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歌を唄う猫の夢

定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。

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[ -Recollection- ]


 知らない空、知らない雲、知らない景色

 たったひとつ、知っている顔


 -+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
[ Event of "湯けむり煩悩温泉" ]


パシャ、パシャ。


  パシャ、パシャ。


荒波押し寄せる水面を強く蹴り、弾く。
上から下へ、膝を支点に打ち付ける。さながら胡桃を割るが如く。

『違う違う。ただ蹴るんじゃなくて、足全体でしならせるように打つんだ』

叱咤の声が飛ぶ。
言葉の意味を考えた。思考が働けば、余分な力が抜ける。

『いいぜ。その感じ…その感じ――だーかーら、足首を強張らせんなってェの!』

語義を理解すれば実践段階へ進み、思考は動作と連結する。
要するに、余計なことを考えている間は力が抜けて上手くいっていたのに、意識するとミスが生まれるということだ。

「うう、わからない」

ビート板を浮き輪がわりにしてしがみ付き、ふれあは拗ねた口調で呟いた。
アルワンは、湯気を含んで重くなった躯を忌々しげに動かしながら、呆れ気味に嘆息する。

『何百年も海や河で揺られてたくせに、なんで泳げないかねェ』



つい、先日のことだ。島のの奥地に、温泉が発見された。

激しい濃霧、切り立った崖、およそ人類が踏破すべき大地とは思えない場所にこそ、お宝は眠る。
発見したのは温泉愛好家を名乗る冒険者たち。
大きな源泉と、幾つかの露天風呂が確認され、遺跡外からのルートも確立されて現在に至る。

今、False Islandは空前の温泉ブームに沸きかえっていた。



『だってのに、姐さんが迷子になんかなっちまうからー!』
「……いきなり当り散らすの、よくない」
『もう少し早く到着していれば、温泉覗き放題。俺様ってばぬいぐるみだし、セクシーな女性たちに抱きしめられてウハウハ』
「ウハウハ?」
『そう、ウハウハ。おっとこれ以上は精神年齢10歳の子供には聞かせられねェな!』

黒猫はふふんと鼻を鳴らした。
むーっと唸りながら、ふれあは身体に巻いたタオルケットの胸元を、ぐいと引っ張って見下ろす。
300年前よりは、成長してるはず。

自覚が芽生えたのはいいことだ、とアルワンは考える。

偽島には、何故か胸の薄い女性が多い。
だから今までは詰まらない思いもしていたのだが、最近は胸の豊かな大人の女性と接する機会が増えてきた。
アルワンとしては鼻血が出るくらい喜べる光景だが、驚くべきは姐さんの反応だった。

感情の揺れ幅が極端に少ない少女が、胸の大きさに敗北感を覚えている姿は感動に値する。
それは、喜怒哀楽の差が強くなってきたということだから。

(とはいえ、姐さんが育っちまうのも、寂しいというかもったいないというか)

不適切なことを考える神格所有者。
今更、少女の裸を見たところで何の感慨も湧いてこない。ぶっちゃけ子供の貧乳は見飽きている。



時刻は夜。すでに、温泉を舞台とする覗き魔vs警備員&女性入浴者の戦いは終息している。
勝利の行方は定かではないが、女性のほとんどはタオルケットで胸元をきっちり隠しており、警戒心は激増しているようだった。
中には堂々と裸身をさらしている女性もいるが、アルワンの位置からは湯気でよく見えない。

『ほら、休憩終了。もう一度、最初から』
「……温泉は湯船に浸かってくつろぐもの。泳ぐところじゃない」
『ティーカップ風呂はイヤだって駄々こねてンのは姐さんじゃねェか! みんなと同じお湯に入りたいんじゃねェんですか?』

つまり、そういうことだ。
温泉に辿りついたは良いが、身長10cmの背では、露天風呂は大海原のそれとたいして変わらない。
誰かが身じろぎした波紋ですら、津波の勢いになって襲い掛かってくるのだ。

ましてや泳げない、とあってみれば、危なっかしくてお湯に入れるわけにはいかない。
そのくせ、お茶碗やカップに汲んだお湯に浸かるのはイヤだという。

『……ハァ。俺様、温泉に何しにきたんだろうなァ……』

もう、何度目のため息になるだろうか。
少なくとも、女性の胸を見るために温泉に来たわけじゃないような。と、ふれあは思ったが口には出さなかった。
そもそも、元は鳥類である彼が人間の裸に興味あるという感覚が理解できない。

ふれあはビート板を抱えなおし、再び温泉の荒波に立ち向かっていく。
浮かぶことは出来るようになってきた。
あとはバタ足で前へ進むようになれれば、泳ぎはマスターしたも同然。

「見てて。今日中に泳げるようになる」
『ハイハイ。そういうセリフは、ビート板を手放してから言ってくれ』

アルワンは投げ槍気味に呟いた。
ふれあは「ん」と相槌を打ち、ビート板を脇に置いて颯爽と湯船に飛び込む。

『ッてーェ! 単身じゃ浮かないから板を使ってンだろーがよ!』

沈んで早二分半。ぶくぶくと泡だけが浮かんでくる水面。
アルワンは血相を変え、追いかけて飛び込む。綿が湯水を吸って急激に重量を増すが構っていられない。

「ごぼごぼごぼ……」


果たして、彼等2人が心から温泉を堪能できる日はやってくるのだろうか――。

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つれづれなるまま、
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