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歌を唄う猫の夢

定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。

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「………!?」

 驚愕を示したのは、虹色の宝玉を従えた白き少女。

 ――では、なかった。
 榊の笑顔が、わずかだが消えた。喜と楽しか感情を表さなかった道化師の素面。

「ジェイ、パスです!」

 奪いざま、神気でコーティングした宝玉を弓につがえて射ち放つメルト。
 スリングショットの弾丸の如く翔んだ球体は、必殺の勢いでジェイに命中した。
「って待てぇ!?」

 手近の魔竜を薄光の真綿に変換し、受け止める。エーテルの強制変容、人に扱える業ではない。
 咄嗟に使わされただけでも舌打ちするに十分な出来事だが、それを予期されていたことに腹が立つ。
 駄天使のくせに、いいように使いやがって。

 動きを止めたジェイへ、偽葉のがしゃ髑髏が筋肉なき関節を軋ませながら追いすがる。
 一閃。――カリアが居合を振り抜き、狂骨の怪異を破砕した。

「下がれ!」

 術式も使えないほど力を使い果たしたカリアは、仲間の首襟を掴みながら後退する。
 入れ替わりに前衛へ出るのは、ラファエルとアークデーモンの召喚神魔。
 
「ひーあー、ですー!」

 しゅるしゅると、榊の影から伸びる蒼黒い触手がメルトを捉えようと蠢いた。
 エーテルの光翼を必死に羽ばたかせて帰還しようとするも、疲弊した体力では速度が出せない。
 上下に身体を振ってフェイントをかけるが、幾本もの形に分かれた影触手は過たずメルトに絡みつく。

「離すです! 猟奇プレイはお断りですー!」

 叫ぶメルト。
 助けにいこうにも、カリアは動けない。ジェイも然り。
 彼らの間に立つ偽葉は三枚。髑髏、謎の青年、そしてディノ。
 元よりマナに侵された生命体は、輝くユグドラシルの力を受けて更に破壊的に凶暴化していた。

「宝玉と交換です!」

 榊が叫んだ。

「この天使を生きたまま腐らせたくなければ、宝玉をよこしなさい!」

 シンプルに叩きつけた脅迫は、目的を明確にして言葉を届ける。
 しかし何故、榊なのか。
 宝玉を従えていたのは、カエダの方ではなかったのか。

「メルトのことはいいです! 宝玉を渡しちゃダメですー!」

 囚われのメルトが叫ぶ。

「わかった!」
「あ、いや、やっぱりメルトも助けてほしいです? ごぼっ!?」

 影触手がメルトの口をふさいだ。悲痛な表情のメルトだが、ジェイはあえて無視する。
 交渉とは、強気で対峙すべきもの。天使の嘆願は見なかったことにしよう。

「はう?」

 仲間の心無い返事に涙交じりに唸っていたメルトだったが、不意に拘束を解かれて地面に頭をぶつけて跳ねる。
 キョロリと振り返ると、影触手は消しゴムをかけられたかのように途中で消失していた。
 あわてて翼を展開、走りながら距離を取る。

「面白そうな話じゃない」
「く……」

 メルトを救ったのは、カエダだった。
 彼女はユグドラシルの輝きを力に換え、榊の影触手を消したのだ。

「彼らを逃がさぬよう仕向けている貴女が、彼らを助けるのですか?」
「違うわ。彼らを助けたんじゃない、貴方の邪魔をしたのよ」

 カエダが微笑む。
 榊は、屈辱を口元に張りつけながら嘲笑した。

「……容赦なく、にしては甘っちょいですねぇ」
「うっさいわねぇ…………器用じゃないのよ。そのうち絶望を味わわせてあげるわ」
「えぇえぇ、そうしてくださいな。子供は無邪気が一番ですッ!」

 言い合う彼らを見て、カリアは呟く。

「マナの風が、弱まった…?」

 おそらく、メルトが奪った宝玉に関係がある。
 榊の放つマナは、外部装置を用いてコントロールされていたのかもしれない。
 ならば今が好機。

「メルト、放て」
「おまかせですー!」

 自陣に逃げ延びたメルトが、渾身の力を込めて風質の紫矢を乱舞させた。

『Portando una Jushen,Perdere l'immortalità,Provocare la morte――!』

 タイミングを合わせ、カリアの剣が指揮棒の如く揺れる。
 妖精騎士が従える二匹の竜が、ジェイが召喚した神魔が、更なる追撃を浴びせかけた。
 破壊のエネルギーが、地形を変化させるレベルで炸裂する。
 莫大な土砂が噴き上がり、偽葉を潰しながら土煙と化して視界を遮る。

「ジェイ、開け」
「任せろ!」

 いまだ半数以上もの偽葉を揺らすユグドラシル。
 周囲で戦う他の探索者たちに、残りを押し付けることになってしまうことは心苦しく思うが……。
 ジェイは着ていた衣装を脱いで投げ捨てた。更に懐剣に押し当てた人差し指から一滴の血を垂らす。
 血雫が衣装に沁みて岩盤に接地する。と、同時に闇色の炎が衣装を焼き、地面へ広大な魔法陣が描かれた。

 カエダがユグドラシルの力を偽葉へ傾けたため、結界にわずかな綻びが発生している。
 榊がマナの制御力を一瞬失ったことで、大気中のマナにかすかな乱れが発生している。
 複合する条件の狭間に、転移の扉を刻む。

「――通った!」

 複雑な模様と形状を持つ魔法陣の中央に、渦巻き模様の黒洞が開いた。
 カリアが、力を放出しすぎて気を失っているメルトを蹴りいれる。
 次いで竜の手綱を取り、自身も飛び込んだ。

「俺たちの勝ちだ」

 ジェイは呟き、にやりと口元を釣り上げた。
 二本の指を振り、別れの挨拶として黒洞へ身を滑らせる。

 視界が晴れ、カエダと榊が視線を凝らした先には、――もう、誰もいない荒野のみ。

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ENo.58 夢猫ぴあの
アンジニティ:
ENo.106 梟霊アルワン

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ふらふらと漂う木片。
つれづれなるまま、
書き綴ってます。

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