2011/10/31 (Mon) 焔の月 4日目＠アンジニティ日記

　これは備忘録だ。詳細は併記しねぇ、面倒くさいからだ。

　………？

　前にも言ったな、これ。
　俺様にしては、初回はあまりにも長い回想シーンだった。冗長に過ぎるって奴だな。
　誰に伝えるでもない備忘録を、長々と語ることに意味なんてありゃしねぇんだが。
　ってか、前回の備忘録だろこれ！ なんで日記登録忘れてるんだよ俺様！

　――ま。そんなわけで、アンジニティへと飛ばされてしまったわけだ。

　暴風雨と次元嵐を抜けて、なんとか辿りついたこのタルタスって街。
　やべえ。やべえってもんじゃねえよ。
　俺様、ふわふわ街を観光してたら、いきなり虫取り網で捕まってスタンガンで気絶したぞオイ。

　幽霊なのにな。
　
　冥界に通じる知識があれば、見鬼能力や触魂能力を魔力で補うこたぁ可能だけどよ。
　でも、会話もしたことねぇ相手に無理矢理取り押さえられてて昏倒させられる謂れはねぇよ！？

　気づいたときには、霊紐で足を結ばれた逆さ吊りで頭上っつーか地上では大鍋グツグツ。
　緑灰色の不穏なスープがポコポコ泡を弾いて煮えてんだぜ。どうよ、この景色。

　あわてて存在力低下させ、紐抜けと同時にバレルロール、一気に外へ逃げたけどよ。

　当然追いかけてきた、コック帽被った包丁親父とフォーク構えて泣き叫ぶ悪童たち。
　脇からいきなり飛び出してきた槍に串刺しにされ、ブラーンってぶら下がって死んでんの。
　ハハハ。

　....Oh。

　笑いごとじゃねぇよ！？
　なんだこの街。最凶の流刑地、重犯罪者が逝きつく終着駅たぁ聞いてたけどよ！？
　意味もなく死体で団子３兄弟作った重騎士が、ワハハと嗤いながら鎧ガチャらせて追いかけてくんだよ。
　怖ぇぇだろ！？　冗談じゃねぇよ！ 俺様、落ちた瞬間から餌にしか見られてねぇよ！？？？

　もう、慌てて街から飛び出したね。そりゃもう全力疾走ならぬ全力疾飛さ。
　でも俺様も食わねぇと生きていけねぇ。逃げがけに露天の果実や野菜を持ち逃げしちまったよ。
　ハハッ、晴れて犯罪者の仲間入りってやつだな！

　…ジーザス。

　にしても、露天なんてやっていけんのかあの街。実は食い物じゃなくて、毒物じゃねぇだろうな。

　人間不審になりかけているとこ、街外れで鉱物みたいな無表情の猫耳娘と知り合った。
　コーディアライト。鉱神の使徒らしい。神様に見捨てられたような地に、珍しく純粋な瞳をした少女だ。
　コイツがヤベエ色の果実を料理してくれた。
　キャットフードになった。いろんな意味で涙が止まらねえ。

　なんかもうどうでもよくなっているところ、ついに俺様の前に立ちふさがる敵が現れた。

「ギョギョ？」

　魚だった。手足が生えていた。ムキムキの。
　もう理性がマッハでピンチ。そろそろ誰か、ここがどーいう世界なのか説明しろよ！？

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　――と、まあ。ここまでが、前日の日記なわけだ。
　オイ背後の人、登録ぐらい忘れずにしておいてくれよな？

　結論から言うと、魚人には勝った。
　涙を流しながら許してくれと懇願して…いる風に気味悪く叫んでる魚。泣きたいのは俺の方だぜ…。

　精根尽き果てふらふら飛んでたら、眼下に例の猫耳娘コーディアライトが歩いていたので声をかけてみる。

「よう、お嬢ちゃん。俺様の熟れた果実を料理してみないかい？」

　表情をピクリとも動かさずに、ものすごく蔑まれた感じの視線を投げつけられた。あれ、なんで？

　理由も分からないまま謝り倒したら、今夜の飯を調理してくれた。案外いい奴だ、こいつ。
　ドッグフードになった。そろそろ鳥用の食事を作って欲しい。

　砂地を抜けた先は低地の山丘が聳えているらしい。
　長距離飛行になりそうだ。体力を蓄えるためにも、まずは寝ておくとしよう。
　ミミズクで幽霊だけど、夜に知らねぇ土地を飛ぶってのは結構怖いもんだ。俺様は慎重派なのさ。

　そんな俺様の前に、新たな敵が出現した。

「オイ」

　蒲焼だった。香ばしい匂いが食欲をそそる。
　手足が映えていた。その手足がとても長くて高くて、蒲焼状の頭は雲に隠れてよく見えない。
　あ、いや。もしかして雲じゃなくて蒸気じゃねえのかアレ。焼き立てジュワジュワの湯気か？
　分かるぜ。焦げの香りが芳醇に鼻孔をくすぐる。てめぇ、炭火焼きだろ。
　成層圏で太陽直火の遠赤外線で焼きましたってコノヤロウ笑わせてくれんじゃねぇか、ハハハ！

　右ストレートで吹っ飛ばされた。痛かった。…夢ならよかったのに。