歌を唄う猫の夢
定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。
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"ツァオベラー・フェスト" ――午前10時。
セルフォリーフ設立カメーリエ分校で行われる、分割世界の様々なシヴィライゼーションを集約した大文化祭の名称だ。
開催期間中は外来の一般客も自由に来校可能で、校内各所に生徒有志で運営される模擬店や展示ルームを楽しむことができる。
期間は二日。本日は、異世界シェルハ・ウォルの黄金卿騎士団大演武パレードや、名物教師ルナリア先生の人形劇が予定されている。
明日は異文化交流を主目的としたフリーマーケットが設けられ、特設ステージではアイドルグループ『KT2』のライブが開かれるとか。
両日とも、数多くのカフェや屋台が出店しており、迷路お化け屋敷や児童絵画コンテストなどのイベント展示も行われていた。
セルフォリーフ設立カメーリエ分校で行われる、分割世界の様々なシヴィライゼーションを集約した大文化祭の名称だ。
開催期間中は外来の一般客も自由に来校可能で、校内各所に生徒有志で運営される模擬店や展示ルームを楽しむことができる。
期間は二日。本日は、異世界シェルハ・ウォルの黄金卿騎士団大演武パレードや、名物教師ルナリア先生の人形劇が予定されている。
明日は異文化交流を主目的としたフリーマーケットが設けられ、特設ステージではアイドルグループ『KT2』のライブが開かれるとか。
両日とも、数多くのカフェや屋台が出店しており、迷路お化け屋敷や児童絵画コンテストなどのイベント展示も行われていた。
二層体育施設から響き渡る大演武パレードの演奏を耳にしながら、夢猫ぴあのは正門前の白い石畳を歩いていた。
周囲には飲食物を販売する屋台が所狭しと並んでいて、大勢の客で賑わっている。
「正門がこちらだから、迷子預り所は…。…ああもう、面倒くさいですの」
生徒用マップを片手に愚痴をはく。人が多すぎて走れないのが、とてももどかしい。
搬入用に確保されている小道を使えば、目的地へショートカットできるはず。
そう考えてルート入口である正門に戻ってきた処で、ふと、左手側から駆けてくる人影に気が付いた。
「え、マイ!?」
腰まで伸びた黒髪、焦点が掴みにくい赤色の瞳、身体のラインが浮き出たボディスーツ。
つい最近知り合った女の子。名前は西圓寺真衣。マイと呼んで下さいと、抑揚の薄い声で自己紹介された。
「奇遇ですわね、こんな処で…。…って、え?」
真衣は駆け寄るなり、ピアノの腕をギュッと抱きしめる。
感情表現の苦手なマイにしては、焦りが色濃く覗いているように思えた。
「ピアノさん、助かりました。
私は今日、ここで一日待機しなくてはなりません。時間を浪費する手法をさがしています。何か、ないでしょうか」
「えっと……。つまり、フェストを楽しみにきたのかしら?」
意味が伝わっていないのか、少女は"ぼーっ"とピアノを見上げ、しばらくしてコクンと頷く。
「明日、KT2のライブがあるのです。それに参加するため、今日は一日待機です」
「……なんとなくわかりましたわ」
急いでるのに、なんと間の悪い遭遇だろう。
しかし頼ってくれている相手を置いて自分を優先し、無意味に待たせてしまうのも忍びない。
「そうだ。じゃあ、私に付いてきて下さいます? ついでに校内の案内もしてさしあげましてよ」
マイがしがみつく力が一段と強くなった。
胸おっきいですわよね、この子。自分と比べて複雑な心を覚えつつ、ピアノは迷子を拾って先を急ぐ。
-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
目的の店は、正門からまっすぐ伸びた石畳の終着点付近、交差路から少々奥まった場所に居を構えている。
黒布で覆われた小さなテントの入り口には、石繋ぎのチェーンで吊られた薄い茶色の木看板。
さりげなく天然石が埋めこまれた品のいい看板に、手書きで記されている店名は、
「クライノート・ガダーニエ…、"宝玉のまじない"という意味でしょうか」
「ええ。宝石や貴石に関する様々な物事を取り扱っている店で、護符や守護石の販売もされてますのよ」
関心を示した真衣に教え、「フィリーディスさん、ピアノです」と声掛けしつつ入口をくぐる。
「そろそろ来られる頃だと思ってました」
二人客が入ればもう満室という狭い空間に、柔らかなボーイソプラノが響いた。
「ごめんなさい、少し遅れてしまいましたの。パレードから抜けるのに手間取りまして」
