2011/03/05 (Sat) 偽島59日目＠日記

「寄りたい場所がある」

　カリアが突然、そんなことを言い出したです。
　いつもは、意見は口にするけれど自主的に方針を決めたりしないのが、妖精の役回りだたです。

　風邪でもひいたでふたたたた。

「引いてない」

　ほっぺたをつねるのはやめてほしいですー。
　これ以上ほっぺたがのびたら、大福餅みたいになっちゃうですよ！

「しかし、お姫さまはどうみてもアッチだぜ？」

　くいっと、ジェイが親指で示した方向は、木々がなぎ倒され、石畳が割れて相当ひどいことになってるです。
　複数の魔力が残滓となって漂ってるですが、そのひとかけらは間違いなくサニーのもの。
　あの魔法使い、どこかヤケっぱちになってるです？

「そうなんだが……」

　カリアが、濁すように口ごもったです。
　理論だてて喋ることの多い妖精にしては、これまた珍しい仕草なのです。
　今なら口げんかで勝てる気がするです！

「時間の無駄だ、やめとけって」

　がふごふげふ！？
　開いたくちびるをねじるように抓まれたせいで、メルトの耳から発声の空気が抜けたですよ！？

「何か気になることでもあるのか？」

　メルトを押さえつけたまま、ジェイが訊ねたです。
　そしてメルトは、流れるような仕草で首を絞められてるところです。チョークスリーパー。
　って、気絶しちゃうです！ たっぷ、たっぷ！

「床の向こうに、砂塵が見える。反対側に沼がある場所だ、わかるか？」
「ああ。壁沿いにある地形だろ。だけどありゃ、袋小路だぜ？」
「北側の砂塵が地下から浸食してきた、とも取れるが……」

　カリアは、ニンゲン用のでっかい地図を空中に座標固定して、水地と砂地を魔力の光線でスッと結んだです。
　昼間なのに映える、美しい輝の軌跡。妖精は便利な魔法をもってるです。

「壁を隔てたこちらは、床に覆われた地形だ。
　ならば、この水脈はどういう流れで循環路を形成しているのか……」
「わかりにくいな。つまり？」
「この砂地の存在が、異常だ」
「なるほど、わかりやすい」

　ジェイはニヤリと笑って頷くと、ふっと力を緩めたです。
　その隙にメルトは逃走に成功したです！ ふははははー、油断したですねー！
　このお返しは、百万倍にして

「おい、そっちじゃない」

　はい？

「あっちに行くんだ。そっちは後回し」

　え。
　あ。そうですか。わかったです？

「お前が静かだと相談がはかどっていい。ありがとな」

　いえ、どういたしましてです？

　………。
　ちょ、それどういう意味ですかーっ！？