛姫の目配せを受け、仕方ないですわねと息をつく。
 魔法学校生徒なら翔んで取りにいきたいところだが、浮遊術調整はピアノの不得意とする所だ。
 指を組み、腰を落として構える。隣で蓮華が「?」と首を傾げるが、すぐに「!?」という表情に変わった。
 タタタと助走をつけた雛姫が、跳ねあげるピアノの両掌を踏み台にし、ジャンプする。

「とーっ!」

 鳥の化身である雛姫は、高度こそ取れないものの空中での動作を得意とする。
 風船から伸びた紐を、しがみつくように掴む。何事かと眺めていた人々から、どよめきが漏れた。
 ――だが。勢い付きすぎたのか、頭上の王冠に枝が強くぶつかり。
 雛姫の王冠は、装飾品ではなく身体の一部だ。激しい傷みと共に少女は空中でバランスを失い、悲鳴をあげた。
 風船キャッチ成功に油断したピアノがあわてて身を翻すが、先に走ったのは狐耳の少年。

「…もう。やるならやるって、先に声かけてよね」

 蓮華は、胸元で抱きとめた雛姫に抗議を告げる。
 コクコクと、頬を真っ赤に染めて頷く雛姫。
 ピアノがホッと胸を撫で下ろしたタイミングで、ギャラリーから爆発的な歓声が、称賛と共に届けられた。

「お見事」

 風船を渡した子供が、何度も手を振り返すのを見送った後に、横合いから声を掛けられた。
 黄緑がかった金髪を持つ、見上げる程に高身長の男性。幅広で重そうな荷物を背負っている。

「いざとなれば代わりを差し出そうと思ったのだが、必要なかったようだ」

 制服の色からケルブ所属の先輩と知れる。青年は、ドラゴンと名乗った。
 彼は周囲に、ぼんやり輝く紙風船を舞わせている。
 想いを吹き込んで膨れる白無地の和紙。宿した心に応じて煌めき、幻想的な色彩を揺らしていた。

「子供の泣き顔を笑顔に変える、偉大なる魔法使い達に。おひとつ如何かな?」

   -+-

 二層体育施設、屋上グラウンド特設ステージ。
 前日はフェスト開催の先駆けに、大演武パレードが行われていた会場だ。

「マイ、大丈夫かしら。朝は少し疲れていたようですけど」

 アイドルグループ"KT2"ライブイベント。開始まで残り5分を切っている。
 KT2の活動は詳しく知らないが、場内を満たす高揚した雰囲気が期待の高さを物語っていた。

「朝? 疲れていた?」
「私、マイを抱き枕にしていたみたいですの。抱きつき癖なんて無かったはずなのに不思議ですわよね」

 起こしてはいけないと判断しました。と、抱かれっぱなしだった西園寺真衣もどうかと思うけど。
 今朝の騒動を思い出しながら、ピアノは憂慮を口にする。
 この懸念はライブ開始直後に無用の心配と判明するが、今のピアノに分かるはずもなく。

「マイちゃん、ぴあのちゃんの部屋に泊まったの!?」
「……れんげ、何をそんなに怒ってますの?」

 不機嫌な口調に驚いて見れば、蓮華がむーっと上目使いに睨んでいた。

「ずるい、僕もぴあのちゃんの部屋に泊まる!」
「ええ!? 何がずるいんですの!? っていうか、泊めたのは女子寮で、れんげは男の子ー!」

 ぎゃあぎゃあ騒ぐ蓮華。原因が分からず狼狽えるピアノ。戻ってきた雛姫がきょとんと訊ね、

「どうかしたんですか?」

 彼女は三人を代表し、出演メンバーに選ばれているミレーユ達の楽屋へ差し入れに行っていたのだ。

「ぴあのちゃんが、僕達に断りもなくパジャマパーティやってたって」
「そんな浮かれた話じゃありませんのよ!? だって、マイが野宿するって言うから」
「それはピアノが悪いと思う。どうして呼んでくれなかったの?」
「えっ、私が悪いんですの?」
「うん、悪い」「悪いね」

 揃って断定され、ピアノは二の句を失う。
 ねー、と解り合う蓮華と雛姫。
 納得いかない展開に、抗議しようと口を開いた時、

 照明が消え、広大な場内に闇が落ちた。
 ざわめく声が消え、静寂が支配する。一拍、二泊、音のない瞬間が続き。
 不意に閃いた、空間を斬るレーザー光。ドンと火術の爆発音が響き、紗幕が消失した。
 カメーリエ制服に黒タイツを合わせた"KT2"のアイドルが、一斉に唄を叩きつけ。
 観客のボルテージが刹那に高潮し、文化祭特別ライブが華やかに走りだした。

