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歌を唄う猫の夢

定期更新ネットゲーム『Sicx Lives』の、 日記・雑記・メモ等が保管されていくのかもしれません。 昔は『False Island』のことを書いてました。

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[ -Recollection- ]

 時代を踏みしだき駆けよどこまでも

 我等が進む先に恐れるものなど何も無い

 星屑がひしめく舞台に形の無い夢を投げつけて

 蜃気楼の先にかすむ未来を引きずり落とせ


 -+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
[ Lythtis's Eye -Rest Side- ]


 ザザ…ザァ……ッ―――。

 暗い灰色に侵食された空から、水気にまみれた弾丸が降り注ぐ。
 予報に無い、にわか雨。
 悪態をつく者、用意良く傘を開く者、水溜りに飛沫を躍らせながら先を急ぐ者、様々に。

 年季を帯びたレンガに支えられた窓枠。
 雨粒に濡れて視界の歪むガラスに指を当てて、ぼんやりと街並みを見下ろす少女。

 追憶。
 押し寄せる過去。
 忘れたくても、忘れられない情景。

 忘れてはいけない、思い出。

「リズ、起きてる?」

 ガチャリと扉が圧し開かれ、小さな精霊の声が聞こえてきた。
 背丈の十倍以上の高さがあるドアノブを、どうやって動かしているのかは不明。
 ただ、いつもなら不思議に感じる光景も、今日は心を揺るがすことはない。

 振り返ることもなく、挨拶を返すこともなく、虚ろに視線を落とす。

 気がつけば、肩にわずかな重みを感じる。
 頬に当てられた、親指のつま先ほどの手のひら。
 外気に同調しているのか、氷のように冷たい。

 ふれあは何も喋らず、肩に座った。
 無表情に、しかし意思の込められた視線を、リズが見ている先へ向けている。

 温度差で曇り、用を成さない窓の向こう側へ。
  
「……お兄ちゃんを思い出してたの」

 ポツリと呟いた。
 語るつもりじゃなかったのに、不意に口からこぼれた。

「お兄ちゃん?」
「無理して、明るく振舞って、でも無茶していて、酷く衰弱して、……いつしか、倒れて」

 つまんない話だよ、と前置きして語る。
 誰かに伝えることが、過去の贖罪になるとは思えないけれど。

「枕元でずっと手を握ってた。もう二度と動かなくなるんじゃないかって、怖くて」

 そんなことないのにね、と力なく笑う。

「誰だって、自分の限界を超えて疲れたら、動けなくなるに決まってるんだもの。
 心配することなんかじゃないのにね。……変だよね」

 器に溜まっている、自らも底を見通せない濁った水。
 窓を叩きつける雨が、表面張力の抵抗を打ち破ってしまったのか。

 涙なんて、見せはしないけれど。

「ラズちゃんのこと、教えにきてくれたんだよね?」

 ふれあは「ん」と応えて頷いた。

「熱は引いた。呼吸も落ち着いてる。
 りんくしてる異界のぷーるから流れてくる魔力が多すぎて、しょりがおいつかなくて、
 ていこーがどーので体温があがってて、でも体力を犠牲にしてうんよーしてたけど
 ばっくあっぷがなんとかで、…ええと、くろっくあっぷがどうとか…」

 要領を得なかった。

「……って、アルワンが言ってた。もう大丈夫らしい」

 正確に伝えるため、必死に言葉を覚えてきたのだろう。
 ふれあの身振り手振りをまじえた大仰な説明に、リズは幾つもハテナを浮かべる。

 とはいえ、恐らく本人から直接説明を受けても、理解できないに違いない。
 努力型の神様や学者系の魔術師は、難しい理屈をこねないと魔法が使えないらしいから。

「そっか、ありがとね☆」

 とりあえず、体調が回復してきた事が解れば問題ない。
 召喚と同じで、強い力を呼び寄せるにはこっちも体力使うとか、そういう話なのだろう。

 ふれあがぴょこんと飛び降りた。体重を感じさせない軽やかな動きで絨毯の上へ着地する。
 大事なことは全て伝えたから、部屋へ戻ろうというのだ。
 昨晩はリズが起きてずっと看病していた。今は、ふれあがラズを見守る番。

 そんな彼女はトコトコと歩き、ふと小さな声をあげ、立ち止まった。

「そういえばさっきの話。倒れたのはお兄ちゃん? それとも、リズ?」

 不意打ちに息をのむ。
 
「無理はダメ。私も泣くから」

 悲しみの表情を作れない少女は、おやすみと手を振って扉の隙間を抜けていく。

 窓の外は雨。
 風の勢いを得て、いまや豪雨の様相を呈している。

(マイスター。どうかしたですか?)

 心に繋がる声。買い物に出していた妖精が、主の情操の乱れを察知して尋ねてきた。
 オーバーフロー。
 溢れた水は、寄り添いやすい壁を支えに流れてゆく。

 薄暗い部屋の中、もう一人の少女は密やかに微笑んだ。

(雨、ひどいでしょ? 今から迎えにいくから、そこで待っててねー)
(ええっ!? もう、お休みになられるのでは!)
(いいの。――なんだか、外を歩きたい気分なの☆)

 スキップを踏むように。
 薄く透き通る空色の傘を持って、リズは精霊の少女を追いかけるように扉を押した。

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セルフォリーフ:
ENo.58 夢猫ぴあの
アンジニティ:
ENo.106 梟霊アルワン

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ふらふらと漂う木片。
つれづれなるまま、
書き綴ってます。

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