2009/02/13 (Fri) 探索72日目-日記

[ Event of "Blanket of Night" that "ENo.733 Renate & Maria" Presents ]

絶愛を唄った"造られしもの"を倒し、一行は迅速に行動を開始する。
悪戯に砂時計を浪費すれば、"アイツ"に先回りされ、罠を仕掛けられてしまうからだ。
ならば先手を打ち、B3F以降に通じる道筋を塞ぐ、もう一体の"造られしもの"を突破しようという試みは、至極当然の流れと言えた。

時間との勝負。馬を駆るが如く、一行は先を急ぐ。


だが、――そんな時、事件は起きた。

宵闇に輝く月光のみが、荒れ果てた大地を照らす。
他に灯りは無い。人気も無く、圧倒的な静寂に、氷を含む冷たい空気が頬を叩く。
地下に潜っているというのに満ちた月が浮かんでいる不思議な光景にも、今ではすっかり慣れてしまった。

いつものように頭の上で眠りこけていた小精霊が身じろぎしたのを受けて、
リズこと、兎耳の占札師アレキサンドライト・リスティスは、そっと手を差し伸べた。

「やぁ、リズ。今日も素敵な笑顔だね。もう食事かい？ スパイスの効いたディナーを頼むよ」
「………。」

リフティングで降ろした掌の上、目線を合わせた先、リズの耳に甘く囁きかける小精霊。

「……。ねぇ、ラズ。ちょっと聞きたいんだけど」
「なに？」

呼ばれて振り返る、歩く魔法図書館ラピスラズリこと、ラズ。
古今東西の魔術に精通する彼は、あらゆる事例を頭脳に集積しているため、常に新鮮な驚きとは無縁だ。
だが、そんな彼の表情が見るからに強張っていた。

「君の怜悧な眼差しに貫かれると、心まで見透かされてしまいそうだよ、ラズ」

変なものがいた。

「……。なにそれ？」
「なんだろう。私にもわかんない」

明らかに異常な生物がそこにいた。
ファイアレッドに燃える髪質、糧食程度の大きさしかない背丈、ハイトーンに近いアルトの声色。
全てがひとりの小精霊、彼女らの旅の同行者だる夢猫ふれあを指し示しているというのに。

「どうしたんだい、レディ達。よせよ、見つめられたら照れるじゃないか」

男だった。
逞しい胸板、ごつごつした喉仏、切れた眦に濡れた睫毛。
どこからどうみても、女の子に見えなくなっている夢猫ふれあが爽やかなウィンクをした。

ラズは無言で呪文を唱え始めた。
抑揚の無い三小節を紡いだ直後、リズの足元からそろりと逃げ出そうとしていた縫いぐるみが黄金のロープに縛られる。

「アルワン。説明」
「あ、いや、ええと、なんだ」

歯切れ悪くどもる一角兎の縫いぐるみ、アルワン。
なんとか誤魔化そうとするが、リズが「喋るまで今夜のご飯は作らない！」と宣言したあたりで観念した。

「それが、遺跡外で寄ったコンビニで宝くじを買ったんだよ…」

要約すると新年が明けた頃、600番街にある劇場前のコンビニで宝くじを買ったらしい。
枚数にして五枚。当たれば素晴らしい特典がついてくるという、素敵な魔法籤。

しかし、買ったときに彼らは気づいていなかった。
籤の隅っこ、とっても小さい文字で『外れたら罰ゲームがあります』と書かれていることに。
そして、五枚のうち一枚でも下一桁が合っていれば免れるはずが、全て外してしまったというのだ。

その結果、罰ゲームとして発動したのが性別転換の魔法。
ふれあだけでなく、偽島各地に同様の被害にあっている人がいるらしい。
なお、コンビニの店長フェンネル・ロックハート氏は現在偽島警察に取り調べを受けているとの噂だ。

「２日で元に戻るって話だから、その、見なかったことにしてやってくれねーか？」
「でも、ふれあの性格もオカシクなってるよ？　鏡を見て自分の顔にうっとり微笑んでそうな危ない人になってるよ！？」
「性別だけじゃなくて、性格も反転したんだと、思う。苦し、苦し、話したから、離して！？」

ぎゅうっと素敵なめり込み具合で締まっていく首。
血が通っていないのに青ざめていくアルワンを片手に、リズは手加減もせず「うーっ」と唸った。
ラズは嘆息し、ふれあに向き直る。

「どうしたんだい、ラズ。笑ってくれなきゃ、可愛い顔が台無しだぜ？」
「……。今日の夜営は私達がやるから、ふれあは寝て」

スッと指先で描く六芒星の魔法陣。催眠に誘導されたかのように、小精霊がくてんと横たわった。
眠りの魔法に弱いところは、相変わらずのようだ。

「今日の夜営の実況をレポートにしてくれと頼まれていたけれど」

と、溜め息。
彼はマリア＝メネルディアとレナーテ＝ケルフェンシュタイナーという二人から、ある依頼を受けていた。
それは、月光の美しく輝く今夜の夜営を記事にまとめて欲しいというもの。
特殊な霊的存在である彼女たちが、何故そのような情報を欲するのかはわからないが、特に気にならなかった。

ならなかったのだが。

気絶したアルワンを放り投げて頭をかかえているリズを眺め、寝顔さえもキザったらしく格好をつけているふれあを眺め。
彼はもう一度、大きな溜め息をついたのだった。

だがこの悪夢は、明日も終わらない――。

+斜+
　※Blanket of Night＆偽島コンビニ 劇場店前イベントにつき、主催者のお二人の名前をお借りいたしました。
　　石はなげないでください。
-斜-