   -+-

 西の空が、夕焼けの朱に染まっている。
 疲れて眠る子供を背負う大人達、頬を染めて手を取り合う恋人達。
 2日に渡り大騒ぎを繰り広げたフェストは、そろそろ閉幕を迎えようとしていた。

 "Miniature Garden"の片隅、フルーツジュース片手にベンチに腰かけ茜空を見上げる三人。
 ふと、肩にもたれる重みに気づく。

「あれ。ヒナちゃん、寝ちゃった?」
「みたいですわね。起こすのも忍びないけど、閉会式は全員参加だから…」

 心地よい気怠さが、躰の中奥で疼いている。
 遊び切れなかった気もするが、それ以上に目いっぱい楽しんだ実感もあって。

「もう食べられないよ…。ぱえりあはお腹いっぱいだよ…」

 昼過ぎに食べた"カフェ・オリュゾン"の夢を観ているようだ。
 そうは言いながら、すぐ次の店へ飛びついていったのは雛姫だった気もする。

「まだ、後夜祭が残ってるよ?」

 蓮華が、ピアノの瞳を真っ直ぐ射抜きながら言う。

「それにフェストが終わっても学校生活は続くから。始まったばかりだよ、きっと」

 男の子の顔つきで告げる蓮華に、ピアノは一瞬だけ見惚れた。

「そうですわね。…後夜祭、れんげは私と踊って下さる?」
「よろこんで」

 胸に手を当て、気取った礼をする蓮華。

「ふにゃ!?」

 ガタンと肩枕から滑り落ちた雛姫が、態勢を崩してベンチに顔をぶつけた。
 きょろきょろ見渡し、慌てる二人の姿を見つけ、

「起こしてー?」

 当然とばかりに差し出された両手。顔を見合わせ苦笑した、蓮華とピアノ。
 腕を掴んで、ぐいと引っ張る。雛姫はその勢いのまま、少年と少女の首元へ飛びついた。
 もつれて倒れゆく人影。斜陽は校舎に降り注ぎ、大時計の針が刻限を示す。
 夕闇に、閉会式の始まりを告げる鐘が鳴り響いて――。

※『ツァオベラー・フェスト参加中!』Eno.40,96,137,1427,1445,3159,3177,3183 の方々をお借りしています。

拍手[0回]

PR
お名前
タイトル
メール(非公開)
URL
文字色
絵文字 Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
コメント
パスワード   コメント編集に必要です
管理人のみ閲覧

この記事へのトラックバック

トラックバックURL:

カレンダー

03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30

プロフィール

六命PC
セルフォリーフ:
ENo.58 夢猫ぴあの
アンジニティ:
ENo.106 梟霊アルワン

Sicx LivesのPLのひとり。
ふらふらと漂う木片。
つれづれなるまま、
書き綴ってます。

関連サイトリンク

Sicx Lives
 六命本家 .

木漏れ日に集う
 取引サイト
六命wiki
 うぃき

うさ☆ブログ(・x・)
 神検索
Linked Eye
 無双検索
六命ぐぐる
 無敵検索
未知標
 MAP,技検索

万屋 招き猫
 情報集積地
エンジェライトの情報特急便
 情報集積地
ろくめも
 付加情報特化
英雄の故郷
 合成情報特化
六命技データベース
 技情報特化
わんわんお
 敵情報特化
適当置き場
 敵出現テーブル他
手風琴弾きの譜面帳
 取得アイテムやペット

六命簡易計算機
 簡易計算機
紳士Tools
 PK,素材情報明快化
紙束通信研究所
 戦闘情報明快化

犬マユゲでした(仮)
 blog情報速達便
小さな胡桃の木の下で
 新着ニュース特急便

個人的閲覧サイト

空に堕ちるまでの朝
 ジェイ(189)さん
うたびとのきおく
 バジル(428)さん

星ト月ヲ見ル人
 ラーフィー(709)さん
車輪の跡
 ミカ(402)さん

最新コメント

[05/16 backlink service]
[11/25 ふれあ(1519)PL]
[11/23 セレナ(93)PL]
[11/22 ふれあ(1519)PL]
[11/20 カシュー(553)]
<< Back  | HOME Next >>
Copyright ©  -- 歌を唄う猫の夢 --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Material by もずねこ / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]