2009/03/06 (Fri) 探索75日目-日記

[ -Recollection- ]


　嵐の前の静けさ

　やがて辿りつく、流転への序章

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[ Flare's Eye -Travel Side- ]

　迷子になっていたリズが戻ってきた。

「ふぅ、大変だったよ…」

　右に天上の女神、左に海皇の名馬、背後に黒鱗の魔竜を大勢従えて。
　まるで黄昏の明暗を賭けた神話戦争にでも出かけていたかのような出で立ちだ。
　それでも、衣装の端々が焦げていたり切れていたりするあたり、一体どんな戦闘を繰り広げてきたのやら。

　一方、ラズもまた疲弊していた。
　詳しくは語らないが、守護人形ではなく東方呪術を使う亡霊を相手にしていたらしい。

「問題ない」

　感じさせる魔力量を、明らかに、著しく減衰させておいて、問題ないわけがない。

「…ん。みんな、座って。今日はここで夜営」

　陽光は、ようやく西へ傾きかけたばかり。いつもならもう少し歩く。
　背の低い草花が茂る広大な草原の真ん中を野営地に指名したのには、意味がある。
　見晴らしの良さは敵に発見される恐れも高いが、風光明媚な景色は自然に融けた精霊の力が満ちている場所でもあるからだ。

　すなわち、魔力の回復が早い。

　精霊力の扱いを思い出してから後、このようなポイントを視ることも出来るようになった。
　千年以上も使えなかった力が、何故、最近になって使えるようになってきたのかは解らない。
　記憶に引っかかりがあるとすれば、サンドラと名乗る少女に襲われて以来か。

　アルワンは斥候に出かけている。動けるのは俺様しかいねぇだろ、と言い捨てて出かけていった。
　私は留守居役。二人のボディガード。
　いざとなったら身体を張って、皆を守る所存。

「ん」

　むうっと唇を噛み締めて、矢車菊の青花が咲くなだらかな大地を見据える。
　ザザァッと、草を押し倒しながら北風が撫でていく。
　空気は乾燥しているが冷たい。まだ、春と呼ぶには早い季節のようだった。

　蒼穹に舞うは雁か、雲雀か。
　優雅に翼を広げて旋回する影。時折、地表へ襲来して獲物を銜えて空へ戻る。

　ひさしぶりに――

　弛緩に近い警戒心。ひとたび気配を感じれば鋭き刃と化す自信はあるけれど。
　いまひとたびは、この美しき光景に見惚れていたいと。

　本来なら、蕗の下に住みて生活を営んでいたはずの穏やかな小精霊は、ひそかに想うのだ。