「ああ、それは仕方が無いですね。中継を見ていましたが、素晴らしい演武でした。まさに絢爛豪華という呼び方が相応しい…?」
煌びやかな宝石を並べたアンティーク・テーブルの向こう側で、フィリーディスが科白の流れを止めた。
ピアノの袖をちょんと掴んだままの少女を、虹彩異色の双瞳が見つめる。
「こちら、西園寺真衣さん。外来客で私の友達です。種族は…アンドロイド、でしたかしら」
「はい。西圓寺真衣です。真衣とでもお呼びください」
「あちらがフィリーディス・K・ウェーハスハールさん。私の魔法の家庭教師さま」
「家庭教師はやめてください……僕達の関係はあくまで互いの苦手分野を補い合う、いわば協力関係と呼ぶのが正しいでしょうから」
立ち上がったフィリーディスが、先程より若干硬めの声質で挨拶し、握手を求めた。
「アンドロイド、ですか。
僕の世界にも"マリオネッタ"はありましたが、ここまで高度な自律思考を持った機巧の方は初めて見ますね」
「私も最初は、使い魔か何かを組み込んでいるに違いないと疑ってましたの」
「……私は、特殊なのだと"博士"は仰っていました」
たどたどしいながらも、真衣は自分を説明しようとする。
感情回路が不具合を起こしているため上手く言葉を繋げられないのだが、そこはピアノが口を挟んでサポートした。
話題は"アンドロイド"から"オーリングテスト"の話に移り、盛り上がりをみせて楽しい時間が流れる。
「そういえば、ピアノさんの用事がまだでしたね」
店主が会話の合間を見計らって促した。
ピアノはハッと顔をあげ、懐からそっとブルーグルーンに光る鉱石を取り出す。
「先日茶会で戴いた魔法石ですが…。…フィリーディスさんならペンダントに加工できませんかしら」
貰った当人に持ち運びやすくするべく加工をお願いする、そんなばつの悪さに恐縮しながら訊ねる。
フィリーディスは苦笑気味に「構いませんよ」と答えてくれた。
「クライノート・ガダーニエは、そういうお客さまの需要もお待ち申し上げていましたから」
微笑みに、ほっと胸をなでおろす。
「す、すみません。あともうひとつお願いしたいのですが!」
束の間、更に重ねてお願いをした。フィリーディスは小首を傾げる。
ピアノは真衣の肩を後ろから掴み、一歩分前へ強く押し出して、
「この子の服装が目に毒なので、何かコートみたいなもの貸して戴けませんか!?」
身体のラインにぴったり沿ったボディライン。胸のふくらみや腰のくびれも艶めかしく。
戦時中なら動きやすいコスチュームでも、フェストの最中ともなれば男どもの好奇な視線を集めるだけ。
「……少々お待ち下さい。何か、手頃なものを探してきますから」
どうやら彼も気になってはいたらしい。安堵を含んだ感情を置いて、天幕の奥へ探しにいく。
後程判明したことだが、真衣の服飾は"ナノマシン"とやらで形状変化できるらしく、結果的には意味のないやり取りだった。
-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
「いらっしゃいませ、ご主人様♪」
「オーダー、繰り返します。苺のミルフィーユ、レモンチーズケーキ、紅茶がおふたつですね」
「マリナ、3番テーブルお願い。カレンは2番を片付けて」
正午を迎え、メイド喫茶『羽の休息所』は、昼時を迎えて相当に混雑を激しくしている。
主力メニューは三種類のケーキ。ドリンクはポット淹れの紅茶に、こだわりの珈琲が用意されている。
ランチメニューとは言い難い品揃えだが、スペースとして借りている食堂棟の外には長居行列も出来ていた。
おそらく昼時に設けられたイベントの間隙を縫って、休息に、あるいは物見に来た者が多いのだろう。
事の始まりは、他客同様に、休息のため三人が喫茶店へ訪れたことから始まる。
そこにいたのは、尋常ならざる客の群れに慌てふためくパーミル・クレセント。
アイドルグループKT2繋がりで、マイ筆頭に巻き込まれたフィリーディス、ピアノは、いつの間にか臨時従業員となって働いていた。
接客経験のない彼女たちが案外上手に対応できている理由は、パーミルの急仕込みな指導があったからだろう。
他にも、メイド喫茶という一種の異様な雰囲気が、多少のミスを見逃してくれているのかもしれない。
「お客様、メニューをお伺――」
完璧な営業スマイルをにこやかに浮かべながら、窓際のテーブルへ近づいたフィリーディスが突然くるりと反転した。
更には、オーダーも取らず立ち去ろうとしたので、偶然見つけたピアノが小走りに歩み寄る。
「どういたしましたの?」
「………」
青ざめた表情。具合でも悪くなったのかと想像し、接客を引き継ぐべく一歩踏み出したピアノは固まった。
――これは、凄まじく大ピンチな状況ですの!?
