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歌を唄う猫の夢

定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。

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 スティルフの街から南東へ、平原を抜けて森へ至る。
 街道はよく整備されていて歩きやすい。牧歌的な気候と相まって、とても長閑な旅路となっていた。

「あー。…いい加減、慣れてくれないかなー?」

 前を歩く黒衣の青年が、苦笑気味に振り返った。
 そのタイミングに合わせて、近くの木陰にサッと身を隠す。
「がるるるるるるる!」

 吠える少女、夢猫ぴあの。
 シャ-マナイト・A・ジェイドの隣にたたずむ、白衣の青年ヘクトグラーヴのバジリウスが口を開く。

「経緯を考えれば、当然かと思いますが」
「やっぱ、拾ったことにするのは無理があったかなー」

 わざとだ。わざと聞こえるように話している!
 ピアノは悔しさと怒りをない交ぜにした表情で睨みつけた。だが、その視線も彼ら2人には何処吹く風だ。

「財布は見つかったし、この世界での路銀の稼ぎ方も教えてやったのに」
「盗んだのは貴方達でしょうが!」

 思わず怒鳴ってしまうと、ジェイが口元を釣り上げた。

「いーや? 落ちてたって言ったろ。盗んだなら、中身抜き取ってゴミ箱にでも捨ててるさ」
「チンピラですのー!?」
「……私まで泥棒にカウントされているのは、何故ですか?」

 冷静に呟くバジル。ジェイは聴こえないふりをして続ける。

「嬢ちゃんだって、もう気づいてるんだろ?
 右も左も分からないこの世界、ワケありの魔術師が1人で旅をするのは楽じゃないって」

 心に突き刺さる言葉に、ピアノの肩から力が抜ける。
 項垂れた少女の姿に、街中を飛び跳ねていた快活な雰囲気は微塵もない。
 財布1つを失っただけで、寝床どころか今日の食い扶持にも困ることは、嫌と言うほど思い知らされたからだ。
 セルフォリーフという世界は、自分が安穏と暮らしていた雲の上の世界とは何処までも違っていた。

「さて、そこで旅慣れた先輩から2人へのサプライズだ」

 ジェイが、背に担いでいた大剣を抜いた。
 剣身に描かれた複雑な紋様。バジルはちらと見て識別する。――それは、召喚術式をサポートするための呪紋。

「セルフォリーフを襲う異変は、生物や無機物の巨大化、凶暴化だけじゃない。
 原住民にも危険な影響を与えている。特に、野山を棲みかにしているような風来坊にな」

 トン、と剣先を地面に突き刺し。

「あの森から俺達を狙っている殺気に、気づいているか?」
「―――!!」

 宣告の終わりより一瞬早く、シュッと空気を裂く音が聴こえた。
 ピアノは反射的に、愛用の傘で飛来する物体を叩き落とす。
 鴨の矢羽をつけた鋭利な矢。森が造る闇の中から放たれたのは、それだ。
 動揺しながら周囲に視線を送るが、ジェイやバジルは身動きもせず、己の張った結界で弾いたようだった。

「何者ですの!?」
「豹の獣皮に薬草臭……。猟師でしょうか」
「いや、違う」

 山笠帽から覗いた赤黒く濁る瞳。獲物を狩る愉悦に歪んだ笑みが、頬を裂いて耳元まで吊りあがる。
 獣皮の服を縛る腰布に、幾つもの生首がぶら下がっていた。
 獲物の数を誇らしげに飾るように。中にはまだ、新鮮な血液を垂らし続けているものもあって。
 もう、とても同じ人間とは言えない醜悪な姿だった。

「敵だ。――君達は、彼らを倒さねば先に進むことすら出来ない」

            -+-+-+-+-+-+-

 血生臭い戦場に、乾いた拍手が木霊する。

「やるじゃないか。戦闘経験皆無の駆け出しだったらどうしよう、とか思っていたんだが」

 ジェイは歯に衣着せず言い放つ。
 バジルは応えない。安い挑発だと見て取れるから、憤ることもなく受け流す。
 だが、ピアノは引っかかった。

「莫迦にしないで!
 私の母国にだって魔物はいるわ。アイツ等に比べれば、こんなの程度が低すぎます!」
「そうだな。この程度の相手、簡単に叩き伏せてくれなくっちゃな?」

 くつくつと喉奥で笑うジェイ。からかわれたと気づいて、ピアノの顔が真っ赤に染まる。

「それで? 私たちは、貴方のお眼鏡にかなったというわけですか?」

 激昂しかけたピアノを制して、バジルが尋ねる。

「俺の実力も見せたろ? これで、お互いが何を得意としているか把握出来たはずだ。
 バジルさん、あんたは元素魔術かな。遠距離からの狙撃も、得意とするところのようだ。
 嬢ちゃんは近接からの物理攻撃――」
「魔法です!」
「あ、ああ、…魔法だな。レイピアでも振るっているかのような動きだったが、我流かい?」

 黒衣の召喚術師は、更に弱点の指摘から、連携による欠点の補い方、応用戦術を披露してみせる。
 それは、塔で戦闘の知識を学んできたバジルですら、見事と思わせる分析と経験の披露であった。

「貴方が私に声をかけてきた理由が、やっと分かりましたよ」

 白衣の魔術師が、ゆっくりと頷く。
 この男は、少女や私を利用することで、己の目的を遂げたいと考えているのだろう。
 目的の中身は分からないが、どうでもいいことだ。
 彼は暗に告げている。お前たちも、自分の目的のために俺を利用すればいいと。

「いいでしょう。私は貴方を信頼し、共に往きましょう」
「そうこなくっちゃ」
「私は納得しないわよ!」

 横槍を入れたのは、ピアノだった。
 心を決めかねている、複雑な表情。彼女には、すんなり提案を受け入れられない理由もある。
 だいたい、それならそうと最初から言ってくれればよかったのだ。
 財布を盗んで気など引かず、正面から頭を下げてくれば話を聞かないでもなかったのに。

「それだと嬢ちゃんは、俺を胡散臭い奴だと思って近づかなかっただろ?」
「もちろん!」
「オイ」
「……そ、そうですけど、少なくとも胡散臭さ度は今よりマシでしたわよ」

 やれやれ、とばかりにジェイは天を仰ぐ。
 どうやらこの素直じゃないお嬢様には、何かもうひと押しが必要らしい。

「俺たちが依頼提供所で受けた、最初の依頼については知ってるな?」
「ハムスター退治でしょ?
 ――財布返却の証拠に判をくれとか言っておきながら、依頼証文に捺させたのですわよね」

 ジト目を向ける少女に、青年は人差し指をスッと真横へ持ちあげた。
 指差す先、森の向こう側に何やら巨大な生物が蠢いているのが見える。
 ハムスターだった。
 抱きつきたくなるぐらいに丁度いい大きさの毛玉が、もふもふーっと両腕をあげて威嚇している。

「俺たちと一緒なら、ああいうのに抱きつき放題」
「一緒に往きますわ」

 パーティがまとまった瞬間である。

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