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歌を唄う猫の夢

定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。

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[ -Recollection- ]

 
 言葉はなかった。
 ただ、手を差し出して、手を採った。

 それだけの関係。


  -+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
[ Alwan's Eye -Travel Side- ]


 目が覚めたら、角に白いレースのリボンが結ばれていた。


 荒々しく息を切って、忌々しい羽兎娘を探す。
 右に視線。左に視線。空にも視線。振り返ることも忘れずに。

「って、前かよ! しかも隠れてるようにみせてるだけだろテメェ!」
「えーっ! そんなっ、完璧に隠れたと思ってたのに~!」

 ぴょこぴょこと大地を蹴って走る。
 以前の黒猫型に対して、なんと動きにくい借宿か。
 これは慣れるまで、随分と時間がかかりそうだ。

「ウサギの耳、おそろいだねー☆」
「嬉しかねェよ、コンチキショウ!」

 ペコッと転んだ。
 そのままコロコロと草むらに飛び込んで太い常緑樹の幹に顔をぶつけて停まる。

「だいじょうぶー?」

 動かない黒兎を、リスティスはそっと覗き込む。
 アルワンは仰向けに倒れたまま、ぼそっと小さく言葉を呟いた。
 と、同時に跳ね起き、まとわりつく草葉の切れ端を振るい落とした。

「あはっ。だいじょーぶそうだね☆」

 反射的に意味不明の怒声を撒き散らし、ますますムキになってリスティスを追いかけ始めるアルワン。
 小さな羽根を背に持つ少女は、手を叩いて『鬼さんコチラ』と楽しそうに囃し立てていた。


  -+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
[ Flare's Eye -Travel Side- ]

 ジッと、身動きどころか瞬きひとつせず見つめる。
 嘘や誤魔化しは、絶対に見抜くという意思を込めて。

 どうしたものか、という表情を浮かべていたラピスラズリだったが、根負けしたのか、わずかに溜め息をついた。

「単純なこと。穴が開いてるバケツに、水を汲みいれる論理」
「嘘。そんな単純な話じゃない」

 ふれあは即座に断定した。
 理解して否定したわけじゃない。まず最初は嘘をつかれると、確信しての返答だ。
 それを見透かして、なお、ラピスラズリは答えを重ねた。

「確かに単純な話じゃないけど、嘘は言ってない。
 生命力の変換論理。精霊なら知識は持ってなくとも、習性として理解してるはず」

 う、と反応に詰まる。
 結局、術式のカラクリを問い詰めてみても、返ってくる説明が己に取り込めるわけではない。
 
「でも、私は……」

 手に残る感触。神殺しの罪。
 感情もなく多くの命を詰んだ過去を持ち、今更増える罪に怯えている。
 後悔は、しないけど。 

「カウンセリングは得意じゃないけど」

 魔術師の少女は一声添えおいて、火串で炭を掻き回した。
 焚き火は新鮮な空気を取り込み、バチリと音を立てて爆ぜる。

「アニエスは、アルワンを消滅させたら自身も消滅――あるいは、知能ごと神威を剥奪されてたはず。
 天使とは、目的遂行のために神が作り出した自律システムに他ならない。
 なら、アニエスが採った行動は、それを支配する神が認めたということになる」

 真実の側面。――確かに、それも、あるのかもしれない。
 嘘ではなくとも、詭弁のにおいがしていた。
 だが、ふれあには口答えが出来ない。
 結局自分は、神や魔法について何ひとつ知らないことに気づかされるだけだ。

「でも、ラズは何か大事なことを私に隠してる気がする」
「なにを?」

 意地悪な問いかけだった。
 解っていて切り替えしたに違いない。ただ、そこには暗黙のルールが入り込む。

「……いい。もう聞かない」

 腰掛けていた分厚い本から、ぴょんと飛び降りた。
 立てかけておいた剣を背負いながら、ふれあはただ一言だけ付け加えた。

「ありがと。アルワンを助けてくれて」


  -+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
[ Alwan's Eye -Travel Side- ]

 灰色に翳った雲が浮かんでいる。
 十六夜の美しい月光も、天候の阻害にあっては敗北する他無い。

 すやすやと優しい寝息。
 赤子のように警戒心のない寝顔。
 この2人は旅人として致命的なものを抱えていると、アルワンは思う。

「結局、何なんだこのリボンはよ」
「原始的な祭祀。縛りの言霊。あるいは清音による浄化。祭礼級の儀式法術」

 完全に解読できてはいないのだろう。ラピスラズリは現時点での推測を的確に述べる。
 黒兎は、あからさまに嫌な顔を見せた。
 ふかふかの柔らかい足で、眠るリスティスの頬をふにっと突く。

「あん? つまり、コイツも神族だって言いてェのか?」
「古来より、有羽根の一族は天使の末裔と云われている。崇拝する人もいる」

 ケッと舌打ちをした。
 ラピスラズリは、何の感情も浮かべずに淡々と述べる。

「でも、そんなに難しい話じゃない。神術とは奇跡の重合観測。つまり、お願い事」
「あーした天気にしておくれ――ってのと同じってか? 神様ナメンナ」

 真実はどうであれ。
 リスティスの行為が、アルワンにおける『水漏れ』を塞き止めていることに違いはない。
 魂を縫いぐるみに縛り、神力の衰微を抑え、簡易祭壇の効果まで発揮している。
 おそらく意図された機能ではないのだろう。緻密な術式でないからこそ、魔術師の少女は気づくのが遅れた。

 まったく、天然とは恐ろしいものだ。

「そんなことより、お前こそ理解してんのか?」

 アルワンは問う。
                  . .      . . .
「水ってのはな、移し変えたら減るもんだ。増えるもんじゃ無ェ」

 ラピスラズリは意外そうな顔をした。
 黒兎の瞳は笑っていない。とはいえ、パッチワークの瞳では表情も判断しにくいのだが。

「余計なことしたな。
 ――俺達の事情に、巻き込まれちまったぞ」

 核心に触れる言葉は、形にしない。
 ふれあもアルワンも、自分達がこの島に渡った本当の事情を話したことはない。
 もちろん、同行の2人からも聞いたことはない。
 特別な事情は、島に渡った人の数だけ存在しているのだから。

 お互いがお互いを利用している。それだけの関係。

「気にしなーい、気にしない。ひとやすみ、ひとやす…」

 ボソリと聞こえてきた寝言に、アルワンはギョッとして振り返った。
 リスティスの寝言。遺跡外で流れていたアニメーションの、有名なセリフのようだ。

 呆れる黒兎の虚を突いて、ラピスラズリが呟いた。

「少なくとも私は部外者じゃないかもしれない」
「………。なんだと?」

 剣呑な響きを覗かせたアルワンを横目に、ラピスラズリは自分の寝床へ潜り込む。

「もう遅い。おやすみ」

 何が遅いと言いたいのか。
 しかし、これ以上追求しても無駄だろう。一ヶ月も共に旅すれば、見えてくるものはある。
 悪い気はしなかった。むしろ、心地良い。

 俺様に出来ることはあるだろうかと、アルワンは考える。
 表現の不器用な三人娘。自分に与えられた役割は、さしずめ父親役なのだろうか――。


  -+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
[ Flare's Eye -Travel Side- ]

「むしろ末っ子?」
「うんうん。からかいがいあるし☆」
「お腹すいた。ご飯まだ?」

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