2007/11/12 (Mon) 探索26日目-日記

[ -Recollection- ]


白銀。灯火に映ゆる羽毛の群れを披き、縞梟は叫ぶ。

黒斑。堕つる影に荒れた鬼気を放ち、鷲木莵は往く。

片方は土地を護り、世の流れに殉じ、朽ち果てた。

片方は一人を護り、信じる者を喪い、消え去った。

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+小+[ Alwan's Eye -Travel Side- ]-小-


世の中、異端は必ず蔑視されると決まっている。
生い立ちであれ、環境であれ、心の在り様であれ、周囲に溶け込めない異物は排除されちまうモンでな。

神様なんて尊ばれ崇められてる奴等ですら、喧嘩もすりゃ虐待もする。
曰く、ミミズクにはコタンコロカムイ(村の守り神)は勤まンねェだの、外来種は悪しき性癖を心に隠してるだの、つまんねェ話。
HA！ フクロウとミミズクの違いなんざ、羽角の有無しかねェだろうッての！

しかし、神種同士ですら"そう"なんだから、人と精霊の間に軋轢が生まれるのは当然至極。
ヤな景色も、いっぱい観たもんさ。助けた相手に殺されかけたり、裏切りの道具に使われたり。

ま、つまり何が言いたいかってーと。
精霊だろうが神属だろうが、性根の腐った奴等が集落作ッてりゃ、常識なんてボロキレ同然の扱いだってことさ。



――でもよ。



だからこそ、貫き通してェ矜持ってモンがあるじゃねェか。
惨めでも、泥臭くても、カッコ悪くでも、ちっぽけでも。
自分を信じてくれるヤツだけは、裏切りたくねェんだ。

たとえ、死ぬことになっても。
守らなきゃならない矜持は顕然として存在する。

そう思うからこそ、命を張るワケさ。
絶対に裏切らない。裏切られない。そんな関係はこの世にあるって……思いたくはないか？



―――………・・・。



整地された往路は、旧時代の遺跡が風化する道。
静謐の中に生まれる剣戟。破裂する魔力。空隙を裂く咆哮。

宙に浮かぶカードは巨大な五芒星を結び、薄く蒼光を発す。召喚に応じた竜族の仔が、炎の吐息を吹き散らした。
長い詠唱が結ばれ、凝縮した魔法陣が水球を創る。水球はねじれ、激流に変化して狂猿の顎を殴り飛ばす。
間隙を突くように、小さな影が走る。撹乱。動く人形の狙いを逸らし、受け止め、仲間への攻撃を塞き止める。

俺様はそれを見ている。
元より前線向きの体躯ではない。ないが故に、なけなしの力を奮って護る。
一定区域の運勢を幸運寄りに傾ける力。ポロヌサ・アペ・カムイ・イノンノイタク(祭壇に奉ずる焔詞)


神は、自分のために、奇跡を起こしてはならぬ。
特定の、誰かのために、事象を曲げてはならぬ。


ならぬが故に、肉体は滅び、神威は堕ち、精神は砕けゆく。
摂理を違える代償は、緩やかなる消失の途。物言わぬ骸にもなれず、ただ喪われるのみ。



――やはり、ミミズクにはフクロウの真似は出来ないと云うことか！



蘇る怒声。背に投げられた懊悩。棘。心の喉口に引っかかり、飲み下せぬ小さな棘。
他の誰でもない。信頼を寄せていた義兄の口から零れた、毒。

そうだ。もう、自分をコタンコロカムイと信じる者は一人しかいない。
信じる者なくば、神座は維持できぬ。故に、俺様の存在を繋ぎとめられる楔は世に一つしかなく。
神務をまっとう出来なかった自分は、兄神の指摘する存在へ堕ちた。


薄く自嘲する。駄目だ。この考えは、駄目だ。


終結した戦闘。さしたる傷もなく、戦果に悦ぶ風でもなく。
日常の仕事を片付けるが如く、埃を払い、血糊をぬぐい、歩み来る三人の姿。

俺様は笑う。いつものように、不機嫌に笑う。

義兄よ。すでにこの世に存在せぬ兄神よ。
俺様はここにいる。まだ、ここにいる。正しき選択をしてきたとは、今でも思えないけれど。

世界の全てを敵にまわすことになろうとも。
吹けば飛ぶ、弱々しい木の葉の様であろうとも。
いつか大切な人が、自分を見てくれなくなろうとも。

ただ一人を護るだけの生き方。貫き通すと決めた矜持。
それが俺様の、神としての、――プライド。