2008/05/31 (Sat) 探索41日目-日記

[ -Recollection- ]

『――歪裂を確認。即時封鎖、並びに迅速な修復作業を申請します』
『原因は特定できるか？』
『次元融解。後に衝撃による亀裂拡大。恐らく最終より数戦以内かと』
『曖昧だな。……申請を受理する。第二回戦が始まる前に修繕を完了せよ』
『了解。時空凍結処理を施行します。Akashic Recordsへの接続許可を――』


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[ Flare's Eye -Festival Side-]

　封印した魔法。其は身体を灼き、精神を破損する諸刃の如く。
　扱いをしくじれば、地図が書き換わる可能性もある。

　だが、この力が必要だ。

　杞憂ならばいい。それが最良。最悪は、予想が的中していた場合。
　命が蹂躙されていく光景を成す術も無く眺めるのは、嫌。

　出来る手段は全て打っておくのが少女の主義。
　誰かを護るためではなく、自分が在るがままでいるために。
　犠牲心とは懸け離れた、極めて合理的な回答。

『――One O sec. Limit break』

　少女は解き放つ。

　碧玉色の魔法陣が妖しく輝いた。
　次元の境界を切り裂き、高密度に収束した魔力が鎌首をもたげ。

　それは禁術と呼ばれていた。
　禁止ではなく、禁忌。本来、人が操るべき力ではない呪文。
　
「あ」

　暴走した。



　第七回闘技大会、一回戦。
　七といえばアルワン。アルワンとは、アイヌ語で七を意味している。
　もちろん、それはただの偶然に過ぎない。

　ぷすぷすと音を立てて転がるのは、相手だけではなかった。
　ふれあは、多少呆然としながら、きょろきょろと周囲を見渡す。

「わ、わわわ」

　仰天を顔に浮かべているのは、リナ＝クロウリー。
　ふれあにとって、第一回の大会から共に戦っている仲間。

「だいじょうぶ……、じゃ、ないよね？」

　こくりと頷く。文字通りの、満身創痍。
　水の属性を持つ魔力であるのに、火傷が起きているのが面白い所。
　凝縮した水圧は、まさに属性を超えた凶器となる。

「どうしてリナは平気？」

　戦闘中であることも忘れ、疑問を素直に口に乗せる。
　リナは「うーん」と悩みつつ、答えた。

「日頃の行い？」

　場外で見守る彼女の保護者バレン＝ローウェルが、頭痛そうに額を抑えた。

「……気功術の力だ」

　声は届かない。ふれあは信じた。
　振り返ると、ラピスラズリが後方で仰向けにひっくり返っている。

「ラズ、大丈夫？」
「まだ生きてる」

　生きてればいいってものでもないけれど。
　慌てて駆け寄るリナ。その白く滑らかな指先に癒しの水を宿し、ラズの口元へ流し込む。

　その姿に安堵を覚えた。

　闘技大会は、強力な特殊結界で管理されている。
　謳い文句は『核爆発級だろうが破壊神級だろうが抑え込んでみせる』というもの。
　なるほど、大会ではいまだ死人が出たとは聞いたことはない。
　伝説の勇者や悪魔、死神、吸血鬼といった第一級危険種同士の戦闘も行われているのに、だ。

「この馬鹿魔力娘！　てめぇ、あとで会場の裏にきやがれ！　ボッコボコにしてやンぞコラ！」

　舞台外、遠く木の枝にぶらーんと吊られている一角兎の縫いぐるみが一匹。
　アルワンだ。
　何か大声で叫んでジタバタしてる。どうやらこっちも大丈夫そう。

「ごめん。まだ、魔力調整がうまくいってない」

　悪びれていない表情で、ラズが言う。

「仕方ないですよ。見たところ、魔導回路の連結がズレてるみたいですし！」

　いとも簡単そうに、さらりと述べるリナ。
　目を丸くして振り返るラズ。珍しい表情だと、ふれあは内心で驚きを感じた。

「えいっ」

　ごきゅ、と鈍い音がして。
　リナの整体が炸裂した。

　――後日、ラズは納得がいかない顔で語る。

「魔力が安定するようになった。まさか、これが天使の奇跡？」

　違うと思う。



+斜+
　※No.271 レンタル宣言に基づき、ENo.1278 リナ＝クロウリー様をお借りしています。
-斜-