「もしかして、フィリーディもがもがもがっ!?」
ガタリと椅子を揺らして立ち上がったリラ(高等部)の友人、ヒナキの口を慌てて塞ぐ。
空いた逆手で唇に人差し指を立て、しーっ、と『黙っていてお願い』サインを送るが、ヒナキに通じている様子が無い。
仕方がない話ではあった。彼女たちが懇意にしている"少年"が、"メイド服姿"で給仕する姿を目撃してしまったのだから。
「あらあら…。フィリーディスさんは、メイドさんの格好もお似合いになるのですね」
ぽわわんと言ってしまったのは、外部から一般参加している白いワンピース姿のお嬢様、ミレーユ。
声は小さめだったため周囲に響かず助かったが、彼女のトークをこれ以上停める手段が無い。
諦めたのか、フィリーディスが戻ってきた。すぐに我を取り戻したらしく、誰が見ても"超いい笑顔"で言い放つ。
「何か見えましたか? きっと貴方たちの目の錯覚ですよ」
ピアノはフィリーディスの顔を直視できない。…こ、困りましたわ。どう見てもぶちきれ寸前ですのよ!?
そんな彼の心を知ってかしらずか、最後のひとり、ラナことラナンディア・フェルシュングが「大変だねー」と全く心配してる様子に見えない顔で告げた。
「もしかしてフィリーディス君、……そういうご趣味だった?」
ぷちん。――そんな音がリアルで聴こえた気がする。
「マイー! マイー! フィリ、…いえ、"例のあの子"が具合悪いみたいだから、奥へお連れしてくださいな!」
慌てて叫ぶピアノに呼応し、マイがスタスタ歩いてくる。
そのまま、ふるふる身体を小刻みに震わせていたフィリーディスを羽交い締めにし、持ち上げて、持っていった。
一同唖然となる光景を見送って、ピアノは重々しくため息をつく。
「ラナ先輩、あとでどうなっても知りませんわよ」
「えっ、僕、何かまずいこと言った?」
冷や汗を浮かべるラナンディアから、見捨てるように目線を逸らし。
フィリーディスの正体が男の子だということは、『羽の休息所』臨時従業員の禁句事項なのだ。
「三人とも、内緒にしておいてねー♪」
横から声かけしてきた狐耳メイドの花蓮が、軽くウィンクしながら隣のテーブルへケーキを運んでいった。
かれんさんも、この三人とお知り合いだったのかしら、とピアノは小首を傾げたが、すぐに思案どころではなくなった。
何故なら、
「ピアノ、仕事に戻らないとパーミルが睨んでるよ」
メイド衣装を颯爽と着こなすマリナ=ルイーズ=スペクトラが、こっそり耳打ちで教えてくれたからだ。
振り返ると口元を三日月に釣りあげたパーミルが、愛用の二丁拳銃を取り出そうとしている姿。
「お、おお、オーダー取りますわねっ。本日のおすすめはこちらの――」
※『ツァオベラー・フェスト 参加中!』Eno.40,66,137,209,317,825,1445,2151 の方々をお借りしています。文字数都合で名前省略ごめんなさい。
-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
混雑を乗り切り、状況が落ち着いた時には既に午後2時を過ぎていた。
見送りに出てきてくれた正規従業員三人娘に手を振って別れる。
フィリーディスはすでにいなかった。自分の店を開けに戻ったのか、ラナ先輩達を追い詰めに出かけたのか。
「マイ。なんだか、巻きこんでしまったみたいでごめんなさい」
予想に反し、真衣は首を横に振る。そして、いつもの無表情のまま告げた。
「いえ、貴重な体験と理解します。それに、まだフェストは始まったばかりではないでしょうか?」
その言葉にピアノはふふっと微笑みを浮かべて、大切な友達の手を取った。
フェストはまだ、始まったばかり――。
周囲には飲食物を販売する屋台が所狭しと並んでいて、大勢の客で賑わっている。
