2011/11/14 (Mon) 焔の月 6日目＠アンジニティ日記

　負けた。
　相手を肉塊と侮っていた俺様の慢心が原因だ。

　だが、聴いてほしい。

　18時から半額セールの値札が貼られているようなビーフが殴ってくるとか、誰が想像しただろうか。
　少なくとも俺様は知らなかった。
　プラスチックのパックにも入れられていない現品売りのクズ肉が、あんなに早くて強いとは。

　なるほど、主婦は重戦車の代名詞といわれるわけだ。
　あんな化け肉をモノともしない強靭さがあるからこそ、家庭を守れる。そういういうことか。
　スーパーマーケットを軋ませる恐ろしき怪獣の群れを想像しながら、俺様は安らかに気絶した。

　翌日。天候は生憎の土砂降りだった。
　俺様は、誰かの腕の中に抱かれていることに気付く。
　鉱神の使徒コーディアライト。
　冷えた視線を持ち、表情変化の乏しい少女だが、料理の腕前は逸品だ。

「よう。元気がねぇな？」
「………ん」

　見れば、コイツもかなり傷ついてやがる。
　外敵の少ない上空でさえボロボロにされるんだ、地表を歩くしかない女の子の一人旅じゃ厳しかろう。
　だが、コーディは俺様を膝枕に乗せて優しく撫でる。
　罪人の楽園ともいわれるアンジニティで、悪徳に染まらず生きていくのはとても難しい。
　彼女もまた、何かを背負っているのかもしれない。
　手に入るかどうかも分からない何かを探して、霧に閉ざされた未来へ進む。

　――知ってるぜ。そういう、不器用な生き方しか出来ない奴もいるよな。

「今日は寒いな」
「………ん」

　コクリと頷く猫耳の少女に微笑んで、俺様は再び目を閉じる。

　次に目覚めた時、彼女はもういなかった。傍らに残されたのは、調理済みのフグの肝。
　雨はいつの間にか止んでいた。