2009/02/25 (Wed) 探索74日目-日記

[ Third person -NEXT Encounter- ]

　ラジオノイズが乱れるように、人形の輪郭が朧にほだされた。
　
　――ザザッ
　　――ザザザッ

　感情虚ろに、ただ眼前の破壊すべき相手を睨みつける青年。
　炎に例えられる紅髪を翻し、疾駆する。

「堀河一寸流、――絶技」

　千年の過去、師より受け継いだ剣闘の奉納舞を披露する。
　後継と定められるほど真摯に学んだわけではないが、似た体躯だからこそ会得した技もあった。

　形状、まさに不確実。なれど、住吉の加護にはなんら阻害にもならぬ。
　荒れ狂う暴風を刀身に凝縮し、あらゆる防御を抉り去る。
　続けて連撃。――一差し、二差し、独楽の如く回転し。

「………」

　突如、人形の姿が拡散し、紅い気体に変貌した。
　目くらましか、あるいは、それこそが真実の姿であるのか。

　一瞬、眉をひそめたふれあだが、風を背に怯むことなく足を踏み込ませた。

　人形は再び形状を取り戻す。砕かれた肩に手をあてると、たちまち復元されていく。
　まさしく一進一退。永劫に続く応酬の果てには、小精霊の力負けしかないかとさえ思わせる。

　――だが。

　決着は呆気ない幕切れを見せた。
　人形が、狂気を埋め込むべく腕を突き出した直後、ピシリと亀裂を走らせたのだ。
　亀裂は見る間に蜘蛛の巣状の罅割れを産む。

　ガシャリと、硬質の音をたてて人形は崩れ落ちた。

「……。これで、先に進める」

　如幻と絶愛を比べれば、絶愛の方がかなり手強かったように思う。
　これは、単なる守護者で終始した人形と、群れより逸れた破壊者との違いであるのかもしれない。

「さて、と。２人はどこにいるかな…？」

　疲労に上下する肩を無理矢理抑え付けて、ふれあは後方を振り返った。
　広がるは荒涼とした廃遺跡の光景。人の姿も無く。
　長期戦で粘られると、後衛を任ずる仲間達では少々手強い相手かもしれない。

　ふと気がつく。脳裏に響いていた謎の声が聞こえてこない。
　人形を破壊したことで、何らかの接続が切れたのだろうか。
　しかし、果たしてアレは何者の声であったのか……。

　思考が定まらない。うまく、考えられない。
　頭の中に液状の錆が溢れてきた、そんな不快に満ちた気配に襲われて。

　――いつの間にか、青年は少女の姿を取り戻していた。