「正門がこちらだから、迷子預り所は…。…ああもう、面倒くさいですの」
生徒用マップを片手に愚痴をはく。人が多すぎて走れないのが、とてももどかしい。
搬入用に確保されている小道を使えば、目的地へショートカットできるはず。
そう考えてルート入口である正門に戻ってきた処で、ふと、左手側から駆けてくる人影に気が付いた。
「え、マイ!?」
腰まで伸びた黒髪、焦点が掴みにくい赤色の瞳、身体のラインが浮き出たボディスーツ。
つい最近知り合った女の子。名前は西圓寺真衣。マイと呼んで下さいと、抑揚の薄い声で自己紹介された。
「奇遇ですわね、こんな処で…。…って、え?」
真衣は駆け寄るなり、ピアノの腕をギュッと抱きしめる。
感情表現の苦手なマイにしては、焦りが色濃く覗いているように思えた。
「ピアノさん、助かりました。
私は今日、ここで一日待機しなくてはなりません。時間を浪費する手法をさがしています。何か、ないでしょうか」
「えっと……。つまり、フェストを楽しみにきたのかしら?」
意味が伝わっていないのか、少女は"ぼーっ"とピアノを見上げ、しばらくしてコクンと頷く。
「明日、KT2のライブがあるのです。それに参加するため、今日は一日待機です」
「……なんとなくわかりましたわ」
急いでるのに、なんと間の悪い遭遇だろう。
しかし頼ってくれている相手を置いて自分を優先し、無意味に待たせてしまうのも忍びない。
「そうだ。じゃあ、私に付いてきて下さいます? ついでに校内の案内もしてさしあげましてよ」
マイがしがみつく力が一段と強くなった。
胸おっきいですわよね、この子。自分と比べて複雑な心を覚えつつ、ピアノは迷子を拾って先を急ぐ。
-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
目的の店は、正門からまっすぐ伸びた石畳の終着点付近、交差路から少々奥まった場所に居を構えている。
黒布で覆われた小さなテントの入り口には、石繋ぎのチェーンで吊られた薄い茶色の木看板。
さりげなく天然石が埋めこまれた品のいい看板に、手書きで記されている店名は、
「クライノート・ガダーニエ…、"宝玉のまじない"という意味でしょうか」
「ええ。宝石や貴石に関する様々な物事を取り扱っている店で、護符や守護石の販売もされてますのよ」
関心を示した真衣に教え、「フィリーディスさん、ピアノです」と声掛けしつつ入口をくぐる。
「そろそろ来られる頃だと思ってました」
二人客が入ればもう満室という狭い空間に、柔らかなボーイソプラノが響いた。
「ごめんなさい、少し遅れてしまいましたの。パレードから抜けるのに手間取りまして」
「ああ、それは仕方が無いですね。中継を見ていましたが、素晴らしい演武でした。まさに絢爛豪華という呼び方が相応しい…?」
煌びやかな宝石を並べたアンティーク・テーブルの向こう側で、フィリーディスが科白の流れを止めた。
ピアノの袖をちょんと掴んだままの少女を、虹彩異色の双瞳が見つめる。
「こちら、西園寺真衣さん。外来客で私の友達です。種族は…アンドロイド、でしたかしら」
「はい。西圓寺真衣です。真衣とでもお呼びください」
「あちらがフィリーディス・K・ウェーハスハールさん。私の魔法の家庭教師さま」
「家庭教師はやめてください……僕達の関係はあくまで互いの苦手分野を補い合う、いわば協力関係と呼ぶのが正しいでしょうから」
立ち上がったフィリーディスが、先程より若干硬めの声質で挨拶し、握手を求めた。
「アンドロイド、ですか。
僕の世界にも"マリオネッタ"はありましたが、ここまで高度な自律思考を持った機巧の方は初めて見ますね」
