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歌を唄う猫の夢

定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。

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 セルフォリーフには、カメーリエ分校という巨大施設がある。
 シェルハ・ウォルという名の分割世界、デーゲンリヒト国の首都に本校を持つ"魔法学校"だ。
 この施設に通う者は、古今東西和洋の区別なく、あらゆる魔法の基礎と応用を学ぶことが出来る。

 魔法が苦手な"魔法使い"夢猫ぴあのは、この学校に所属していた。
 師曰く『離れていても勉強の手抜きはさせませんからね』 ――まったく、失礼な話ですわ。
 私が浮かれて勉強をさぼるとでも思ってるのかしら。さぼってましたけど。

 各地に置かれたゲートを利用すれば、学校に繋がる次元路が開く。
 旅の仲間は男性ばかり。同じ部屋には泊まれないので、少女は学校付きの寮を借りている。

 同ミレッティ女子寮の一角、1003号室に遊びにきていたピアノは、部屋主である雛姫の前でため息をつく。
「ヒナキの部屋はあったかいですわね」
「そっちの部屋は、寒いの?」
「二階の端、階段傍だからかしら。なんだか底冷えしてる気がしますの」

 両腕を掻き抱き、震えるポーズを取りながらピアノは続けた。

「寒い日は鍋が恋しい季節ですわね、最近は食べてないですけど」

 その言葉に、雛姫は軽く小首を傾げる。

「鍋…? ぴあのちゃん、それってどんな食べ物なの?」
「…もしかしてヒナキは、鍋を食べたことがないのかしら?」

 意外な質問に、思わず質問で返してしまった。

 食べるより食べられる側だったりするのかしら…、と失礼なことを考えながら説明する。
 師と二人きりで囲んだ鍋の経験、寝物語や小説で得た一家団欒の雰囲気。
 身振り手振りを交えて、鍋の魅力をバリエーション豊かに伝えた。
 夢幻鳥の少女は、ふんふんと真剣に聞き入っている。

 ピアノ自身、大勢で鍋を囲んだ経験がないので、幾分想像が混じっていたかもしれない。
 うまく教えることが出来たか、自室に戻ってから不安に感じもした。
 しかし結果的に見れば、今日の話は彼女の興味を、とても強く惹きつけていたらしい。

 数日後。雛姫は喜色満面の笑顔で告げてきた。

「ラナさんのところで、鍋パーティ、しましょう!」

            -+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-

 ラナさんとは、成人部"ゲルブ"に所属しているラナンディア・フェルシュング先輩のことだ。
 毛先にいくにつれ灰銀から黒へ変化する、不思議なグラデーションの髪を三つ編みにしているのが特徴的で、
 頭上にはいつもヘッドフォンを装着している。本人曰く「これは身体の一部だよー」とのこと。

「でも、何も用意しないってわけにもいきませんわよね」

 腕組みし、悩みにふけりながら市街を歩く。
 通りに並ぶ果実や野菜は瑞々しく美味しそうだが、食材はだいたい手配してあると聞いていた。
 何も持ってこなくていいよと言われているが、それでは心苦しくもある。

「あら、ミレーユさん?」

 客入り盛況な区画から離れた露店を覗いている、白いワンピースドレスの女性を目に止めた。
 ミレーユ・フェイビア。彼女自身はカメーリエ分校の生徒ではない。
 だが、ラナ先輩と雛姫、両名と共に旅していることから知己を得させていただいている。
 淡青色の華飾りが似合う可愛らしいお嬢様だが、背負っているのは使いこまれた黒鉄の猟銃だ。

 声をかけようと近づいたが、彼女が籐籠に収めているものに気づいて足を止める。

(パン、ですか。
 サイドメニューにも気配りされてるだなんて、よく気が付く方ですのね)

 このまま御一緒して、買い物を手伝った気分に浸るのも具合が悪い。
 くす、と挑戦的な笑みを浮かべ。

(負けてられませんわ。私も何か食材ゲットしてきませんと!)

 場を離れようと、身を翻す。
 その一瞬――、目端に、彼女がチョコを購入していたように見えた。

 チョコは………。………。鍋に合う食べ物でしたかしら……?

(あ、食後のデザートですのね。…さすがです!)

 この時に気づかなかったことを、ピアノは死ぬほど後悔する。

            -+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-

 "逃げるお肉"は、ぐしゃぐしゃになった。
 仲間が「あれは霜降り肉ですよ」と評価していたから、きっと美味しいものだと思うのだが。
 傘を振って肉汁を弾き飛ばしながら、「ふう」と疲れを吐息に逃がし。

 やはり、食材を外界の怪物に求めるのは無理があるようだ。
 しかし露店食材では、準備済みの食材とかちあうことは想像に難くない。
 山菜という線も考えたが、この世界の山は一人旅に優しくなかった。

「……せ、せめてジュースか何かを持っていけばよろしいですわね!」

 ラナ先輩なら、笑って「気にしないで」と言ってくれるはずだ。
 鍋パーティの刻限が迫っている。これ以上、外で時間を潰すわけにはいかなかった。

 割り切った足取りは軽い。

 師匠が言っていた。鍋は、みんなで囲んで食べるから美味しいのだと。
 独りで食事をとるのは楽だが、空腹を埋める作業にしかならない。

 雲の上の世界は人が少なく、また、彼女と同世代の子供は皆無だった。
 だからピアノにとって、この集いは初めての『友達とのパーティ』になるのだ。

 だが―――、


+斜+
(ENo.825 ラナンディア・フェルシュングさんの日記に続く。
 この日記は、ENo.1445 雛姫さん、ENo.209 ミレーユ・フェイビアさんの日記と同軸時間帯です)
-斜-

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ふらふらと漂う木片。
つれづれなるまま、
書き綴ってます。

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