「私も最初は、使い魔か何かを組み込んでいるに違いないと疑ってましたの」
「……私は、特殊なのだと"博士"は仰っていました」
たどたどしいながらも、真衣は自分を説明しようとする。
感情回路が不具合を起こしているため上手く言葉を繋げられないのだが、そこはピアノが口を挟んでサポートした。
話題は"アンドロイド"から"オーリングテスト"の話に移り、盛り上がりをみせて楽しい時間が流れる。
「そういえば、ピアノさんの用事がまだでしたね」
店主が会話の合間を見計らって促した。
ピアノはハッと顔をあげ、懐からそっとブルーグルーンに光る鉱石を取り出す。
「先日茶会で戴いた魔法石ですが…。…フィリーディスさんならペンダントに加工できませんかしら」
貰った当人に持ち運びやすくするべく加工をお願いする、そんなばつの悪さに恐縮しながら訊ねる。
フィリーディスは苦笑気味に「構いませんよ」と答えてくれた。
「クライノート・ガダーニエは、そういうお客さまの需要もお待ち申し上げていましたから」
微笑みに、ほっと胸をなでおろす。
「す、すみません。あともうひとつお願いしたいのですが!」
束の間、更に重ねてお願いをした。フィリーディスは小首を傾げる。
ピアノは真衣の肩を後ろから掴み、一歩分前へ強く押し出して、
「この子の服装が目に毒なので、何かコートみたいなもの貸して戴けませんか!?」
身体のラインにぴったり沿ったボディライン。胸のふくらみや腰のくびれも艶めかしく。
戦時中なら動きやすいコスチュームでも、フェストの最中ともなれば男どもの好奇な視線を集めるだけ。
「……少々お待ち下さい。何か、手頃なものを探してきますから」
どうやら彼も気になってはいたらしい。安堵を含んだ感情を置いて、天幕の奥へ探しにいく。
後程判明したことだが、真衣の服飾は"ナノマシン"とやらで形状変化できるらしく、結果的には意味のないやり取りだった。
-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
「いらっしゃいませ、ご主人様♪」
「オーダー、繰り返します。苺のミルフィーユ、レモンチーズケーキ、紅茶がおふたつですね」
「マリナ、3番テーブルお願い。カレンは2番を片付けて」
正午を迎え、メイド喫茶『羽の休息所』は、昼時を迎えて相当に混雑を激しくしている。
主力メニューは三種類のケーキ。ドリンクはポット淹れの紅茶に、こだわりの珈琲が用意されている。
ランチメニューとは言い難い品揃えだが、スペースとして借りている食堂棟の外には長居行列も出来ていた。
おそらく昼時に設けられたイベントの間隙を縫って、休息に、あるいは物見に来た者が多いのだろう。
事の始まりは、他客同様に、休息のため三人が喫茶店へ訪れたことから始まる。
そこにいたのは、尋常ならざる客の群れに慌てふためくパーミル・クレセント。
アイドルグループKT2繋がりで、マイ筆頭に巻き込まれたフィリーディス、ピアノは、いつの間にか臨時従業員となって働いていた。
接客経験のない彼女たちが案外上手に対応できている理由は、パーミルの急仕込みな指導があったからだろう。
他にも、メイド喫茶という一種の異様な雰囲気が、多少のミスを見逃してくれているのかもしれない。
「お客様、メニューをお伺――」
完璧な営業スマイルをにこやかに浮かべながら、窓際のテーブルへ近づいたフィリーディスが突然くるりと反転した。
更には、オーダーも取らず立ち去ろうとしたので、偶然見つけたピアノが小走りに歩み寄る。
「どういたしましたの?」
「………」
青ざめた表情。具合でも悪くなったのかと想像し、接客を引き継ぐべく一歩踏み出したピアノは固まった。
――これは、凄まじく大ピンチな状況ですの!?
「もしかして、フィリーディもがもがもがっ!?」
ガタリと椅子を揺らして立ち上がったリラ(高等部)の友人、ヒナキの口を慌てて塞ぐ。
空いた逆手で唇に人差し指を立て、しーっ、と『黙っていてお願い』サインを送るが、ヒナキに通じている様子が無い。
仕方がない話ではあった。彼女たちが懇意にしている"少年"が、"メイド服姿"で給仕する姿を目撃してしまったのだから。
「あらあら…。フィリーディスさんは、メイドさんの格好もお似合いになるのですね」
ぽわわんと言ってしまったのは、外部から一般参加している白いワンピース姿のお嬢様、ミレーユ。
声は小さめだったため周囲に響かず助かったが、彼女のトークをこれ以上停める手段が無い。
諦めたのか、フィリーディスが戻ってきた。すぐに我を取り戻したらしく、誰が見ても"超いい笑顔"で言い放つ。
「何か見えましたか? きっと貴方たちの目の錯覚ですよ」
ピアノはフィリーディスの顔を直視できない。…こ、困りましたわ。どう見てもぶちきれ寸前ですのよ!?
そんな彼の心を知ってかしらずか、最後のひとり、ラナことラナンディア・フェルシュングが「大変だねー」と全く心配してる様子に見えない顔で告げた。
「もしかしてフィリーディス君、……そういうご趣味だった?」
ぷちん。――そんな音がリアルで聴こえた気がする。
「マイー! マイー! フィリ、…いえ、"例のあの子"が具合悪いみたいだから、奥へお連れしてくださいな!」
慌てて叫ぶピアノに呼応し、マイがスタスタ歩いてくる。
そのまま、ふるふる身体を小刻みに震わせていたフィリーディスを羽交い締めにし、持ち上げて、持っていった。
一同唖然となる光景を見送って、ピアノは重々しくため息をつく。
「ラナ先輩、あとでどうなっても知りませんわよ」
「えっ、僕、何かまずいこと言った?」
冷や汗を浮かべるラナンディアから、見捨てるように目線を逸らし。
フィリーディスの正体が男の子だということは、『羽の休息所』臨時従業員の禁句事項なのだ。
「三人とも、内緒にしておいてねー♪」
横から声かけしてきた狐耳メイドの花蓮が、軽くウィンクしながら隣のテーブルへケーキを運んでいった。
かれんさんも、この三人とお知り合いだったのかしら、とピアノは小首を傾げたが、すぐに思案どころではなくなった。
何故なら、
「ピアノ、仕事に戻らないとパーミルが睨んでるよ」
メイド衣装を颯爽と着こなすマリナ=ルイーズ=スペクトラが、こっそり耳打ちで教えてくれたからだ。
振り返ると口元を三日月に釣りあげたパーミルが、愛用の二丁拳銃を取り出そうとしている姿。
「お、おお、オーダー取りますわねっ。本日のおすすめはこちらの――」
※『ツァオベラー・フェスト 参加中!』Eno.40,66,137,209,317,825,1445,2151 の方々をお借りしています。文字数都合で名前省略ごめんなさい。
-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
混雑を乗り切り、状況が落ち着いた時には既に午後2時を過ぎていた。
見送りに出てきてくれた正規従業員三人娘に手を振って別れる。
フィリーディスはすでにいなかった。自分の店を開けに戻ったのか、ラナ先輩達を追い詰めに出かけたのか。
「マイ。なんだか、巻きこんでしまったみたいでごめんなさい」
予想に反し、真衣は首を横に振る。そして、いつもの無表情のまま告げた。
「いえ、貴重な体験と理解します。それに、まだフェストは始まったばかりではないでしょうか?」
その言葉にピアノはふふっと微笑みを浮かべて、大切な友達の手を取った。
フェストはまだ、始まったばかり――。
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